昨年に引き続き2回目となる秋元司衆院議員の逮捕劇、政局への影響は
2ヶ月間で現職議員3人逮捕の異常事態
統合型リゾート(IR)事業をめぐる汚職事件をめぐり収賄罪で起訴されている秋元司衆院議員が組織犯罪処罰法違反(証人等買収)の容疑で20日、東京地検に逮捕されました。昨年12月25日に収賄罪で逮捕・起訴後、今年2月12日に保釈金3千万円を現金で即日納付して保釈されていました。今年6月に閉会したばかりの通常国会直後には河井克行衆院議員・河井案里参院議員が公職選挙法違反容疑でそれぞれ逮捕されており、わずか2ヶ月で現職国会議員が3人逮捕されるという異常事態となっています。
今回の容疑は、組織犯罪処罰法違反(証人等買収)と報道されています。今回の逮捕に先立ち、秋元議員が昨年12月に逮捕された際の容疑でもある統合型リゾート(IR)事業に関連する収賄罪に関連して、贈賄側である中国企業の元顧問に裁判でうその証言をするよう依頼し、現金を渡そうとしたことで、会社役員の淡路明人容疑者が今月4日に逮捕されていました。その後の取り調べで、淡路明人容疑者が「秋元議員から証人買収を依頼され、指示を受けた」と供述をしたことから、秋元議員にも同容疑が生じたということです。
今回の逮捕は政権にとってダメージになるか
結論から言うと、今回の逮捕劇は(既に秋元衆院議員自身は自民党を離党していますが)政府与党にとって多少のダメージを与える程度だと考えます。政府与党としては、9月以降の内閣改造などを材料に支持率の回復に努めたい考えでもあり、目下現状においては首相の体調問題や新型コロナ関連施策(GoToキャンペーンやアベノマスク)の効果に疑問が出ていることもあり、これ以上の支持率低下は避けたい状況でしょう。河井克行衆院議員・河井案里参院議員の初公判が来週25日に迫る中で、支持率低下要因ともなる秋元議員の逮捕も、ダメージになることは間違いありません。
一方、容疑としてはあくまで保釈中における証人等買収の容疑であり、自民党は昨年の逮捕直前に離党していることを考えると、政府与党としてはあくまで今回の容疑は離党中に新たに発生した容疑であり、関係ないことだという主張をする可能性が高いでしょう。野党側も現在は立憲民主党と国民民主党の合流作業の大詰めに差し掛かっていることや、そもそも国会閉会中のためにこの問題を追及する場所が限られることを鑑みれば、影響は限定的になると考えられます。
恐らくマスメディアも、一連の統合型リゾート(IR)事業をめぐる汚職事件に関連する逮捕事案であり、公職選挙法に関連する河井克行衆院議員・河井案里参院議員の初公判の方が注目を集める可能性が高いことから、取り扱いは限定的になることでしょう。新型コロナウイルス感染症の感染拡大という状況からも、今回の逮捕事案が政権に大ダメージを与えるということにはならないとみています。
今後の展開はどうなる
まず、秋元被告の身柄はどうなるでしょうか。保釈中の証人等買収という事案の性質から、再度の保釈は難しいとみられています。秋元司衆院議員の弁護士は、4日に淡路明人容疑者が今月4日に逮捕された段階で辞任しており、直後に郷原信郎弁護士が受任したことを表明していましたが、その後弁護方針の違いを理由にすぐに辞任していました。18日には、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告の弁護人も務めたことで著名な弘中惇一郎弁護士が後任の弁護士を務めることが報道されていたことから、今回の逮捕を見越しての受任であったことが推測されます。
前回の収賄罪で秋元司衆院議員が納付した保釈金3千万円については、没取される可能性が高いでしょう。保釈は事件単位で許可されるものであり、仮に保釈中に別の容疑で逮捕されたからといって、直ちに保釈金が没取されるわけではありません。しかしながら、刑事訴訟法第96条第1項第3号では、「被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」に保釈の取り消しをできることと定めています。この罪証を隠滅には人的証拠を含むはずなので、収賄の証人候補に間接的にでも接触をしようとしたと認定されれば、この事由に該当して保釈は取り消しとなり、同条第2項の規定に基づき、保釈金は没取となります。
また、現職議員の2回目となる逮捕という事実も大変重く、国会での問題化が想定されます。具体的には、衆議院本会議や議院運営委員会における国会議員辞職勧告決議を行い、本人に対して辞職を促すような国会としての意思表示を行うことが現実的でしょう。一方、内閣不信任決議と異なり、辞職勧告決議そのものには法的拘束力はなく、決議を受けた対象者は必ずしも勧告に従わなくても法律上は問題ありません。昨年は北方領土におけるビザなし交流で不適切な発言等があったとされる丸山穂高衆議院議員が衆議院本会議で国会議員辞職勧告決議を受けましたが、本人は辞職を拒否しています。今回、秋元司衆院議員も逮捕直前のNHKの取材に対して、容疑を否認する発言をしていることから、仮に辞職勧告決議を受けたとしても、拒否する可能性が高いとみられます。この場合、確定判決が出るまでは失職することはないため、今回の逮捕容疑の性質や、新型コロナ関連で裁判所の裁判日程が軒並み遅れている現状を鑑みれば、勾留中に衆議院解散や任期満了を迎える可能性もありえるでしょう。