合宿問題に揺れるテコンドー日本代表、東京五輪は男女軽量2階級が有力に
最後に笑うのは、誰なのか。テコンドーの東京五輪日本代表争いは、少しずつ絞られてきた。9月13~15日、千葉ポートアリーナで「千葉2019ワールドテコンドーグランプリ」が開催され、日本勢は男子3階級、女子2階級に各1人を開催国枠で派遣したが、いずれも1、2回戦で敗れた。
グランプリ(GP)大会は、世界テコンドー連盟が年に4回開催する国際大会。世界トップクラスの選手しか出場できず、招待を受けられる選手が日本には少ない。元々、厳しいことは承知の上だが、最終日に全日本テコンドー協会の小池隆仁強化委員長が「ランキング上位の2名が欠場しているとはいえ、来年の五輪を控えて、この結果は非常に厳しいと捉えています」と総括したとおり、少し寂しい結果だった。
2020年東京五輪では男女各4階級(男子58、68、80、80超、女子49、57、67、67超)が行われ、日本は、開催国枠で男女各2階級に1人ずつ計4人の出場が可能。全日本テコンドー協会は、5月の世界選手権と、今大会、そして10月発表予定のWT(世界テコンドー連盟)ランキングおよびオリンピックランキングという3つの成績を判断材料として開催国枠の適用階級を決める。
注目の男子は80キロ級の江畑が初戦敗退、軽量2階級が有力に
千葉GPの注目点は、男子だった。3階級(58キロ級、68キロ級、80キロ級)に選手を派遣。どの2階級で五輪に臨むのかを決める一つの要素として結果が注目された。主戦場の54キロ級が非五輪階級のため58キロ級に出場した「松井三姉弟」の末弟、松井隆太(HANARO)と、68キロ級に出場したボリビア出身の鈴木リカルド(大東文化大)が2回戦敗退。80キロ級の江畑秀範(スチールエンジ)は、重量級のアピールを狙ったが、初戦敗退だった。
今後、世界選手権において非五輪階級に出場した選手が、前後の五輪階級を選んで成績を反映させた上で階級を選定するが、世界選手権の成績で上回る軽量2階級(58キロ、68キロ)が有力となった。今後、強化委員会による決定および選考委員会の審議を経て、開催国枠を適用する階級を最終決定する。
女子は49キロ級の山田が五輪出場最右翼
開催国枠2階級を決定した後は、11月10日開催(目黒区駒場体育館)の2次選考会を経て、来年1月末~2月に開催見込み(時期、場所ともに未定)の最終選考会において、五輪出場選手を決定する。
世界選手権出場者ら有力選手は、最終予選からの出場。女子49キロ級では、山田美諭(城北信用金庫)が6月のローマGPで銅メダルを獲得しているため、特別シード枠(最終選考会において決勝のみの出場となり、なおかつ特別シード枠以外の相手が特別シード枠選手に勝つ場合には2勝が必要となる等の優位性が与えられる見込み)を得ており、五輪出場の最右翼となっている。女子57キロ級は、2017年世界選手権覇者で2大会連続の五輪出場を狙う濱田真由(ミキハウス)が出場予定で有力候補となる。
男子は、58キロ級では全日本選手権3連覇中で昨年のアジア大会で銅メダルを獲得した鈴木セルヒオ(東京書籍)が有力候補だが、10月開催のソフィアGPに松井隆太が出場する可能性があり、メダルを獲得すれば特別シード枠を獲得する。68キロ級は、全日本選手権王者の本間政丞(ダイテックス)や千葉GP出場の鈴木リカルド(大東文化大)、74キロ級で全日本選手権7連覇の濱田康弘(ベンチャーバンク)らの争いになりそうだ。
・山田美諭は、昨年のアジア大会でも銅メダルを獲得している有力選手(参考記事)
選手サイドの合宿不参加で協会との溝が表面化
少しずつ五輪出場候補が絞られてきており、最終選考会は注目の舞台となる。ただ、日本テコンドー界は、その熱気に水を差す問題を抱えている。当初、大会後の17日から全日本テコンドー協会が主催する強化指定選手の合宿が組まれていたが、23人中20人が不参加を表明。2次選考会、最終選考会に選手が個別に調整して臨む状況になりそうだ。選手サイドがアスリート委員会を通じて指導体制の改善などを訴える要望書を提出したのが6月。同月末の回答を求めたが、理事会は対応を先送り。そのため、選手サイドは、合宿には参加しないと決断。問題が表面化した。
小池強化委員長は、千葉GP最終日に「いろいろな選手の意見があるので、我々も受け止めて改善していくのが当然だと思う。回答書云々に関しては、この大会後、すぐにでもホームページ上に掲載させていただく予定。そういうものを含めて選手との会話、対話を増やし、改善していきたいと考えている。(回答書の対応が6月から延びている理由は)協会内部の役員改選と重なったため、新しい委員会(メンバー)になったときに出そうということで、止まってしまった。決して隠していたわけではない。(今月の合宿は)選手と話をして、今後どうしていくのか、この後、進めていきたい。参加する(意思の)選手も元々いるので。全員が同じ理由(による不参加)ではないので、個別の要望に即して対応していきたい」と話したが、理事会や強化委員会の人事そのものに不信感を持っている選手も多く、協会と選手サイドとの溝が容易に埋まるとは考えにくい。
人生の大一番、集中できる環境作りが最優先
選手にとっては、五輪の代表選手が決まるという人生の大一番。余計な問題を抱えたくないのが本音だ。それでも要望書を出すほどの状況にある。千葉GP最終日に男子80キロ級に出場した江畑は「(要望者や合宿不参加の件は)なるべく、気にしないように、ずっと意識はしていました」と心境を語った。すぐに続けて「(合宿の件がなくても)日本の80キロ級は選手が少なく(五輪派遣階級に選定されるためには)自分しかいないというプレッシャーは常にある。それに勝たないと」と敗戦の理由として考えているわけではないことを強調したが、千葉GPの大会中、選手に対して合宿ボイコット問題について話が及ぶと、協会関係者が質問を制するなどピリピリしたムードが漂っていたのが現実だ。他の選手も含め、競技だけに集中できる環境だったとは考えにくい。
地元開催の五輪を控え、世界を追いかけなければいけない立場にありながら、内部に問題を抱えていることは、間違いなくマイナスだ。ただ、解決できなければ、より長く影を落とすことになる。スッキリとした形で東京五輪の本番を迎えなければならないことは、言うまでもない。いよいよ五輪派遣階級が決まり、代表選手選考へと進んで行くが、選手が競技に集中できる環境作りが協会には求められる。