木村拓哉、浅野忠信、竹内結子、脚本、演出、企画…『A LIFE 〜愛しき人〜』の勝敗の鍵を握るのは
日曜劇場『A LIFE 〜愛しき人〜』(日曜夜9時)が2月12日(日)放送で5話まで進み、そろそろ後半戦。
視聴率は初回14.2%、5話は13.9%、平均13.88%で今期のドラマのなかではトップで、あとを追うのは『東京タラレバ娘』(12.08% 日本テレビ水曜夜10時)と『嘘の戦争』(11.42% フジテレビ火曜夜9時)だ。
『A LIFE』は構造がシンプルなので見やすい。概要は、経営難に陥っている壇上記念病院に、かつて勤務していた優秀な外科医・沖田(木村拓哉)が10年ぶりに戻り、かつての恋人で院長の娘・深冬(竹内結子)の病を救うため奮闘する医療+ラブストーリー。
儲けを重視した経営と派閥争いで成り立った大病院・壇上記念病院が、腕一本で患者を救うことだけにすべてを注ぐ沖田の登場によって、次第にその虚偽性が暴かれていく爽快感と、正しい処置で病が治る安心感があるドラマ。そこへ、10年前になぜか別れてしまった恋人同士の焼けぼっくいに火がつく感じのもどかしさが加わる。しかも、恋人の重い病を主人公が救えるかという最大の問題が立ちふさがり、メロドラマのようで、わりと骨太で壮大な話になっている。
いま、世間は「ポスト真実」「オルタナファクト」などの言葉が飛び交い、あいまいで混沌した状況にある。だが、このドラマの沖田はそういう世相に背を向けるかのように、絶対性に貫かれている。彼はとにかく患者を治す。そして、そのために努力も欠かさない。「オペっていうのは準備ですべてが決まるから」「こわいってことは準備が足りてないことだから」と、徹底的に準備する。だからこそ手指のトレーニングも常にやっている。野菜が嫌いだけど、カラダも資本だから、無理して常に野菜ジュースも飲んでいる。なんてまぶしい正しさなのか。その正義の光に照らされて、本質的な医療以外の部分で生き抜いてきた者たちの価値観はグラグラと揺れ動いていく。
コネと社交に力を入れてきた羽村(及川光博)、親のコネに反発しながらも社会のルールに流されがちな井川(松山ケンイチ)、そして、卑怯な手をつかって沖田を外国にいかせてしまい、その間に深冬と結婚し、病院の副院長(次期院長)の座に収まった壮大(浅野忠信)。
太い信念をもって揺らがない沖田に対して、どんどんぐらぐら揺さぶられ弱さが露呈していく彼らが最高におもしろい。若い井川はあっという間に、沖田に影響されてしまう。及川、松山、浅野という演技巧者が人間の浅さ、弱さを各々、哀しく滑稽に演じていて、見飽きない。浅野や松山が”死んだ目をして見える”というような評価を見かけたが、それはそうだ、彼らの役は人として褒められたものではない設定なのだから、適切な演技をしているだけだ。そのダメさが見事。
脚本の橋部敦子はこれまでも『僕の生きる道』や『僕のいた時間』など、病に向き合う人間の心理や生活の様をじっくり丁寧に描いてきた。彼女の脚本を、『JIN-仁-』『天皇の料理番』などの平川雄一朗、『魔王』『3年B組金八先生』などの加藤新、『アタル』『99.9ー刑事専門弁護士ー』など木村ひさしとヒットドラマの演出家たちが撮る。
シンプルでわかりやすいつくりではあるが、そのなかに、つくり手はささやかな感情のひだを潜ませる。主人公が神のような恵まれた天才であれば、脇役たちは言い訳もできるが、主人公・沖田は努力の人で、スーパーヒーローではなく、屋上で寒いと脚をバタバタさせるし、野菜ジュースが苦手な顔もするし、言葉にするのが苦手だけどがんばって言葉にしたとき手に汗もかく。だからこそ、沖田をとりまく人たち(むしろ沖田より自分たちは恵まれているはず)の人たちは自分たちができない努力(医療技術を磨くこととは違うところで努力しているのだが)に対して苦しむ。その最たる表現が、第1話、浅野忠信演じる壮大が怒りのあまり穴をあけてしまった壁だ。
壮大の愛人・実梨(菜々緒)「穴空けたんですか」
壮大「最初っから空いてたよ」
そんなキザな台詞を交わしながら、壮大は穴を絵で隠す。そして、この絵が、これまでの5話の間、ことあるごとに映る。壮大の副院長室だから当然よく出て来るわけで、ここで壮大と誰かが話をしていて、たいてい壮大が苛立っていて、そんなとき、しれっと絵が映っている。この絵は壮大そのもの。最初から空いていた穴は、壮大がなかったことにしてうまくやろうとしていた深冬との関係、病院での立場、さらには、開いて切ったもののうまくいかずそのまま塞いで誤魔化してしまうことがあるという事実の象徴のようも見える。
たいていの人がこうやっていろいろな穴をなかったことにして生きている。
3話では、実梨(菜々緒)が「沖田先生にもバットにも振り回されっぱなしじゃないですか。闘い方変えたらどうです?」と冴えた台詞を吐いていた。
実梨と壮大は、このドラマのなかで生きていて、5話でも、「恐れなんてたいてい自分でつくりだしてるものですよ」(沖田の考えと同じ)と壮大に助言するも無視され、「わたしはあなたのなんなんですか」とヒステリックになると、壮大は「ちょっと出てってもらっていいですか」と突如として他人行儀になる。実梨は深冬への満たされない想いをごまかす道具でしかない。そんなときにも絵が映ってる。
壮大の穴(コンプレックス)を沖田がじわじわとあぶり出していく。
繰り返すが、いま、世界は不安定で、それを「ポストなんちゃら」とか「オルタナなんちゃら」とかグレーとしてやり過ごして生きていて、もちろん、世界は白黒簡単につけられるものではない。絶対なんてひとつもない。例えば、日曜劇場のスポンサーのひとつである東芝が過去、一社提供で東芝日曜劇場だった頃、いまの状態を想像した者はいなかったろう。
そうはいっても、ほんとは何かひとつ信じられる絶対的なものがあってほしい。そんな願いを一身に背負う役が沖田だ。こういう世界観は『ケイゾク』や『SPEC』を手がけてきて、今回、企画で参加している植田博樹らしいようにも思う。
その絶対的な真実(正しさ)を演じるのはなかなか大変で、誰にでもできるものではない。
先日、Twitterにこんなことを書いた。
5話の最後では、深冬がついに自分の病を知ってしまう。それまでは、子育てと医者業とを半々にしていて、戦力としては0.5と思われていることにコンプレックスをもっていた深冬だったが、沖田に影響を受けて、「私も目の前の命を救うことに一生懸命な医者でありたい」(3話)と、医者としての自覚に目覚めていく。だからこそ自分の病にも厳しい目で観る。
病をもった医者(深冬)とその病を絶対に治そうとする医者(沖田)とが対峙する。お互い医者だから絶対に誤魔化しがきかない。さて・・・というのが6話。
5話の最後、1話の終わりからずっと引っ張ってきた深冬の腫瘍の話を沖田がついに本人についにしたら、
「メールの返事、おめでとうって書いてあった。何度も見直したのよ、間違いじゃないかって。何を期待したんだろうわたし」と深冬は突然、昔の別れのきっかけになったメールの話をしだす。それから、「さっきも何度も何度も見たのよ 間違いじゃないかって……あんなのみたことない」と腫瘍の話にすり替わる。
深冬は、4話でも医療の話を自分たちの恋愛にすり替えてしまっていた。本来、医者としてそれはどうなのか? 腫瘍のせいなのだろうかそこはわからないが、ひとつだけ確かなのは、絶対的な沖田が唯一揺らぐウイークポイントは、この、不安定な深冬(愛しき人)だということ。
この闘い、ものすごく気になるではないか。
ひとつ不安になる点があるとすれば、竹内結子、小林隆、峯村リエと、大河ドラマ「真田丸」の豊臣勢ー竹内(茶々)、小林(片桐且元)、峯村(大蔵卿局)と勢揃いしてること。滅びる豊臣集めちゃったら心配になるぞ、壇上病院。
日曜劇場『A LIFE 〜愛しき人〜』
TBS 日曜よる9時〜
脚本:橋部敦子 企画:植田博樹 プロデュース:瀬戸口克陽 東仲恵吾 演出:平川雄一朗、加藤新、木村ひさし 出演:木村拓哉 竹内結子 松山ケンイチ 木村文乃 菜々緒 柄本明 田中泯 小林隆 及川光博 浅野忠信 ほか