ガンバ大阪・小野瀬康介が契約満了。「たくさんの宝物をもらった5年間でした」。今後についても言及。
ガンバ大阪にとって今シーズン最後の試合となった11月19日のプレシーズンマッチ、アイントラハト・フランクフルト戦。3日前にクラブから契約満了が発表された小野瀬康介は試合終了後、選手の列に加わって場内を一周し、スタンドに手を振って感謝を告げた。
「この5年間、応援してもらったサポーターの皆さんに少しでも感謝の気持ちを伝えられたらいいな、と。8日にスタッフとチームメイトへの挨拶をした時に散々泣いたから、もう泣かない。あそこで自分の気持ちに踏ん切りがついてスッキリしたから大丈夫。笑顔でサヨナラだな」
試合前にはそんなふうに話していたが、ホームサポーターが集まるゴール裏を前に、スタンドを見上げながら話し出すと言葉を詰まらせた。
「皆さん、1年間お疲れさまです。この1年、苦しいシーズンでしたが残留できて良かったです。みなさんと5年間一緒に戦えたことが本当に誇りです。これからも頑張っていきます……」
青く染まったゴール裏。掲げられた横断幕、ゲーフラが目に入り、自然と感情が込み上げる。スタンドから贈られた大きな拍手を聞きながら呼吸を整え、再び話し出した。
「来年はまた、対戦相手として戻ってこられるように、エージェントに精一杯戦ってもらいます(笑)! 長い間、お世話になりました!」
18年夏に加入したばかりの頃は「関西人じゃないから面白いことを言えない」と真顔で話していた小野瀬だが、5年の月日は彼の人間性にもきっと多くの刺激を与えたのだろう。しっかりとサポーターの笑いを誘って、挨拶を締め括る。その直後には、小野瀬が愛してやまなかった自身のチャントがスタンドから束になって届けられた。
「こんなに愛されているとは思わなかった。お気に入りのチャントだっただけに最後に歌ってもらって、送り出してもらい、スッキリしました。泣きそうになったけど…危なかったから一回、(話すのを)止めた。危なかった〜。本当に嬉しかったです。みなさん、お世話になりました」
最後は、笑顔でミックスゾーンを通り抜けた。
■「人生で一番泣いた」日。ガンバで過ごした5シーズンへの感謝。
鹿島アントラーズとのJリーグ最終戦を終えた翌日の11月6日。クラブから今シーズンの戦いに対する労いの言葉とともに、来シーズンの契約を更新する意思がないことを伝えられた。
「正直、今年は監督が交代してすぐくらいの時期に盲腸炎を患って…。とりあえず痛みは散らしてもらったものの体重が一気に落ちてしまって、なかなかコンディションが戻らず、パフォーマンスを取り戻すのにかなり時間がかかってしまった。そうした状況もあったのでダウン提示は覚悟して契約交渉の席についたんですけど、まさか満了だとは思っていなかったから。紙を渡された瞬間、頭が真っ白になり、平然を装うのに必死で、一刻も早くその場を離れたかったから強化部の方にも理由を尋ねることもせずに(部屋を)出てきてしまった。後になって今後のためにもちゃんと聞いておけば良かったなと思ったんですけど、聞いたところで評価が変わるわけではないし…というようなことを、家でずっと一人で考えていました」
クラブハウスを離れ、自宅に戻ってからも誰とも話す気になれず、家から一歩も出ずに過ごしたという。8日にはチームメイトに挨拶をすることが決まっていたため、そこで話すことを頭の中で整理しようとするものの、5年の日々を思い出すと涙が溢れ、それを拭って、また考えて、の繰り返し。結局、8日の朝には目をパンパンに腫らしたままクラブハウスに向かった。
「みんなに伝えたのは、正直、まだ自分は受け入れられていないということ。だけどこれが現実だ、ということ。こんなわがままで生意気だった僕を、常に愛情を持ってサポートしてくれたスタッフの皆さんに感謝しますってこと。チームメイトのみんなには、この苦しいシーズンを一緒に乗り越えられて良かったということを伝えて、個別に…特にプライベートを含めてお世話になった選手たちに思いを伝え、最後は、またみんなのいるステージに戻ってくることができるように頑張ってきます、みたいな感じで締めくくった。約1日半、家にこもっている時に、僕なりに伝えようと考えていたことの8割程度は伝えられたはず。いや…みんなの顔も涙で見えないくらい泣きながら話したから、伝わってないかも(笑)。とにかく、人生で一番泣いた。去年の解団式でも仲の良かった選手がいなくなっちゃったこともあり、見送る側として泣いたけど、今回はそれを遥かに上回った。でも、みんなに気持ちを伝えて大泣きしたら、なんだかスッキリしたというか。完全に消化できたわけじゃないけど、心の中にあった重いものがス〜ッと消えて、そこから飯も食えるようになったし、元気になった! 実際、そこを乗り越えてからは、また楽しい日々が戻ってきています!」
そんな話を聞いたのは、11月13日のこと。本人の言葉にもある通り、気持ちが整理できたせいか、表情もどこかスッキリとしていて明るい。ガンバで過ごした5シーズンについて尋ねると、まずは感謝の言葉が溢れた。
「トータルしたら、楽しかった、の一言に尽きます。本当に素晴らしい仲間に恵まれて、毎日、クラブハウスに行くのも、サッカーをするのもすごく楽しかった。個人的には初めてのJ1リーグで最初は不安もあったけど、周りのチームメイトに恵まれて、助けてもらって、時にはそれをプレッシャーにも感じて、自分の力を引き上げてもらった。『ガンバ大阪』のネームバリューや人気の高さのおかげで、自分の名前を全国区にしてもらえたと考えても、仲間にも、ガンバにも本当に感謝しかないです。サポーターにも…本当に、いつも彼らの存在が心強かったです。ガンバに在籍した5年間で一番嬉しかったのは、自分のチャントを作ってもらったこと。初めてそれを耳にした日から、すごく気に入って大好きになったし、自分を認めてもらえた気がしてすごく嬉しかった。それに応えなきゃいけないと思って、自分を奮い立たせることもできた。本当に感謝しています」
■「悔しさを燃やし続けて、ガンバから移籍してよかったと思えるように」。
一方で、その日々は、プレッシャーとの戦いであったことも明かした。
「ガンバはクラブ規模ということでも、獲得タイトル数ということでも、間違いなくビッグクラブ。だからこそ、これまで味わったことのないプレッシャーを感じることもありました。特にここ数年は、下位に低迷している状況が続いていましたから。以前はガンバで成功したい、もっと上にいきたい、という野心だけでサッカーをしていた自分が、徐々にチーム内での立場が変わっていく中で、チームのことを考えることが増え、結果が出ないことへの焦りみたいなものを毎年、感じるようになった。と言っても、貴史くん(宇佐美)が感じているそれとは比べ物にならないと思いますけど。ただ、そういう責任を感じながらプレーすることで成長できたかなと思うところもあり…だからこそ、それをガンバのタイトルにつなげられないままチームを離れるのは悔しいです。でも、これも人生なので。これだけ好きになったクラブのことを、契約満了になったから嫌いになるなんてことは絶対にないけど、ただ味わった悔しさは自分の力に変えていかなければ生き残れない世界なので。この悔しさを自分の中でしっかりと燃やし続けて『ガンバから移籍して良かった』と思えるようにすることが今の目標です。この5年間で、それをできる自分に成長させてもらったはずなので、次のクラブでも絶対に活躍してやろうって思っています」
自分に言い聞かせるように、言葉を紡ぐ。現時点で移籍先は決まっていないが、次のキャリアに向かうにあたっての思いも聞かせてくれた。
「貴史くんやヒガシくん(東口順昭)、弦太(三浦)には、プライベートでも本当にお世話になった。とにかく一緒にいるときはずっと笑っていると言っても過言ではないくらい楽しい時間を過ごさせてもらったし、サッカー選手としてもいろんな背中を見せてもらった。ガンバで彼らが背負うプレッシャーはきっと自分には想像できないほど大きなものだと思うけど、それを一切表に出さず、サッカーに心血を注ぎ続ける姿にたくさんのことを学んだし、それは自分が頑張る原動力にもなった。プロサッカー選手としてたくさんの宝物をもらいました。だからこそ、自分もここで立ち止まるわけにはいかない。ありがたいことに(他のクラブから)話をもらって、あとは最後、自分が何を選択するかという状態にあるけど、とにかく自分の直感を信じて、自分の気持ちのままにチームを選びたい。そうすれば自分の選択に言い訳せずに『やるしかないだろ』って思えるから。思えば、初めて横浜FCを離れる選択をしたときも、レノファ山口からガンバに加入したときも、自分の意思で移籍を決めた。ガンバに加入して19年のシーズンが終わって横浜F・マリノスからいい話をもらいながらガンバに残ると決めた時も…最初はほぼ移籍するつもりだったけど(笑)、僕をJ1選手にしてくれたガンバへの恩も感じていたし、貴史くんやいろんな選手に一緒にプレーしたいと言ってもらい、自分の意思をひっくり返されるほど気持ちを揺さぶられて、仲間に欲してもらう幸せを信じて残ってみようとガンバに残留した。それに対して今回は…初めて所属チームに残るという選択肢をなくした中で自分が次のキャリアを選ぶことになるけど、これまで通り自分の意思でしっかりと胸を張って次のキャリアを選択したい」
そんな小野瀬の意思を後押しするように、仲間も温かい言葉で送り出す。
「オフにはゴルフもよく一緒に行ったし、飯にもよく行ったし、康介とは本当に、公私共に濃い時間を過ごしたし、めちゃめちゃお世話しました(笑)。加入したての頃は、なんていうか東京っぽい雰囲気で、馴染めるんかな、大丈夫かな? って思っていたけど、時間が経つにつれ康介の良さがどんどん出てきて、みんなに愛された。後輩の面倒見もいいし、先輩にも可愛がられて、周りのことがいつもよく見えていて、気を配れる選手。同じチームでプレーできなくなるのは寂しいけど、プライベートでもピッチでもまた会えるだろうし、戦えると思っているので。とにかく康介らしく、次のチームで頑張ってほしいなって思っています(東口)」
「加入してすぐの頃からプライベートでも仲が良く、一緒に旅行も行ったし、いろんな話もしたので今は寂しいという気持ちしかないけど、その思いが来シーズン以降の康介の活躍で早くかき消されたらいいなって思っています。チームが変わっても年に1〜2回は会えるだろうし、ピッチでもまた再会できるはず。その時にはお互いにさらに成長した姿でバチバチやりあいたい(三浦)」
「(挨拶で)めちゃめちゃ泣くからさ。あんな泣くのは反則や…お陰で僕もめちゃめちゃ泣かされた。いや、僕だけじゃなくて、結構みんなが泣かされましたから。それはある意味、康介が愛されていた証拠。一緒にもっとサッカーをしたかったけど、これがプロの世界。康介に起きたことは僕たち選手、全員に起きうることでもあると思う。そういう意味では考えさせられることも多かったけど、とにかく康介にとって今回の経験が『結果的にいい出来事やった』と言えるものにしてほしいし、ガンバと対戦した時には(点を)取らせたくないけど、取ってほしい。それをさらに、僕のゴールで上書きして試合を終えるのが理想(笑)。そうやってまた康介とピッチで向き合えるのを新たな楽しみだと捉えて…もう泣かん!(宇佐美)」
そう話していた宇佐美がフランクフルト戦後も、ひっそり涙を流していたように、別れの寂しさは今も間違いなく各々の胸にある。それがプロサッカー界の常だとしても、苦楽をともにしてきた仲間との別れは、簡単に割り切れるものでもないだろう。
だが、近い将来きっと今回の別れを笑って振り返れる日がくるはずだ。この5年、小野瀬康介がガンバで残した確かな輝きを誰もが信じているからこそ。