警戒レベル運用開始 警戒レベル3なら直ちに行動
警戒レベルの運用開始
気象庁では、今年、令和元年(2019年)5月29日から各種の警報をレベル化しています。
これは、昨年の西日本豪雨、防災関係者の危機感が住民につたわらなかったのではないかということからですが、この警戒レベルが3なら、直ちに行動が必要です。
西日本豪雨
平成30年(2018年)6月28日から7月8日にかけ、西日本を中心に北海道や岐阜県を含む全国で記録的な大雨が降り、西日本を中心に多くの地域で河川の氾濫や浸水害、土砂災害が発生し、200人以上が死亡するという、平成年間で最大の気象災害が発生しました。
これは、台風7号および梅雨前線等の影響による集中豪雨で、気象庁では一連の豪雨について、同年7月9日に「平成30年7月豪雨」と命名しています。
西日本だけではなく、岐阜県や北海道など被害が広範囲にわたったためですが、マスコミ等を中心に「西日本豪雨」という言葉が使われ、こちらの名称のほうが多くの国民に定着しています。
7月5日からは、台風7号等で大雨が降っていたところに、対流活動が盛んになっていた東シナ海付近からの南東風と、太平洋高気圧の縁を回る南風が強まって、いままでに観測経験がない多量の水蒸気が流れ込むことが予想されました。
このため、気象庁は「大雨と雷及び突風に関する全般気象情報」を発表し、警戒を呼びかけています(図1)。
全般気象情報を発表した5日から8日までの4日間にわたり、北海道地方から沖縄地方まで大雨警報の可能性があるという、かつてない規模の大雨が降るという情報です。
そして、気象庁では、予報の最高責任者である予報課長自ら、直接、大雨に対する警戒を呼びかけています。
個人的な話ですが、生中継された予報課長の記者会見を、ウェザーマップ社で見ていました。
周囲の気象予報士達は、入ってくる気象情報等から大雨に警戒が必要との認識を持っていましたが、気象庁の予報課長がでてきた時点で、とんでもないことが起きるのではという緊張感が走りました。
事実、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)で大雨特別警報を発表したのは11府県となっています(表1)。
特別警報は、平成25年(2013年)8月30日から始まった、災害に対する気象庁の危機感を伝える新しい防災情報です。
これまで、警報が発表されるときは重大な災害が予想されるときでしたが、特別警報は、警報の中でも重大な災害が著しく大きい場合に発表されますので、めったに発表されるものではありません。
また、大雨警報が発表されている時に、特に土砂災害の危険性が高いときには、土砂災害警戒情報が併せて発表になりますが、これも、特別警報ほどではないにしても、頻繁に発表されるものではありません。
これらの警戒情報が頻繁に発表となったのが、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)です(図2)。
避難勧告等に関するガイドライン
西日本豪雨のような、過去に例がないような異常気象でも、予測できる時代になってきました。
ただ、その予測をどう生かすかということは、大きな課題です。
日本の防災体制には、アメリカのような強制力をもつ「避難命令」はありません(表2)。
「避難命令」は従わなかったときに生じた結果は、自己責任となり、罰則もありますが、「避難指示」や「避難勧告」では、指示や勧告に従わなかった人への罰則はありません。
指示や勧告に従わないで被害を受けた人をどうするか、行政側の悩みが続いています。
平成30年7月豪雨(西日本豪雨)による教訓を受け、平成31年(2019年)3月に「避難勧告等に関するガイドライン(内閣府(防災担当))」が改訂されています。
この新しいガイドラインでは、住民は「自らの命は自らが守る」意識を持ち、自らの判断で避難行動をとるとの方針が示されています。
この方針に沿って、住民がとるべき行動を直観的に理解しやすくなるよう、自治体や気象庁等から発表される防災情報には、6段階の警戒レベルを明記して防災情報が提供されるようになりました(気象庁では警戒レベル2相当と警戒レベル2を分けて分類、表3)。
自治体や気象庁等から発表される防災情報は、いろいろな種類があり、それらを正しく理解するのは大変です。
しかし、これらの防災情報に警戒レベルがついていることで、その情報が発表されたときに、とるべき行動がわかります。
警戒レベル1:災害への心構えを高める。
警戒レベル2:ハザードマップ等で避難行動を確認。
警戒レベル3:避難準備が整い次第、避難開始。高齢者等は速やかに避難。
警戒レベル4:速やかに避難。避難を完了。
警戒レベル5:命を守るために最善の行動をとる。
警戒レベルは、大雨の数日から約1日前に発表となる警戒レベル1から、大雨の半日から数時間前に発表となる警戒レベル2へ、さらに、大雨の数時間から2時間程度前に発表となる警戒レベル3に上がってゆきます(図3)。
ここで重要なのは、警戒レベル3です。
そして、警戒レベル3のときが実際の行動をとるときです。
警戒レベル3から警戒レベル2、警戒レベル1に下がることも多いのですが、時には、警戒レベル4、警戒レベル5へと上がることがあります。
このときは、警戒レベル4のときには避難が完了で、警戒レベル5で危険地域から避難できていない方は逃げ遅れとなります。
警戒レベル5で危険区域からまだ避難できていない方は、家が土砂で押しつぶされて生き埋めになっても、助かる可能性が少しでも高い崖と反対側の2階の部屋に避難など、少しでも安全な場所に移動することが必要となります。
つまり、それほど、危ない状態に陥っているのです。
周知期間は大丈夫?
防災気象情報のレベル化が始まったのですが、私は、特別警報が始まったときと同じ懸念を持っています。
特別警報を規定した法律の正式名は、「気象業務法および国土交通省設置法の一部を改正する法律」(平成25年(2013年)法律第23号)です。
平成25年5月31日に公布され、公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日が開始日となっていましたので、施行期日は同年8月30日と決まりました。
しかし、公布の直前になっても詳細が決まらず、簡単なパンフレットができたのは、同年6月、自治体との協議も実施直前で、住民への周知期間はほとんどありませんでした。
しかも、気象庁内で大幅な組織改革が行われているさなか(海洋気象台の地方気象台化と地方気象台の課制度廃止)が同時に行われたので、特別警報は、十分な準備期間のないままスタートしたと思われます。
50年に一度の災害に対する警報ですので、特別警報制度がスタートしても、実際に発表となるまでに準備期間があるという希望的観測があったのかもしれません。
しかし、特別警報が発表となるケースが相次いで発生し、理解不足からの混乱が相次ぎ、気象庁に対する批判も相次ぎました。
防災気象情報のレベル化についても、同じ懸念がありますが、特別警報開始時のような混乱を繰り返してはならないと思います。
防災気象情報のレベル化については、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)によって検討が始まったのではなく、特別警報が導入される平成25年(2013年)以前から行われていました。
しかし、一般の利用者に説明が始まったのは、つい最近です。
防災気象情報がレベル化され、自らの判断で避難行動をとるために資するといっても、住民がこのことを十分に理解していないと「絵に書いた餅」です。
住民は「自らの命は自らが守る」ということはできません。
防災気象情報のレベル化については、もっともっと周知活動が必要です。
しかし、周知のために残された時間は、あまり残っていません。
奄美と沖縄に続いて、九州南部の梅雨入りももうすぐです(九州南部の梅雨入りの平年は5月31日)し、その後、その他の地域も梅雨入りし、全国的に大雨の危険性が高くなるからです。
図1、図2の出典:気象庁ホームページ。
図3、表2の出典:饒村曜(平成27年(2015年))、特別警報と自然災害がわかる本、オーム社。
表1の出典:気象庁資料より著者作成。
表3の出典:気象庁ホームページをもとに著者作成。