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リモートワークで映画ができるのか。「カメ止め」監督、試される瞬発力と対応力

斉藤博昭映画ジャーナリスト
リモートワークでの作品完成に挑む上田慎一郎監督

緊急事態宣言による外出自粛で、当然のことながら、映画やドラマの撮影は、ほぼすべてが中断を余儀なくされている。そんな状況になれば、発想の転換で新しいアイデアも生まれる。オンライン飲み会も盛んになってきたように、では映画製作で何ができるのか?

まず前提は「人と会わない」こと。あらゆる業界でリモートワーク(テレワーク)が奨励されるなか、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督がひらめいたのは、キャストたちそれぞれが、自宅などで自分を撮影、あるいはビデオ通話の画面など、ひたすらリモートワークを駆使して、一本の作品を仕上げようというもの。一見、無謀なチャレンジのようでもあるが、2018年、日本でも話題になったサスペンス映画『search/サーチ』のように、全編、すべてパソコン上の画面で展開させた例もあるので、あながち無理な話ではない。しかも20分程度の作品を予定しているという。

重要なのは、スピード感。上田監督は4月末〜5月の完成を目指し、YouTubeで無料配信するそうで、たしかにこの手のチャレンジは「今の時代」を速攻で反映させることが重要。アイデアから完成までの「瞬発力」、しかも納得のいく仕上がりに期待したい。大ブームを起こした2017年(本格的公開は2018年)の『カメラを止めるな!』の後、上田監督は『イソップの思うツボ』(共同監督)、『スペシャルアクターズ』と、2本の作品を送り出しているものの、残念ながらどちらも高い評価を得たとは言い難く、興行的にも不満の残る結果に終わっている。非常事態宣言の今こそ、起死回生として誰にもマネできないチャレンジを成功させてほしいところ。

あのメンバーが帰ってくる!
あのメンバーが帰ってくる!

タイトルが『カメラを止めるな!リモート大作戦!』ということで、キャストには「カメ止め」のメンバーが再集結。「カメ止め」を観た人には強烈にアピールするはずで、そこは大きなメリットだろう。設定も、新型ウイルスの感染拡大で外出自粛という世界。その状況をドラマにするという依頼が映像ディレクターに届き、リモートワークで作品を完成させる……と、ストーリー自体が「今の状況」まんまである。実際に各自の撮影などによって、展開が大きく変わっていく可能性があり、そこでの「柔軟な対応力」が問われることになる。そうした部分は、映画の撮影現場を、そのまま映画にするという『カメラを止めるな!』のスタンスに近い。

対応力ということでは、一般の人たちが同じようにリモートで参加できる部分も設けるそうで、「カメ止め」キャストと作品内で「絡ませる」ことも想定しているとのこと。その参加方法に関しては今後、Twitterで発表されるそうでで、流動的な部分も多く、ここにも柔軟な対応力と瞬発力が試される。しかしその分、どんなプロジェクトになるかというワクワク感が増えていくのも事実だ。

緊急事態宣言が出る以前から、映画業界は危機に瀕しており、本格的に各地で劇場の営業が停止になってしまった現在、とくにミニシアターの経営の危機が叫ばれ、業界全体でなんとか乗り越えようという機運も高まっている。そうした中で劇場公開ではないが、上田慎一郎監督のこの試みが、小さくても未来への光を灯してくれることを願いたい。Motion Galleryのクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」とも連携するということで、この上田監督のチャレンジがひとつのきっかけになり、さらなる野心的で大胆なプロジェクトが生まれ、映画館に人々が戻ってくるまので間、少しでも笑顔や感動をもたらしてほしい。

『カメラを止めるな!リモート大作戦!』

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(c) カメラを止めるな!リモート大作戦

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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