Squrl - モバイルビデオ視聴の特等席を作るアプリ
普段の映像体験、どうしていますか?
日本では40インチの東芝のテレビにUSBのハードディスクを接続して、見たい番組を録画し、夜遅くや週末に見ていました。米国に引っ越してくるときにテレビは友人に譲りましたが、米国に引っ越してきて昨年のBlack Fridayのセールで、32インチのテレビを購入し、ニュースなどを見ています。
ケーブルテレビには契約していませんが、Apple TVも接続してあるため、YouTubeやTED、ニコニコ動画などをAirPlayを通じてテレビの画面で見ることもできるようになり、iPhoneやiPadを手元のリモコンのように使って好きな動画を選びながら、ソファに座ってウェブの動画を楽しむ事もできるようになりました。
ウェブの動画体験が日常的になるにつれて、「いかに日常的にウェブの動画を仕入れるか」という点が問題になります。これまで地上波のテレビもケーブルも、基本的にはテレビ局・チャンネルが映像を選んでくれていました。しかしウェブは、ある程度自分で好みの動画を仕入れる「手段」を持たなければなりません。
飲み会の席やソーシャルメディアはチャンネルになります。友人がスマートフォンで面白動画を教えてくれたり、TwitterやFacebook経由で動画をチェックすることによって、話題の動画を見ることができます。が、それはテレビが面白かった頃のような安定供給となり得るでしょうか。
「モバイル×ビデオ」の環境作りに取り組むSqurl
「映像を見る手段はテレビやケーブルから、スマートフォンやタブレットに移行する」そう語るのはSqurl(App Storeへリンク)の共同設立者・COOのMichael Hoydich氏。Squrlは、iPhone、iPadでオンラインビデオを見るためのアプリで、カテゴリや検索、そして「Queue」(キュー)に気になるビデオを記録して、まとめてみることができるようになります。
Hoydich氏はSqurlに取り組むため、ニューヨークからサンフランシスコへ移ってきました。ニューヨークはまさにメディアのメッカですが、サンフランシスコはモバイルとテクノロジーのメッカ。彼がこのアプリに取り組む際の場所選びも、映像をどのように楽しむか、というトレンドに沿っているようで興味深いです。
オフィスはマーケットストリートの南側はSOMA(South of Market)と呼ばれるエリア。一時治安の悪さなども指摘されていましたが、住宅やショッピングビル、そして数多くのウェブ企業がオフィスを構えるエリアになりました。まだオープンしたばかりのオフィスには、昼間から日が差し込む、良い場所でした。
Squrlは、自分が興味のあるセクション、例えばファッションやテクノロジーといったジャンルを選ぶだけで、プレイリストが自動的に出来上がり、ビデオを連続してみることができるようになります。その場で見なくても、アプリ内でキューに追加することで、「後で見たい」ビデオのリストを作っておくことも可能です。こうして、自分が興味を持てるオンラインのビデオコンテンツの「安定供給」が可能になるのです。
アプリはログインしなくても利用できますが、ログインすることで他のSqurlユーザーの視聴履歴やお気に入りをチェックすることができます。タイムラインには、つながっている人たちが見たビデオのリストが用意されており、このビデオを流し見するだけで、友人が楽しんでいるビデオもすぐに分かります。それはつまり、今皆さんが面白いビデオを発見する時のソーシャルメディアや飲み会の席での体験もきちんとフォローしている事を意味します。
検索に一工夫で、初期のビジネスモデルを構築
ビデオの検索が可能な点は、ウェブがテレビと大きく違う点と言えます。受け身でオンラインビデオを楽しむ方法をSqurlは提供してくれますが、検索ももちろん力を入れています。
Squrlで検索をすると、YouTube、Vimeoなどの主要なオンラインビデオのサービスだけでなく、TEDのスピーチ、HuluやNetflixなどの有料サービスの検索結果、チャンネルなどを一挙にチェックすることができる仕組みになっています。例えば映画のタイトルを入れたら、YouTubeの予告編やその監督が出ているTEDのスピーチ、そしてHuluやNetflixで本編の視聴リンクまで手元に出てくるのです。
もしHuluやNetfilxを契約している人はそのまま視聴し始めることができますし、契約していない人がいれば、Squrlを介して契約が可能となり、Squrlはアフィリエイトの料金を獲得することができます。スタート当初のビジネスモデルは、この視聴者の送客から始めているとのこと。
今後、AmazonやiTunesなどの映像を追加するほか、日本ではKDDIの月額固定でビデオが見放題となるビデオパスの検索にも対応させ、日本でもビジネスを展開していこうとしている。
キュレーションとモバイル対応の流れ、ビデオの未来
Hoydich氏は「ライフスタイルの中で映像を見る時間について、テレビの前に座って見るというこれまでの視聴が減り、モバイルデバイスを持っていてかつ落ち着いたスキマ時間へシフトしていく」と語ります。
「テレビはコマーシャルで収益を上げてコンテンツを作りますが、視聴体験が変わることによって、ゆるやかにではありますが、コンテンツを作る資金がなくなっていきます。映画やドラマのように有料でもユーザーが見たい、という魅力的なコンテンツは現在の形で残るかも知れませんが、それ以外のコンテンツについては、形を変えていくことになるのではないか、と考えています」(Hoydich氏)
その例として、TED、Kickstarter、企業が提供するHow toのビデオを挙げています。またビデオブログにも期待を寄せているそうです。これらに共通して言えるのは、必ずしもエンターテインメントが目的のビデオばかりではなくなるということ。
TEDは知の伝達という点で広義の教育に分類できますし、その流れは大学が授業ビデオを提供するOpenCoursewareにも通じます。またKickstarterや企業のHow toビデオ、ビデオブログは、飽きてしまうような冗長なものは頂けませんが、情報伝達の新しい形として注目されます。企業が製品を伝え、教え、PRするという複合的な意味合いを1本のビデオに込めるテクニックも磨かれていくでしょう。
こうした流れの中で、カテゴリの分類や友人が楽しんでいるビデオ、検索だけでなく、もっと他のビデオとの出会い方を提供する必要が出てきます。Squrlのユーザーによるキューや視聴履歴の傾向は、こうした新しいビデオの出会い方の元のデータとなるはずです。あるいはキュレーターがビデオを選んで届けるといった手法にも可能性があります。
少し違った角度から見れば、Squrlはビデオ版のFlipboardということもできます。この2本のアプリの共通項は、これまでパソコンのウェブやテレビ、紙媒体などの違ったメディアで楽しんでいたコンテンツをモバイルに対応させる際、「モバイルに最適化したインターフェイス」と「キュレーター」という2つのキーワードを押さえているという点です。
Hoydich氏は「Webの映像がエンターテイメント以上の役割を果たす窓口になりたい」とSqurlの目指す未来像を語ります。しかしまずはエンターテインメントで、新しいモバイル×ビデオの体験に備えておくとよいのではないでしょうか。