驚くべき5つの進化! 元祖バイキングの帝国ホテルがブッフェを再開
7月中に多くのホテルがブッフェを再開
7月に入ってから、ほとんどのホテルがブッフェを再開しました。
ブッフェはホテルの料飲部門において、売上の大きな部分を占めています。しかし、中長期的なコロナ禍の対策として政府の専門家会議が提言した「新しい生活様式」に対応するため、再開が遅くなっていたのです。
記事で紹介したように、各ホテルが独自の工夫を凝らして、with コロナの時代に相応しいブッフェを提案しています。
多くのホテルが新たにスタートを切ったかのように思えますが、実は7月中にブッフェを再開しなかったホテルもありました。
帝国ホテル 東京は8月1日からブッフェを再開
7月中にブッフェを再開しなかったホテルの中でも、特筆するべきところといえば、帝国ホテル 東京です。
帝国ホテルは、1958年8月1日にブッフェスタイルの先駆けとなったレストラン「インペリアルバイキング」をオープンしたバイキングの元祖。2004年5月1日には大幅なリノベーションが行われ、「インペリアルバイキング サール」として生まれ変わりました。
そして、この「インペリアルバイキング」が生まれた日であり、日本記念日協会に「バイキングの日」として制定されている8月1日に「インペリアルバイキング サール」の営業が再開されたのです。
帝国ホテル 東京料理長を務める杉本雄氏が全体を監修し、業態が変わったかと思えるほど、様々な工夫が施されています。
新しくなった「インペリアルバイキング サール」の大きな特徴は以下の通り。
- 徹底的な三密回避
- タブレットによるオーダーバイキング
- モニターを設置して臨場感を演出
- ディナーには特別な実演
- 杉本氏が考案した新メニューが登場
それぞれを詳しく紹介していきましょう。
徹底的な三密回避
「新しい生活様式」を意識して三密がしっかりと回避されています。
席数を200席から100席へと半減させ、十分にソーシャルディスタンスを保てるようにしました。本館17階にある3つの料飲施設のオープン時間をずらして混雑を防いだり、入店に際して人数と時間に上限を設けたりするなど、ゲストが接触するような状況をできるだけ回避しています。
店内の空気の入れ替えを1時間に2回から5回に増やしたり、ブッフェ台の全ての料理にアクリルカバーを設置したりもしました。
客席をくまなく消毒することに加えて、ゲストには入店時の手指消毒やテーブル以外でのマスク着用をお願いし、マスクケースも配布しています。
タブレットによるオーダーバイキング
着席するとまず、帝国ホテル伝統のダブルコンソメスープ、シェフおすすめの冷前菜とパンのオードブルスタンドが提供されるようになりました。このスタンドは今回のために新調されたものです。バイキングの祖先である「スモーガスボード」の流れを汲む珠玉のオードブルを嗜みながら次のステップへ。
各テーブルに1台置かれるようになったタブレットで、好きなメニューを注文すると、スタッフがテーブルまで運んで来てくれます。冷菜や温菜の盛り合わせでは食べたいものだけを選べたり、伝統のカレーではライスの有無や分量を調整できたりと、細やかにオーダーできるのは嬉しいところです。
自分好みにスタッフが調味してくれるサラダ、フルーツやケーキなどのデザートを除いてほぼ全てがタブレットで注文可能。ブッフェ台に赴く場合にはスタッフが取り分けてくれます。
タブレットでは、料理やドリンクを注文できるだけではありません。バイキングコンシェルジュによって作成されたバイキングガイドなども見られるのです。
バイキングコンシェルジュとは、2014年に帝国ホテルが他に先駆けて始めた新ジャンルのコンシェルジュ。ブッフェの歴史やマナーから食べ方や楽しみ方までを熟知した、まさにブッフェのプロフェッショナルです。
タブレットのコンテンツはメニュー紹介のほか、バイキングの歴史やマナーが学べるなど充実しています。タブレットでメニューを確認できますが、あえて紙のメニューが置いてあるところも、帝国ホテルらしいホスピタリティであるといえるでしょう。
スタッフがテーブルを回ってワインのペアリングを提案してくれるので、ワインとのマリアージュもより体験しやすくなったといえます。
モニターを設置して臨場感を演出
着席したままなので、ブッフェならではの臨場感がなくなったように思えますが、そうではありません。
店内に4台ものモニターが新たに設置され、調理している様子を鑑賞できるようになったのです。モニターのおかげで、これまで以上に調理の迫力が感じられるようになっています。
わざわざモニターまで置いて、ブッフェのダイナミックさを演出しようとするホテルなど、他にありません。ブッフェ台に取りに行かなくなったからこそ考えられた、逆転の発想的なアイデアではないでしょうか。
ディナーには特別な実演
ディナーでは特別な実演が行われており、さらなる価値を生み出しています。
バーカウンターが常設され、注文したゲストの目の前でバーテンダーによるカクテルの創作が行われるようになりました。8月であれば、杉本氏がバーテンダーとコラボレーションして生み出された健康カクテル「Oriental Smash Cocktail × Yu Sugimoto」などが提供されています。
デザートコーナーでは、シグネチャースイーツともいえる「季節のフルーツのジュビリー」のフランベを見ることができます。季節によってフルーツが新しくなるので、次回訪れた時にも新しいおいしさが見出だせることでしょう。
杉本氏が考案した新メニューが登場
杉本氏が自ら監修したメニューも新たに加えられ、料理がアップグレードされています。
高級食材の代名詞であるトリュフを用いた「アスパラガスとトリュフのリゾット」、魚介類の幸を享受できる「アクアパッツァ」、もちもちとした「生パスタ」、他のブッフェではまず食べられない「エスカルゴのパイ包み焼き」など、どれも興味をそそられるものばかり。
「ローストビーフ」はディナーだけではなくランチにも提供されるようになり、より多くの人が帝国ホテル伝統の味を体験できるようになりました。
130周年を迎える帝国ホテル
「インペリアルバイキング サール」は8月1日から動き始めましたが、帝国ホテルは今年、開業130周年という大きな節目を迎え、いくつもの新しい動きがあります。
6月15日から「パークサイドダイナー」で、杉本氏が監修した健康応援メニュー「たっぷりケールとヘーゼルナッツのサラダ 小松菜のチキンナンを添えて」が提供されるようになりました。
ビタミンとミネラルが豊富なケールと良質な脂肪酸を含むナッツを用いて、熱中症予防にもなるキウイフルーツを組み合わせています。ベーカリーシェフ特製のナンを添えたのが面白い発想でしょう。
6月21日から7月31日にかけては、自宅での日常をよりスタイリッシュに彩ってもらいたいという想いから、杉本氏が考案したテイクアウト商品「Tarte"Stylee"(タルト スティレ)」を完全予約制で販売しました。
内容は、生ハムとアーティチョーク、フォアグラとダークチェリー、海老とアスパラガスといった本格的なタルト3種のアソート。シャンパーニュ付きのセットもあり、おうち時間や巣ごもり時間を優雅に過ごせるオードブルであったといえるでしょう。
7月1日からは「インペリアルラウンジ アクア」で杉本氏が初めてバーテンダーとコラボレーションした「Oriental Smash Cocktail × Yu Sugimoto」が提供されるようになりました。先に紹介したように「インペリアルバイキング サール」のバーカウンターでも作ってもらえます。
22種類のボタニカルを使用した英国産ジンにスパイスやハーブで香りを移したエキゾチックで清涼感のあるスマッシュカクテルで、トマトとベーコンで作ったケークサレを添えたのが大きな特徴です。
杉本氏による料理教室動画がYouTube上で初めて配信されるなど、これまでの帝国ホテルにはなかった動きが見かけられます。
杉本氏のインタビュー
130周年という節目を迎えて大きな動きのある帝国ホテル 東京ですが、食を牽引する立場である杉本氏は、どのような考えをもっているのでしょうか。
東京料理長に就任した2019年4月1日から1年以上が経ちましたが「あっという間であった。38歳という年齢で大役を任され、私にしかできないことをやっていかなければならないと懸命に邁進してきた」と振り返ります。
「インペリアルバイキング サール」のメニューはだいぶ変わりましたが、どのような意図があったのでしょうか。
「スモークサーモンやポテトサラダ、カレーやローストビーフなど、多くの方にご愛顧いただいている料理は、提供方法を見直しながら残すことにした。その一方で、できたての料理というコンセプトを掲げて新しいメニューを考案した」と杉本氏は述べます。
リゾット、アクアパッツァ、生パスタが新しい料理として選ばれた理由は「バイキングにはお子様から年配の方まで様々な世代の方がいらっしゃるので、想像しやすい料理の方がいい。しかし、ただそのままご提供するのではなく、帝国ホテルらしい料理ということで、リゾットにサマートリュフを加えるなどして、非日常感を演出した」と回答。
今回はパンにもこだわっており、ホームベーカリーで焼いた温かいパンも提供しているといいます。
130周年という節目に関しては「正直なところ、節目だから何かしなければという考えはない。常に非日常を体験いただけるようにと、毎日そればかりを考えている」。
新型コロナウイルスの感染が拡大する前と後では「レストランやガストロノミーのあり方が見直される時期がきたのではないか。フードロスやサステナビリティにも、これまで以上に対応していかなければならない。よい機会だと思って、取り組んでいきたい」と前向きです。
これからの帝国ホテルの食についても聞きました。
「おいしいものをつくるのは当然のこと。その上で安全や安心、そして非日常を提供していかなければならない。もう一度味わいたい、訪れたいと思っていただけるように、引き続き励んでいく」と謙虚な答えを寄せます。
今後も帝国ホテル 東京の食に注目
杉本氏は「白衣を着る仕事は命を預かる仕事。それは、口に入れる食べ物を提供する料理人も同じ」と真摯に語ります。
17世紀から18世紀にかけてフランスのアンフィトリヨン(ホスト)が権威となっていたのは、料理をふるまう役割を担っていたからであり、それはつまり、食べ物を提供する側に名誉が与えられたと同時に重責も課されていたということです。
バイキング、シャリアピンステーキ、レーヌ・エリザベス(車海老と舌平目のグラタン エリザベス女王風)など、帝国ホテルが発祥となり、日本に根づいた食文化がいくつもあります。
帝国ホテルの130周年という節目に、日本中に広めたバイキングが新たなスタイルとして生まれ変わったのはきっと何かの縁であり、若きリーダーである杉本雄氏が革新していく帝国ホテル 東京の食からはますます目が離せません。