「ロシアと北朝鮮は兄弟」 金正恩はプーチンの「苦戦」を決して傍観しない!
ウクライナに侵攻したロシアが想定外の「苦戦」を強いられている。ウクライナ軍の国家存亡を賭けた必死の抵抗に一部の戦線では「敗退」を余儀なくされ、ロシア兵の士気も低下していると伝えられている。すでにロシア側にはチェチェン共和国から志願兵が、またシリアからは月額1千ドルで雇われた傭兵が戦闘に参加しているようだが、仮に長期戦になれば、さらなる兵力、兵器の補充が必要となってくる。
ロシアは中国に軍事支援を要請しているようだが、中国は経済支援には応えても、欧米の経済制裁を恐れ、軍事支援には慎重な姿勢を崩していない。仮にロシアが中国を諦め、北朝鮮にその役割を要請した場合、金正恩総書記は応じるかもしれない。
その根拠の一つは、金総書記が2019年4月24日にウラジストクを訪問した際、プーチン大統領が開いた宴会で発した次の一言である。
「両国人民はかつて抗日大戦の共同闘争の中で戦友の情で固く結ばれており、勇気のある(旧ソ連の)赤軍将兵らは朝鮮の解放のために自ら熱い血を惜しみなく捧げてくれた。我が人民は世代と世紀が変わっても朝鮮解放の聖なる偉業に高貴な命を捧げてくれたロシア人民の息子、娘らの崇高な国際主義偉勲を忘れておらず、今後も永遠に記憶していくだろう」
さらに、金総書記はこうも述べていた。
「兄弟的なロシア人民がプーチン大統領閣下の精力的な領導と頑強で強い意志を受けて、内外のあらゆる挑戦をはね退け、強力で繁栄するロシアを建設する闘争で刮目すべき成果を挙げていることを嬉しく思い、プーチン大統領のたゆみない領導の下、ロシアが必ず強力で尊厳高い偉大な国として復興繁栄することを心から願っている」
金総書記の「ロシアが必ず強力で尊厳高い偉大な国として復興繁栄することを心から願っている」のこの言葉で思い出されるのが父親の故金正日(キム・ジョンイル)総書記が2001年7月28日から8月18日に非公式に訪露した際に帰途、ハサン駅でプーチン大統領に宛てた電報である。
金正日氏はプーチン大統領に「今までの共産主義者が成し遂げ得なかったことを必ず成し遂げて欲しい」とエールを送っていた。ゴルバチョフ、エリツィン元大統領ら西側になびいたこれまでのロシアの指導者とは一線を画すものだった。
北朝鮮は何と言ってもロシアには借りがある。北朝鮮の解放に尽力しただけでなく、北朝鮮が米国を相手に戦った朝鮮戦争(1950-53)では旧ソ連は軍事顧問団を派遣し、T34/85戦車をはじめ主力兵器の供与など軍事面でサポートした。中国の義勇兵派兵とソ連の後方支援がなければ、北朝鮮は敗北し、国家が消滅していたであろう。
プーチン大統領はさらに北朝鮮の旧ソ連時代の債務約109億6千万ドルのうち100億ドルも免除してくれた。従って、金正恩政権が「この時の恩を返す時が来た」と軍事支援を行うことは十分にあり得る話だ。
北朝鮮はロシアがウクライナに侵攻する前からロシアの立場に理解を示し、支持を表明している。そのことは141か国という圧倒的多数の加盟国が賛成した国連総会の「ロシア非難決議」に中国やキューバ、イランでさえ棄権に回ったのに北朝鮮が反対票を投じたことからも明白である。
ウクライナ侵攻から2日後の2月26日にはロシアが「ウクライナ政府によって虐げられてきた人々を保護するためだ」と主張していることに理解を示し、「ウクライナで起きている事態はロシアの安全保障上の要求を無視し、一方的に制裁や圧迫に固執してきたアメリカの強権と横暴が根本的な原因だ」として北朝鮮は非難の矛先を米国に向けていた。
ロシアと北朝鮮との間には相互防衛義務はない。旧ソ連時代に締結された「一方が外部から武力侵攻を受けて戦争状態に入った場合、他方は直ちにあらゆる手段で軍事的支援を提供する」内容の友好協力相互援助条約は1996年に失効している。しかし、プーチン氏が2000年7月に旧ソ連時代も含めてロシアの大統領としては初めて訪朝した際、故金正日総書記との首脳会談で交わした11項目に及ぶ共同宣言(平壌宣言)の第2項には「両国は侵略脅威が造成された場合や平和や安全に脅威を与える状況が造成された場合、協議と相互協力をする必要がある場合には速やかに接触する」ことが定められている。
この共同宣言に従い、ロシアのウクライナ侵攻から1週間後の3月3日に北朝鮮のキム・ジョンギュ欧州1局長がロシアのマツェゴラ大使と会談を行い、ロシアの孤立が深まる最中の3月22日にはイゴリ・モルゴルフ外務次官がシン・ホンチョル駐露大使と会っている。
令和3年版の防衛白書によると、北朝鮮の陸軍兵力は110万人。ロシアの総兵力が90万人だから陸軍だけで20万人も多い。ミグ23と29戦闘機を550機保有しており、空軍兵士はロシアの戦闘機も操縦できる。戦車は3500両も持っている。
さらには300mm、600mm砲多連装ロケットから短距離ミサイル、地対空ミサイル、巡行ミサイル、中長距離ミサイル、極超音速ミサイルまで様々なミサイルを保有している。これに加えて約10万人の特殊部隊を保有している。ロシアにとって北朝鮮は兵力4万5千人のベラルーシよりも遥かに頼もしい存在である。
金総書記がロシアと「戦略的で伝統的な親善関係を新世紀の要求に沿って強化、発展させることが我が政府の確固不動な立場であり、戦略的方針である」(歓迎宴での発言)と思っているならば、ロシアの「苦戦」「孤立」を座視しないであろう。
ロシアと北朝鮮は陸続きで、北朝鮮の羅先とロシアのハサン間に鉄道も通っている。軍事顧問団の名目であれ、「義勇兵」であれ、「傭兵」であれ、人員は羅先―ハサン―ウラジオストクのルートで極秘裏に運び、シベリア鉄道を介してウクライナまで運ぶことが可能である。また、先頃、ロシアの揚陸艦4隻が青森県の尻屋崎沖から津軽海峡を通って、日本海に航行し、ウラジオストクに向かったことが確認されたが、途中、北朝鮮の清津や羅先に寄港し、兵站を積んで、ウラジオストクまで運ぶることもできる。
来月24日は金総書記の訪露3周年にあたる。ロシアと北朝鮮の動きには要注意だ。