金価格が急騰中、利下げ局面で輝く金
金価格が急伸している。東京商品取引所(TOCOM)では、6月20日の金先物価格が1グラム当たりで一時前日比133円高の4,807円まで上昇し、期先限月としては2015年2月以来となる約4年4ヵ月ぶりの高値を付けている。COMEX金先物相場も1オンス当たりで前日比48.90ドル高の1,397.70ドルと急伸する場面がみられ、こちらは13年9月以来となる約5年9カ月ぶりの高値を付けている。
背景にあるのは、6月18~19日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)において、年内にも利下げに踏み切る可能性が高いことが示唆されたことだ。米国の金融政策は昨年12月に0.25%の利上げを実施したのを最後に様子見に転じており、これまでは金利政策の変更について「忍耐強い」対応が可能との認識を繰り返し、早期の政策変更に対しては否定的な立場にあることを強調していた。
しかし、今会合ではこの「忍耐強い」との文言を声明文から削除して、代わりに「適切に行動する」として、利下げ対応の検討に入っていることを内外に示した格好になる。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、5月1日の前回会合時には楽観ムードが強かった米中貿易摩擦が予想外に深刻化していること、経済指標の下振れ傾向がここ数週間で急速に強くなっている影響などを指摘している。
マーケットでは、仮に今月末の20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて実施される米中首脳会談でも貿易摩擦の緩和・解消が進まないのであれば、7月にも利下げが実施される可能性も指摘されている。
金市場の視点では、こうした米金融政策環境は極めて大きな意味を持つことになる。金は主に国際基軸通貨ドルとの関係性で価格が決まるが、金利水準が高い時には、投資家は金よりもドルを選好する傾向が強い。金は発行体が存在しないために信用リスクとは無縁の代償として、金利や配当などの収益を発生しない。このため、金利水準が高い局面では金を保有すると、機会損失が発生するため、金価格は値下がりし易くなる。一方、金利水準が低下すると金を保有することで発生する機会損失は縮小し、投資家はドルよりも金を選好する傾向が強まることになる。特に、名目金利をインフレ率が上回るような事態になると、実質金利のマイナス化が金価格の急伸を促すことになる。
FRBが利下げに踏み切ると、欧州中央銀行(ECB)や日本銀行など世界各地の中央銀行も、利下げや資産購入といった金融緩和策で追随する可能性が高く、世界的な低金利・通貨安環境が本格化する可能性が高まっていることが、金価格を押し上げている。
しかも、ここ数年はFRBでさえも2.25~2.50%まで金利水準を押し上げるのに精一杯だったため、景気減速や低インフレへの対応で利下げを行おうとしても、十分な利下げ余地を有していない国が多い。その結果、非伝統的な量的緩和政策への関心が再び高まっているが、資産購入で流動性を供給する量的緩和政策は、金市場では「プリント・マネー(紙幣印刷)」政策として各国が発行する法定通貨に対する信認を毀損する動きとして注目される傾向にある。
実際に、世界同時金融危機が発生してFRBが量的緩和政策に踏み切った際には、「無制限に供給されるドル」と「年間約3,000トンの供給制限がある金」との対比から、投資家のドル離れ・金志向が加速した経験がある。ここにきて仮想通貨ビットコインなども急伸傾向を強めているが、ドルやユーロ、円といった法定通貨から、金や仮想通貨などの代替通貨に対する資金シフトの動きが本格化し始めている。