スリランカのラージャパクシャ家による家族政治はゲームオーバーとなるか?
ゴーホーム、ゴータ「Go home Gota」(ゴータ、帰れ!出て行け!)。語呂合わせの良いスローガンが街中に飛び交っている。ここに出ているゴータとは、スリランカ大統領ゴータバヤのことである。スリランカで再び非常事態宣言が発令された。政治によって経済的な混乱を、経済によって政治的な混乱を引き起こされ、この国は戦後最悪の状況にある。最大の被害者である民衆にとっての穏やかな生活がいつになれば訪れるかの見通しが全く立たない。
スリランカの政治、仏僧が大統領一族へのトドメ刺しとなるか?!この国で僧侶に退任を迫られることの意味
全国各地で連日のように大規模なデモが開催されている。デモ隊は、首都圏の大広場や路上はもちろん、いろんな意味で矛先はラージャパクシャ家に向かっている。大統領ラージャパクシャの私邸や首相ラージャパクシャ私邸に留まらず彼らの生家にまで押しかけて怒りをぶつけている。デモ隊と警察や軍隊との睨み合いや衝突も続いている。
国民の怒りを受けて、(これはラージャパクシャの指示によるものと目されているものの、)26人の閣僚が総辞職した。だたデモ隊の勢いが止まる気配はない。なぜならデモ隊の最大の訴えは、大統領と首相のダブル・ラージャパクシャの辞任だ。先日、政権の中枢にいた他のラージャパクシャ家族メンバーを解任させたが、ゴータバヤ・ラージャパクシャ大統領とマヒンダ・ラージャパクシャ首相のダブルトップはそのままだ。国民からここまで追い込まれているにもかかわらず。ラージャパクシャ兄弟はその図太さを見せた。辞任を拒否し、新しい内閣の発足や、与野党を超えた超党派の統一政府の立ち上げを持ち出した。
忘れてはならないのは、現在の与党は先の選挙で圧倒的多数で政権を獲得し、国会の3分の2の議席をもっていることだ。これが現体制の砦となっている。しかし数日以内の短期間でそこにも確かな変化の兆しが見えてきている。
議員たちはラージャパクシャのもとを去りはじめている。最初の打撃となったのは、新内閣の閣僚の辞任だ。今回の騒ぎでそれまで財務大臣を務めたラージャーパクシャ・ファミリーメンバーのバシルの辞任により出た空きを埋めるために指名されたアリ・サブリが、就任の24時間後に辞表を提出した。彼は「もし閣下がお望みなら この状況を処理するのに適した人物を現国会外から任命するために、私は喜んで国会議員の座を退きます。」などとの内容を綴った手紙を大統領に宛てた。史上最悪の経済危機に陥った状況で財務大臣職を引き受けたくない気持ちは一般素人にもわかる。財務大臣の辞任は序章にすぎない。
第二の悲劇とでもいうべきは、議員のラージャパクシャ政権への支持撤回だ。その数は少なくとも41人に上る。彼らは今後の所属先などについて明確にせず、とりあえず無所属で活動するという。これはラージャパクシャ政権にとって大きな意味をもつことになる。つまりスリランカ議会の議席数は225で、現在までラージャパクシャが、その過半数を明らかに超えた150議席をもっていて、野党は75議席しかもっていなかった。今回の41人の議員が政府から離脱したことにより、ラージャパクシャ側、つまり与党の議員数は109人となり、過半数を4議席下回ることになる。要するに、ラージャパクシャ兄弟は、国会において少数派政府を率いていることになる。
このことがまだまだ波及しそうだ。ラージャパクシャ大統領は党の幹部と会談し辞任を否定しているが、兄のマヒンダ・ラージャパクシャ首相の地位は脅かされる可能性が大きい。スリランカでは国民が大統領を直接選挙で選び、そしてその大統領が首相を選出する。選ばれた人は、国会の信任を得なければならない。つまり首相は大統領によって選ばれるが、首相は国会議員の過半数の支持を得なければならない、ということになる。先述の通り、彼らは今では少数派の政府を率いているため、マヒンダ・ラージャパクシャ首相に対してそのような支持はもうない。そのため野党によって、兄のマヒンダ・ラージャパクシャ首相に対して不信任投票し、彼を追い出し、弟のゴータバヤ・ラージャパクシャ大統領に新しい首相を選ばせることができる。そしてその流れになる可能性は濃厚であるといえる。
現大統領のラージャパクシャは、辞任を拒否し、議会の多数決で選ばれた者に政権を譲ると伝えているようだ。野党には第二の選択肢として、すべての議会が臨時選挙を要求することもできる。しかし、彼らはその手段に出るか些か疑わしい。つまり国民が経済的な混乱の中で食料品、燃料や薬が手に入らない状況下で、権力闘争に焦点を移すことが、道徳的にも正しい判断といえるかどうかということである。
スリランカでの状況が一刻一刻変化し、様々な噂も飛び交っている。今後選挙が行われるのかなど、何が起こるのか想像もできない。ただ間違いなく明らかなことは一つだけある。それは、政権にまだしがみ付いているラージャパクシャ兄弟の立場が日に日に不利になっていることだ。