明暗分かれた自民党総裁選の出馬会見 最も意外だったのは「原点」語った菅義偉氏
安倍総理の辞任を受け、次期自民党総裁選挙が行われることになりました。9月1日、2日に相次いで岸田文雄氏、石破茂氏、菅義偉氏の3名が出馬表明の記者会見を開きました。記者会見の開き方、語り方、記者とのやりとりに3者のカラーが出て明暗が分かれたように思います。
岸田氏、座ったまま出馬表明で意気込みが今一つ
岸田氏の魅力は穏やかな表情。落ち着いた雰囲気が安心感を与えます。ただ、今回は国のリーダーとして力強さをアピールする必要がありました。実際はやや拍子抜けでした。岸田氏が入ってきた部屋はひな壇はなく、レイアウトは雑然としており、普通の会議形式。岸田氏は入るなりすぐに座り、「最初に私から説明します」とスタート。そして立候補の表明。「大変厳しい道のりだが、私のすべてをかけて闘いをすすめていく、皆さんの力添えをお願いしたい」と4分で終わり。司会役も決まっておらず、「これは誰か司会が必要なのか」とその場で司会役を指名。準備不足、段取り悪さが露呈していました。
目指すリーダー像については、「国民の協力を引き出せるリーダーを目指したい」とし、「経済と外交に力を入れる」。経済と外交についての具体的な考えは何か、といった質問については、「成長の果実は大企業は実感できたのだろうが、中間層は実感できないと指摘されている。子供の貧困も浮き彫りになった。これら明らかになった問題には立ち向かっていかねばならない。安倍政権の成果はあるが、格差の問題は取り組んでいきたい。外交において、日本は存在感を示していかなければならない。安倍政権は成果があったが、新しい問題には課題意識を持っている」とそつなく回答しているものの課題意識のみで具体策が見えません。「国民には丁寧に説明をしていくことが必要」との指摘はもっともですが、新しさがありません。全体的に力強さには欠けているように見えました。これは、会見が会議形式でカジュアルな雰囲気だったことも要因としてあるでしょう。意気込みを伝える場であれば、会見場を設営し、公式感を作る必要があったのではないでしょうか。冒頭メッセージもよく練ってきた内容とは思えない内容でした。全てにおいて準備不足が前面に出ていたように思います。
石破氏、準備は十分で雄弁、意気込みも
石破氏は3名の中で最も準備万端でした。会場は設営され、ポスターも掲示。キャッチコピーも用意。冒頭メッセージはたっぷり25分。立候補の理由として、国のあり方を討議して政策を明らかにするプロセスを見せることが重要、国民の納得と共感を得て進むことが政権政党のあり方であると強調。勇気を持って真実を語る、国会を公正に運営する、民主主義の機能維持のためには国民参加が必要、少数意見も尊重すべき、と民主主義のあるべき姿を掲げました。続いて、新型コロナウイルス対策、アベノミクスの評価と課題の指摘、東京一極集中の改革、外交安全保障などについて持論を雄弁に語り、身振り手振りもふんだんに使いました。既に総裁の貫禄でしたが、やや理念寄り。実績のアピールがなく、本当に実行する力があるのかどうかといった疑問は残りました。スピーチが終わると拍手も。日本の記者会見で拍手はほとんどありませんので、やや違和感はありましたが。。。報道陣も丁寧な質問態度。石破氏は記者の質問もにこやかに聞き、回答も雄弁で、全体的に温和な雰囲気でした。石破氏のメディアリレーションズは成功していると感じました。恰幅もよく、佇まいも堂々としています。眼鏡は鋭い目をソフトにする効果も出ています。しかし、全体的にいつも通りで意外性や驚きといった新鮮さが残念ながらありませんでした。
菅氏、これまでの成果と自分の原点を端的に語る
最も意外で面白かったのは菅氏の出馬会見でした。感情を出さない菅氏がどのような出馬会見をするのか注目をしていましたが、冒頭スピーチが意外に心にすっと入る内容でした。安倍政権の官房長官として7年8ケ月支えてきた実績をアピールした上で、「政治の空白は許されない、危機を乗り越える必要がある、全ての国民が安心できる生活を取り戻すため総裁選挙に立候補する決意をした」と表明。ここまでは普通ですが、この後の話に思わず聞き入りました。自分の原点について語ったからです。秋田県から東京に出てきて町工場で働き始めたが厳しい環境だった、その後法政大学で学び民間に就職したものの「もしかしてこの国を動かしているのは政治ではないか」と考え政治家を目指すことにした、と。用意した原稿を淡々と読んでいるのですが、お金も人脈もない地方出身の若者が総裁選まできた事実、物語は心を打ちました。身振り手振りの大げさなアクションがないからこそ、余計に胸に沁みたともいえます。「この世の中には当たり前でないことが残っている。それを見逃さず、国民の生活を豊かにするために、さらに国が成長するために何を改革すればいいかを考えて実践してきた」と信念をわかりやすく語り、縦割り行政の弊害に取り組んだダムの水量調整、携帯電話料金が高すぎるため自由競争で引き下げたこと、ふるさと納税、インバウンド推進など実績を説明。最後に「自助、共助、公助」のキャッチコピーも披露してスピーチを終えました。原点、政治信念、実績、キャッチコピーとポイントが盛り込まれていました。無駄がなく、飽きさせず、聞かせるストーリーも盛り込んだ10分間でした。
ただ、記者とのやりとりはいつも通り、そっけない回答でした。記者の質問時間の方が長く感じられるほど。今回だけはもう少し丁寧な回答であってもよいだろうと思いました。あまり報道陣は好きではないのでしょう。ほとんどニコリともせず、淡々と回答。ごくたまに笑顔はありました。「33年前市会議員選挙に挑戦した時、菅さんは貧乏でした。地盤も看板もカバンもない中選挙に勝ったことがここにつながっている。支えてきた神奈川、横浜の人達に今の思いを」といった神奈川新聞記者の説明的質問の際に「貧乏」という言葉に反応してニヤリとしたのです。ストレートな質問に聞いているこちらもドキッとしました。
出馬にあたって誰かに相談したかという質問には、「無派閥の議員、当選4回以下の若い国会議員のエネルギーが私を支えている」。シンプルでいい言葉選択だと思います。すっかり名物やりとりとなった東京新聞望月記者との質疑応答も後半見られました。「今日はいつもよりも多くの記者から質問を受けていて評価したい。私自身も3年間・・・・(中略)今後も番記者からの厳しい質問にもきちんと対応していくのか」。これに対しては「記者会見は限られた時間の中でやっている。質問が短くなれば時間が空く」と皮肉を込めた切り返し。このような紛糾も見慣れましたが、今回ぎょっとしたのは、望月記者の服装。派手な横ボーダーの体に密着するニット風生地。カジュアルすぎると思います。女性記者は何でもいいというわけではありません。服装マナーは必要ではないでしょうか。シンプルな服装で相手への尊重を心がけてほしいと感じました。ストライプが好きでどうしても着たい場合には、細い縦ストライプのブラウスにするだけで丁寧さを表現できるでしょう。試していただきたいと思います。
最後は質問したい記者がまだまだいましたが、切り上げてしまい、怒号も飛び交う緊張感ある退出。菅さんと報道陣のやりとりは、見ていてヒヤヒヤしますが面白い。記者の質問がやけに長いのは、自分の思うことをストレートにぶつけてくるからでしょう。報道陣が遠慮なく質問できるという関係ができていることはある意味民主的ではないか、とも思えました。菅氏の課題は、何と言っても表情ですが、そこは眼鏡を活用するとソフトな印象になります。そして、スーツの肩のサイズを合わせると立派に見えます。髪型を変えればもっと若々しくなるでしょう。中身に自信のある方は外見も中身にあわせるとメッセージはより伝わりやすくなるのです。菅氏も試していただきたいと思います。
【参考サイト】
岸田文雄氏 9月1日 出馬表明会見
https://www.youtube.com/watch?v=eByZmEgCN60
石破茂氏 9月1日 出馬表明会見
https://www.youtube.com/watch?v=o4oO_QPRXQA
菅義偉氏 9月2日 出馬表明会見