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史上最年少名人候補・藤井聡太竜王(20)難敵・斎藤慎太郎八段(29)を降してA級順位戦3勝1敗!

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月12日。愛知・名古屋将棋対局場において第81期A級順位戦4回戦▲斎藤慎太郎八段(29歳)-△藤井聡太竜王(20歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は23時5分に終局。結果は94手で藤井竜王が勝ちました。

 リーグ成績は藤井3勝1敗、斎藤2勝2敗となりました。

 藤井竜王の順位戦通算成績はこれで52勝4敗(勝率0.929)です。

斎藤八段、新工夫の仕掛け実らず

 斎藤八段先手で戦型は角換わり腰掛銀。斎藤八段が4筋に桂を跳ねたあと、端9筋の歩を突き捨てて仕掛けていったのが新しい工夫でした。

斎藤「ちょっと無理してるのかもしれないですね。あまり前例はなかったと思うんで」

藤井「(45手目)▲5三桂成(△同玉)から▲9二歩とされて。9筋は破られてしまっているかっこうなので。なにか、そうですね。(三段目から)玉を引いていって、どこか攻め合いにいくタイミングがあるかどうかなのかと思っていました。それでちょっと7三桂とかも取られそうな形にはなってしまうんですけど、なにかそういったときに反撃をねらう感じになるのかな、とは思っていました」

 この先は、藤井竜王の7筋の桂がすんなり取られるかどうかが争点の一つとなりました。斎藤八段は左辺に馬(成角)を作ります。攻めは切れない形ですが、どれぐらいのスピードでいけるのか。

 56手目、藤井竜王が玉を三段目から二段目に引いた局面で12時、昼食休憩に入りました。

 12時40分、再開。斎藤八段は休憩をはさんで1時間27分の消費時間で馬を引きました。

斎藤「もう少し▲9五香から▲7四歩を急げるのかなと思ってたんですが。どうもちょっと、そうですね、時間がかかってしまったので。端やぶってからが難しい将棋なのかなという感じでしたね」「なんか想定より・・・。△5五歩▲4七銀みたいなのが通ってないのが、かえって後手から△5五銀とぶつけやすいですし。△4四桂打たれる筋があるので。うーん、ちょっと、思っていたより難しい将棋になってしまったな、というか。▲8三馬じゃあなんか、あまり仕掛けた甲斐がなかった変化になったのかなと思ったんですが。なんかちょっと、こちらも自信はない感じでした」

 藤井竜王も長考に沈みます。60手目、飛を三段目に浮く手に58分。62手目、9筋に歩を垂らす手に1時間8分を使いました。

藤井「やっぱり▲7四歩を見せられて忙しい局面なので、ちょっとそうですね、どう指すか難しかったです。△9七歩のところで先に△4四桂と打てばなんか、少し攻め合いの展開なら利かしになると思ったんですけど。ただ、ちょっとそうですね、△9七歩を受けられたときに△4四桂がはたらかない可能性もあると思ったので。ちょっと本譜だと、攻め合われたときにやっぱり、先手玉が安定している形なので。うーん、ちょっとそうですね。なんか自信のない展開なのかなと思っていました」

斎藤「ちょっと馬が使えてきたので。(63手目)▲7五馬あたりはけっこう難しい変化になったかな、という感じで」

 64手目。藤井竜王が9筋に歩を成って、と金を作った局面で18時、夕食休憩に入りました。

 18時40分、対局再開。持ち時間6時間と長丁場の順位戦では、ここから佳境を迎えます。

 67手目。斎藤八段は3筋の歩を突き捨てます。終局後、斎藤八段はまずこの手を反省していました。

斎藤「▲6四馬と▲7四歩と、どういう順番で打っていくか、いろいろ考えてるうちに・・・。ちょっと本譜、いちばんゆるい変化に。▲3五歩がかなり甘い手になってしまったので。本当に一手でダメにしてしまったなという感じですね。▲3五歩突くところで、最善を指せば難しい変化かなと思ってたんで。うーん、ちょっと、そこは迷ってしまった局面だったかなと思います。(代わりに)▲5五香か▲7四歩か。そのあたりを考えてたんですけど。どちらかをやるしかなかったかなという感じですね。ちょっとあの瞬間に、△4四桂から継ぎ歩を軽視してしまったので。もうそこからは厳しいと思います」

 結果的には、ずっと取られそうだった藤井竜王の7筋の桂は、ついに終局まで取られることなく残りました。

藤井竜王、鮮やかな桂使いで制勝

 68手目。藤井竜王は桂を打って反撃に出ます。斎藤八段があたりになっている銀を逃げますが、すると5筋からの継ぎ歩攻めが厳しい。このあたりで形勢の針は藤井竜王に傾きました。

藤井「△5六歩(▲同歩)から△5五歩と打ってけっこう、ぴったりとした受けが難しい形なのかな、とは思いました。そのあと攻めていって△7六歩から△8四桂と打ったあたりで、なんかけっこう、攻めが続きそうな形なのかな、と思いました」

 藤井竜王は4筋と8筋、2度のうまい桂打ちで斎藤陣を攻略します。最後はいつもながらに正確な速度計算。観戦者の目には危うくきわどい順に見えるようでも、きっちりと一手勝ちを読み切っていました。

藤井「▲5七金と銀を取られたときに(△同歩成で)こちらの玉が詰まなければ本譜がいいのかなと思いました」

 93手目。斎藤八段は一段目に飛車を打って、横から王手をかけます。対して藤井竜王は銀を合駒に打ちました。これで藤井玉は詰みません。

 攻防ともに見込みのない局面を、斎藤八段はしばらく見つめていました。そして藤井竜王が席を立ったあと、うつむき、頭に手をやり、目をつぶって、深い落胆の表情を見せました。

 斎藤八段は7分を使います。そして次の手を指しませんでした。藤井竜王が席に戻ってくるのを待ち、そこで駒台に右手を添えます。

斎藤「負けました」

藤井「ありがとうございました」

 両対局者は一礼をかわして、A級4回戦の大きな一番は幕を閉じました。

 2年連続で8勝1敗という好成績をあげた斎藤八段。今期は4回戦にして2敗目を喫しました。しかしもちろんまだ、3年連続の名人挑戦の可能性がなくなったわけではありません。5回戦では佐藤天彦九段と対戦します。

 藤井竜王は難敵を降して1敗をキープ。史上最年少名人に向けて大きな一歩を進めました。

 藤井竜王の今年度成績は17勝5敗(勝率0.773)となりました。

 11月中のどこかで指されるであろうA級5回戦。藤井竜王は広瀬章人八段と対戦します。両者は4回戦を終えて3勝1敗同士。藤井竜王に広瀬八段が挑む竜王戦七番勝負の進行とともに、A級での対戦もまた、注目の一番となるでしょう。

 藤井竜王と斎藤八段の通算対戦成績は藤井5勝、斎藤3勝となりました。

菅井八段も3勝1敗

 なお本局と同日、大阪・関西将棋会館でおこなわれていた▲佐藤康光九段(52歳)-△菅井竜也八段(30歳)の対戦は23時31分、136手で菅井八段の勝ちとなりました。

 リーグ成績は菅井八段3勝1敗、佐藤康光九段0勝4敗となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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