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【大阪都構想】改憲論議の前哨戦の様相を見せ始めた都構想

木村正人在英国際ジャーナリスト

自民・民主・共産共闘の背景

道府県と政令指定都市の二重行政の問題は「府市合わせ(不幸せ)」と言われる大阪府と大阪市だけの問題ではない。それにしても、なぜ水と油の自民党と民主党、共産党が大阪では一致団結して、橋下徹・大阪市長の「大阪都構想」に反対するのか。

答えは簡単である。大阪市をなくして5つの特別区を設ける「大阪都構想」では大阪市議会がなくなり、5つの特別区議会に分けられる。議員総数は86人で変わらないが、議員報酬は3割減になる。大阪市は解体されるので、大雑把に言って議員の権限は5分の1になる。

しかも大阪都構想が17日の住民投票で可決されたら、大阪は橋下市長が代表を務める「大阪維新の会」一色で染められる可能性がある。支持母体が創価学会の公明党は別にして自民・民主・共産3党は壊滅の恐れすらある。賛成しろという方が無理なのだ。

どう見ても大阪市の職員数は多すぎる

では、どうして労働組合、左派の学者、メディアが大阪都構想に猛烈に反対するのか。大阪市の職員数の多さにスポットライトが当たると困るからだ。総務省のデータからグラフを作ってみた。

大阪府と兵庫県、京都府、神奈川県、愛知県、福岡県とそれぞれの政令指定都市について、人口1万人当りの一般行政部門職員数を比較してみた。大阪市が67人で断トツに多いことが一目瞭然だ。

筆者作成
筆者作成

大阪市の人口253万7920人

市の職員数

普通会計部門2万4972人=一般行政部門1万6999人+教育部門4550人+警察部門3423人

全職員数3万8197人=普通会計部門+公営企業等会計部門1万3225人

横浜市の人口362万7千人

市の職員数

普通会計部門1万9980人=一般行政部門1万3977人+教育部門2564人+警察部門3439人

全職員数2万7243人=普通会計部門+公営企業等会計部門7263人

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横浜市は東京都に隣接するので大阪市と単純に比較できないが、やはり大阪市の職員数は多すぎないか。人口・面積をもとに総務省がはじき出した試算職員数で普通会計部門の職員数を割り、「水ぶくれ度」をグラフにしてみた。

同

大阪市の水ぶくれ度は43.1%で断トツだ。大阪市職員でつくる労働組合は大阪都構想に反対している。大阪都構想が将来的に大阪市の水ぶくれ職員にメスを入れるのは確実だからだ。

こうした労働組合は左派勢力の強烈な基盤となっている。

「大阪市が解体される」「歴史ある大阪市や区の名前が消える」「大阪市の財源や権限が奪われる」「住民サービスが損なわれる」という反対派の主張は大阪市の甘い汁をずっと吸い続けていたい本音の裏返しなのだ。将来、そのツケを払わされるのは大阪市民である。

憲法改正の前哨戦になってしまった大阪都構想

朝日新聞が合弁会社をつくって運営する日本版「ザ・ハフィントン・ポスト」に「『大阪都構想・住民投票』を世田谷から見つめると」というコラムを投稿した保坂展人・世田谷区長(ジャーナリスト)の主張も面白い。

「世田谷区は人口88万人と、7つの県(佐賀・島根・鳥取・徳島・高知・福井・山梨)を上まわる人口規模を持っていますが、首長の権限は一般の市町村長以下と聞くと、まさかと思う人も多いかもしれません」

東京都の特別区の財源と権限が極めて限られていることを強調し、大阪都構想について「拙速に決めるべきではない」と結論づけている。

どんどん人がやってくる世田谷区と、これから人口が減っていく大阪府と大阪市を比べる意味はいったい何なのか。東京には企業も資金も集まってくる。一方、大阪の産業の空洞化はこのままでは歯止めがかからない。

大阪都構想は大阪府と大阪市を一体化させ広域行政を強化させ、基礎自治体のサービスをきめ細かにするのが狙いだ。

保坂・世田谷区長の経歴をウィキペディアで調べると、元社会民主党副幹事長とある。もう勘弁して下さいというほかない。大阪都構想は憲法改正論議をめぐる右派と左派の前哨戦の様相を示し始めている。

というのも、安倍晋三首相と菅義偉官房長官が、自民党大阪府連が大阪都構想に反対しているにもかかわらず、憲法改正を視野に橋下市長にエールを送り始めたからだ。がぜん、左派も巻き返しに力が入るだろう。

これが「府市合わせ」の実態だ

橋下市長はタウンミーティングで何度も繰り返している大阪市と大阪府による税金の無駄遣いの事例は凄まじい。誇張は含まれているかもしれないが、産経新聞大阪社会部の記者だった筆者には腑に落ちる指摘だ。

「オーク 200 なんていう不動産の投資事業なんですけどもね。ホテルを建てまして1027 億円。事業がうまくいきませんでした。銀行から損害賠償請求訴えられまして650 億円払わなければいけないという結論になりました。皆さんの税金で払っていきます」

「オスカードリームというものは住之江区の商業施設の上にホテルをひっ付けた建物なんですが、225億円の事業。これも失敗しました。民間企業に売ったんですけれども、買ってくれた金額は 13 億円。銀行からまた訴えられました。結論は285 億円払えということになりまして一括で払いました」

以下は大阪維新の会のパンフレットからの引用である。大阪府と大阪市がそれぞれベイエリア開発を行って、経営破綻した例。

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大阪府と大阪市の類似事業と投入された税金の額。

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大阪市役所の失政。

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土地信託事業でも。

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大阪で新聞記者をしていた自分が情けなくなる。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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