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「自治体事業仕分けの実際」~限界集落の診療所をどう考えるか~(兵庫県淡路市)

伊藤伸構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

8月4日、兵庫県淡路市で事業仕分けを行った。淡路市は4回目の実施。事業仕分け実施の目的を、1.職員の意識改革 2.市民参加の促進 3.財政のスリム化 と、コストカットよりも市役所内部の改革に重きを置いているのが特徴。

8年前に5町が合併してできた市で、旧町の文化をひきずった仕事のやり方の打破をするためにも職員の意識改革が最優先という市長の強い意思。

その淡路市事業仕分けの対象事業の一つに取り上げられたのが「北淡・仁井診療所運営管理事業」。

旧北淡町にある2つの診療所の運営。一般財源は約700万円。

北淡診療所は、医師4名(臨職1名含む)、看護師11名(臨職3名含む)体制で1日平均87人の患者。とても多い。

比べて、仁井診療所は、常駐者はおらず月曜日午前中、水、木曜日の午後のみの診療で北淡診療所の医師が交代で出張している。

患者は1日平均7人。

私は前日に両診療所を見てきたが、仁井診療所が所在する地域はいわゆる限界集落で、近くの保育園、小学校は既に廃校(園)、診療所の周囲の世帯数もごくわずか。

議論の中心は仁井診療所の必要性だった(過去にも何度となく議論されてきているとのこと)。

この診療所と北淡診療所は車で約15分。他に10分以内で行ける総合病院、もう少し離れたところに開業医もあった。そして、仁井診療所に行く人の大半は車を使う(歩ける距離に住んでいる人はわずか)。そうであれば、他の診療所・病院に行くことは可能ではないか。それでも車の使えない人は出てくるかもしれない(実態を聞いたが把握できておらず)。であれば、コミュニティバス等の整備をする方が効果的ではないか(現在はなし)。

また、患者の大半は「医師」に付いている。「○○先生の時に行こう」という人が多いのだ。であれば、北淡診療所に行くという選択肢が出てくるのではないか。

さらには、「診療所」というハコにこだわるのではなく、往診や訪問看護を活用するほうが効果的、効率的ではないか。

このような議論が繰り交わされる。

市の担当課の説明は、「限界集落となっている仁井地区にとって診療所の存在は非常に重要。安心感が与えられる」に終始。その安心感を別な手段で代替できるのではないか、ということを議論しているのだが、「診療所は重要」を繰り返す。

診療所というハコが重要と言うならば、仁井診療所でしかできないことを説明してもらわねばならない。事業シートには「心のよりどころ」との記載がある。

しかし、実際には診療所から50mくらいのところに公民館があり、そこは地域住民で管理している(地域で鍵を保管)。よりどころは他にも存在している。

仕分け人の中には淡路市が選定した「市民仕分け人」も2名おり、そのうちの1名はこの集落の方だったが、その方も「代替策を含めて検討されるのであれば診療所という施設ありきではない」との発言。

結論は「不要・凍結」。

過疎地の医療は非常に厳しい。人の命に関わることだから、患者数が1日7名などの費用対効果ではかるべきではないとの考えはその通りだが、それは代替のサービスの選択肢がまったくない時ではないか。

今回の事業は、代替サービスの考えようがある。しかもサービス水準を維持しながらだ。そのような選択肢がある場合、地域住民に対して何度も丁寧に説明し合意形成を図ることも行政の役割ではないだろうか。

今回の結論が、「仕分けによって地域医療が削られる」という報道にならないことを心から願う。

構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

1978年北海道生まれ。同志社大学法学部卒。国会議員秘書を経て、05年4月より構想日本政策スタッフ。08年7月より政策担当ディレクター。09年10月、内閣府行政刷新会議事務局参事官(任期付の常勤国家公務員)。行政刷新会議事務局のとりまとめや行政改革全般、事業仕分けのコーディネーター等を担当。13年2月、内閣府を退職し構想日本に帰任(総括ディレクター)。2020年10月から内閣府政策参与。2021年9月までは河野太郎大臣のサポート役として、ワクチン接種、規制改革、行政改革を担当。2022年10月からデジタル庁参与となり、再び河野太郎大臣のサポート役に就任。法政大学大学院非常勤講師兼務。

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