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映画と地域への愛が生んだ「シアタードーナツ」…宮島真一代表に伺う

鈴木崇弘政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー
シアタードーナツ・オキナワの外観 写真:シアタードーナツ・オキナワ提供

 筆者は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の配慮により、沖縄に滞在し、OISTのマネジメントや活動について研究する機会を得た(注)。筆者は、その機会を活用して、沖縄社会についてもできるだけ知るように努めた。 

 その一環で出会ったのが、沖縄のコザにある「シアタードーナツ・オキナワ(以下、シアタードーナツ)」だ。

 「コザ」とは、「沖縄市の中心市街地であるコザ十字路から胡屋地区、中の町地区まで広がる文化圏の愛称。米軍が越来村の胡屋地区をKOZAと呼んだことをきっかけに、一般の人々もコザと呼ぶようになったと言われている。」(出典:沖縄市観光ポータルサイト「KOZA WEB」

 同地区は、戦後米軍基地の門前町として興隆した中心市街地であるという歴史的経緯から異国風の要素が色濃く残る、エイサー、民謡や洋楽などで沖縄県内随一のエンターテイメント都市になっている。

 「シアタードーナツ」は、そんなたたずまいの一角にある、カフェが併設された街のコミュニティシアターだ。筆者は、何度もそこに足を運んだが、何ともいえない、まったりとした、心安らぐ空間だ。そのシアターで上映されている映画も、社会派的なものが多いが、独特の味のあるものばかり。

 また沖縄は、コミュニティや地域、そして昭和が今も息づいている場所であるが、「シアタードーナツ」はその象徴であるように感じる。

 そこで、本記事では、代表である宮島真一さんにお話を伺い、同シアターの体現するものや場所としての空気感のようなものを探った。

「シアタードーナツ」オープンの経緯について

鈴木崇弘(以下、S):宮島真一さん、本日はよろしくお願いします。まず、宮島さんが、「シアタードーナツ」をオープンされた経緯を教えてください。

宮島真一さん(以下、宮島さん):「シアタードーナツ」(2015年4月18日開業・2019年7月6日より2スクリーンに増床)をオープンするきっかけは、沖縄市観光協会職員に誘われた「沖縄市で映画祭をやるにはどうしたら良いのか?」という議題の会議に参加した時ですね。そこから何度も集まり、模索を重ね、仲間達と思いついたのが「どうせやるなら、自ら映画を作って、その収益をダイレクトに受け取るために映画館を作ろう!」という小学生レベルとも言えるアイデアからですね。

オープン前の宮島さんの経歴や活動について

S:ありがとうございます。宮島さんは、「シアタードーナツ」をオープンする前までは、どのようなお仕事やご活動をされてきたのですか。

宮島さん:ざっと言うと、大学卒業後は、就職せずに音楽バンド仲間と一緒にライブハウスを立ち上げたり、コミュニティFM局で番組を持ったり、サラリーマン・映画製作の裏方・イベント司会業・生涯学習施設の企画や管理・テレビ番組MCなどなど、20代から30代にかけて落ち着かない感じでしたが、どの仕事も、どこか必ず、映画・映像関係に関わる企画はよくやっていました。

宮島さんの「映画愛」と上映映画の選択などについて

S:そうなんですね。そのことからもわかりますが、宮島さんには、「映画愛」が溢れていますよね。映画にそんなにこだわってきた理由というか要因はなんですか。

宮島さん:こだわっている訳ではないのですが、いつも映画に助けられてきたと思うことが多いですね。小学生の頃から映画館で鑑賞すること自体が好きなんです。様々なジャンルの映画がありますが、基本的には人間のドラマを観ているわけです。波乱万丈な物語のなかに人生のヒントがたくさん描かれています。落ち込んでいる時なんかも、自分自身のことを客観的に考える訓練にもなっていたのかなと思いますね。

上映時の映画愛溢れる宮島さんの解説の様子  写真:シアタードーナツ提供。以下、同様
上映時の映画愛溢れる宮島さんの解説の様子  写真:シアタードーナツ提供。以下、同様

S:今の質問とも関係するのですが、「シアタードーナツ」で上映されている映画はかなり厳選されていると思いますが、どのように選んでいるのでしょうか。また「シアタードーナツ」の名称にもあるわけですが、提供されているドーナツにもこだわりを感じます。なぜドーナツを選択されているのですか。

宮島さん:上映する作品を選ぶ基準はありますね。それは、その作品を沖縄県民全員に観てほしい、もしくは全員が観たら世の中どうなるのかな?と想像した時に、ワクワクするかどうかですね。また、誰にとって喜んでもらえる映画なのかを調べないことには、経営は成り立ちません。

 さらにいうと、40代になって立ち上げた映画館。僕には子どもが3人いて、現代社会を見つめると、必然的に子ども達の将来を憂うることがよくあります。なので、どうしても社会派ドキュメンタリー映画を多く選んでしまっているわけです。  

 でも、本当に大事なテーマばかりの作品だと思っています。

 あと、ドーナツに関しては、映画館をカフェとしても楽しんでいただければという思いと、映画の上映だけでは経営は難しいだろうという保険的な意味合いが大きいです(笑)。でも、単純に「シアタードーナツ」って名前の映画館って可愛いですよね。そこは狙っています。

シアタードーナツ自慢の提供されているドーナツ(一部)
シアタードーナツ自慢の提供されているドーナツ(一部)

コミュニティとの関係性について

S:また「シアタードーナツ」は、コニュニティを重視というか、こだわられていると思います。それはなぜですか、教えてください。またその場所にいるとわかるのですが、来られるお客さんとのコミュニケーション、関係性や一体感も非常に大切にされていると感じます。その点に関して何かご意見等ありますか。

宮島さん:上映している映画のテーマによって、作品の存在を知ってほしいコミュニティは様々あります。テーマを求めているコミュニティに映画の情報を届けると自然とコミュニケーションが生まれます。作品が持つメッセージを広げたいという思いのあるコミュニティは沢山あると思います。でも、みんな日常の仕事に追われているみたいで、劇場までの導線を作るのは難しい。その意味では、クチコミュニケーションでなんとか地道にやるしかないですね。夜の営業では、貸切上映やゲストトーク付きの上映をしたり、集客にはさまざまな工夫をしています。

シアター内でのトークショーの様子
シアター内でのトークショーの様子

「シアタードーナツ」の空気感について

:ご説明ありがとうございます。「シアタードーナツ」のカフェもシアターも、他のカフェや映画館ではありえないようなまったりとした空間というか雰囲気を生み出していて、その場にいると(それがはじめてでも)、非常に居心地よく感じます。日本全国見渡しても、このような空間というか雰囲気や空気感のある場所は、あまりないように思います。その点で、宮島さんや他のスタッフの方々が考えていたり、工夫されていることはありますか。

宮島さん:とにかく、お客様には声をかけますね。どこから来たの?なぜここに辿り着いたの?常連のお客様には「お帰りなさい」と言いますね。ここは“みんなの映画館”という気持ちでいます。それを意識してくると、「シアタードーナツ」は、だんだんと地域の公民館的(サロン的)な役割を担えるのではないかと感じています(笑)。

シアタードーナツの内部と宮島さん
シアタードーナツの内部と宮島さん

コロナ禍下での「シアタードーナツ」の経営および工夫について

:コロナ禍の下では、世界中および日本全国の映画館等も、観客数が激減して、経営的にも非常に大変だったと思います。「シアタードーナツ」は、コロナ禍のなか、何か対応策や行動等はされましたか。

宮島さん:私はこれ(コロナ禍の時期)を“再思考の時”と割り切って、ポジティブな思考回路を試されているなと、思うようにしました。

 またその時期には、演劇・音楽・映画の三者で“文化芸術復興基金”創設へ向け行われた署名活動「セイブ・ザ・シネマ」が立ち上がりました。もちろん私も署名に賛同して、情報拡散の協力をしました。さらには、全国の小規模映画館を守るためのクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」において、結果3億円を超える基金が集まり、参加した劇場に均等に分配されました。実は、「シアタードーナツ」は、その基金の企画には賛同しつつも、その分配を受け取ることは拒んだんです。

 これに関しては、いくつかの理由がありますが、そのひとつは小規模劇場とはいえ、2スクリーンでトータル座席数50程度のシアタードーナツが、沖縄だと数百名収容できる桜坂劇場クラスの老舗と肩を並べるのは気が引けたんです。そんな動きの中、映画の配給会社「東風」がネットによる有料配信サービス「仮設の映画館」という企画を発表しました。これには心をトキメかせ、すぐに参加しましたね。

 それは、観客は、映画館に行かずとも、どの映画館で作品を鑑賞するのかを選ぶことができて、その鑑賞料金は「本物の映画館」の興行収入と同じく、それぞれの劇場と配給会社、製作者に分配される仕組みでした。コロナ禍以前から心掛けているのは、作品が持つテーマやメッセージを、どこのコミュニティの誰に知らせれば、より効果的な宣伝になるのかを意識することでした。そしてSNSでのダイレクト発信でした。それらの意味からも、「仮設の映画館」のシステムを利用することで経済活動を続けられたのは、精神的にもだいぶ助けられましたね。

 これがきっかけとなって、県産映画『ココロ、オドル 』(監督:岸本司)の自主配信も実現しました。他にも、飲食業組合やレジャー施設や観光協会等が一緒になって、地域施設で3密を避けた「ドライブ・イン・シアター」の実証実験も開催しましたね。

 実は、この時期は厳しかった半面、これまでやってみたかったけど、やれなかったアイデアを出しやすくなったのかもしれない。その点からも、コロナ禍の時期は、皆が一つになるキッカケにすれば良いと考えています。

シアタードーナツの今後はどうなるのだろうか
シアタードーナツの今後はどうなるのだろうか

「シアタードーナツ」の今後について

:「シアタードーナツ」の現在ある場所の建物は、道路拡幅のために、2024年はとり壊されると伺っています。こんな素敵な空間は、日本全国広しといえどほとんどないので、ぜひ近くの別のところで存続していただきたいと考えています。宮島さんの今後のご計画やお考えを教えてください。

宮島さん:えーと。白紙です(苦笑)。現在の商店街地区のほとんどの建物が老朽化していますし、映画館にリノベできるような物件なんてすぐに見つかりません。今はとにかくシアタードーナツの存在意義を日々証明していくしかないし、価値があることであれば、クラウドファンディングだけではなく、お金持ちの有志を募れたら良いなと、また新しい映画館構想の妄想会議をしなくては!ですね。

宮島さんからのメッセージについて

:いろいろと教えていただいてありがとうございます。宮島さんの映画やコミュニティ・地域に対する強い愛着を感じると共に、多くのことを学ばせていただきました。ありがとうございます。最後に、宮島さんのコザや若い世代、さらに日本社会へのメッセージをお聞かせください。

宮島さん:シンプルですよ。月に一度は映画館で映画を“鑑賞”してほしいです。そして、自分の言葉で感想を伝える“クチコミュニケーション”をしてください。映画鑑賞と通して豊かな社会とはなんだろう?というテーマに向き合う時間を沢山過ごしてほしいです。

:ありがとうございました。

宮島真一(みやじま・しんいち)のプロフィール:

「シアタードーナツ・オキナワ」(https://theater-donut.com/)代表

宮島真一さん 写真:本人提供
宮島真一さん 写真:本人提供

 1973年生まれ。沖縄市出身。大学卒業後、ライブハウス経営、会社員、映画製作スタッフ等を経て、現在はテレビ番組『コザの裏側』のメインMCやラジオDJとして活動中。2015年4月、沖縄市内にカフェシアターと称した映画館「シアタードーナツ・オキナワ」をオープンさせる。地域に根ざしたその取組みは、全国放送テレビ番組「日本のチカラ」で取り上げられる。他、コラム執筆、ロケ街歩きガイド、職業講話・講演など、映画を届けるコミュニケーションをライフワークにしている。

(注)今回このような機会を提供していただいた、ピーター・グルース学長をはじめとしてOISTおよびその教職員の皆さん方には感謝申し上げたい。

政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。新医療領域実装研究会理事等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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