ポルトガル戦1ゴール1アシストのFW田中美南。初のW杯メンバー入りに向けて「後悔のないプレーを」
左方向に動くと見せかけて相手の足を止め、一気にスペースに走り出すプル・アウェイの動きでマークを引き剥がす。オフサイドギリギリでパスを引き出し、ノールックでゴール前に走り込んだMF長谷川唯にパス。
百戦錬磨の経験と技巧が詰まったアシストだった。
4月7日に行われたポルトガル戦で、35分の同点弾をお膳立てしたFW田中美南のプレーだ。
53分には、ペナルティエリア内で清水からのライナー性のクロスを引き出し、右ももで絶妙の位置に落とし、飛び込んできた相手DFを冷静にかわしてシュート。これはGKペレイラにセーブされたが、その直後には、同じような形から長谷川のロングパスを引き出すと、右アウトサイドでボールをトラップ。飛び出してきたGKペレイラの動きを見て、左足のアウトサイドでゴールに流し込んだ。
いずれのシーンも、ボールを受ける瞬間はフリーになっていた。だが、1秒にも満たないその「間」を作り出すために、田中は相手DFとの駆け引きを何度も繰り返していた。2016年から4年連続国内得点王に輝いたゴールへの嗅覚と引き出しの多さを感じさせた。
なでしこジャパンは、中盤と最終ラインで海外組が安定感を与え、チームの軸はできてきた。その中で、チームを勝たせるラストピースになるのは、やはり点を取るストライカーだろう。
池田ジャパンでは、FW植木理子がトップの8ゴールを決めている。そして、今回の遠征メンバーのFW陣では田中が3ゴールで植木に続く。
INAC神戸レオネッサではエースとしてチームを牽引し、昨季のWEリーグでは初代タイトルを獲得。ケガもあって前半戦は苦しんだが、復調した後半に11試合11得点と爆発した。だが、今年に入ってピッチに立てない時期があり、2月のアメリカ遠征もメンバーからは外れていた。
その鬱憤を晴らすかのように、ポルトガル戦では大事な場面で仕事をして、メンバー入りへアピールした。
「FWなので、結果を出すことで気持ちが晴れる部分もあるし、結果的に1ゴール1アシストできてよかったです。でも、内容的には全然満足していないし、もっとできたと思います」
チームでも代表でも年下が多くなり、若いストライカーたちに助言を送るシーンも増えた。
昨年までINAC神戸でプレーしていた18歳のFW浜野まいか(現ハンマルビーIF/スウェーデン)は、田中を慕っていた。田中にとっても、どこか昔の自分と重なる部分があったのだろう。以前、INAC神戸の練習後に浜野について語っていた言葉が印象的だった。
「(浜野)まいかは、自由にプレーできたらすごいものを持っている選手なんですよ。前のポジションは感覚が大事ですから。守備に関しては頭を使わなければいけないけど、攻撃は自由にやっていいと思います」
ポルトガル戦前日の練習後には、19歳のMF藤野あおばと芝生の上で話し込む場面が見られた。藤野が、その内容を教えてくれた。
「美南さんに、1対1どうやったら決められるんですか?って聞いたら、『めげずに打ち続けることが大事』というアドバイスをもらいました。チャンスがあれば、自分も足を振っていきたいと思います」(藤野)
田中は2019年のワールドカップでメンバー入りできず、悔しい思いを抱えながらも、環境を変えて自分を磨いた。ドイツのレバークーゼンに期限付き移籍をして海外でのプレーも経験。2021年夏の東京五輪では、日本を決勝トーナメントに導くゴールを決めた。INAC神戸では中盤でのゲームメイクに関わることも増え、プレーの幅は広がってている。それでも、やっぱり田中の魅力はゴールだ。
「外国人のエースストライカーたちは、速いスピードでコースに打ち抜くのが上手なので、シュートのうまさとパワーをもっと上げないといけない」
五輪後にそう話していた田中は、シュートスキルを着実に高めてきた。そして、自身初のW杯メンバー入りに向けてすべてを出し切る覚悟を口にした。
「次のデンマーク戦は最後のアピールの場だと思うので、ワールドカップの先を見据えて、後悔しないようにプレーしたいと思います」
*表記のない写真は筆者撮影
(取材協力:ひかりのくに)