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日本代表に選ばれるべき、エイバル乾の立場。

小宮良之スポーツライター・小説家
スペインで実績を残しつつある乾貴士。(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

3月18日、リーガエスパニョーラ第30節。エイバルの日本人選手である乾貴士は、勝ち点1をもたらす同点弾をアシストした。左サイドを闊歩し、ヘタフェのディフェンダーにを翻弄。手のひらで転がし、完璧なクロスを送り込んだ。摩擦のない床を滑るようにボールを持ち出し、いつでもトップスピードに乗れるのが特徴だろうか。劇的なスピードの変化によって、右サイドバックには尻餅をつかせている。

現地を取材して、乾に対する評価は驚くほどに高かった。

「ボールを持ったら、なにかを起こす予感がある」

そう言って期待を込めるのはファンだけではない。辛口の評論家や指導者たちも、その才能に惚れ込んでいた。ボールを持ち、仕掛け、崩す。その単純なプレーにクオリティを見いだしていた。開幕直後は4,5番手のサイドアタッカーだったが、得点やアシストを重ね、献身性を見せつけ、今や2,3番手に上がった。

「1対1に関しては、圧倒的な強さがあるね。ドイツでの実績もある。そこは今までの日本人選手と違うところじゃないかな。スキルの出し方を身につけているし、スペインで成功するアドバンテージになるだろう」

エイバルの主力であるアドリアンは手放しで褒めた。

しかし、乾は3月24,29日に行われる日本代表のW杯予選に招集されていない。

リーガのレベルの高さとハリルホジッチの選手選考

スペイン、リーガエスパニョーラで先発の座をつかみ取ることは簡単ではないことだろう。かつて1部リーグで1シーズン、主力選手だった日本人選手は一人もいない。1シーズン以上、所属できたのが大久保嘉人のみなのである。

もし、乾が残り8試合でスタメンを守り、チームの残留に貢献できたら――。快挙と言うに値するだろう。

リーガ、プレミアリーグ、ブンデスリーガ、セリエAと合わせ、欧州4大リーグなどという呼称がある。しかし、リーガは頭一つ、二つ抜け出ている。今シーズンの欧州カップ戦では、チャンピオンズリーグのベスト8にリーガからFCバルセロナ、レアル・マドリー、アトレティコ・マドリーと3チームが進出。ヨーロッパリーグのベスト8にも、アスレティック・ビルバオ、セビージャ、ビジャレアルの3チームが勝ち進んだ。しかも、バレンシアはビルバオにベスト16で敗れている。ちなみに昨シーズンのCL王者はバルサ、一昨シーズンがマドリー、EL王者は2年連続でセビージャである。

「セリエAの中位のチームは、リーガなら降格する」

そう言われるほど、リーガは力の層が厚い。事実、バルサはCLベスト16でアーセナルにホーム&アウエーと完勝しているが、リーガ最下位のレバンテとのアウエーではあわやというゲームだった。同じくローマを叩きのめしたマドリーも、昇格組のラス・パルマスに苦戦を強いられた。

乾がリーガという修羅場で勝ち取ろうとしてる功績は、正当に評価されていない。

ヴァイド・ハリルホジッチ監督のメンバー選考には、どうしても違和感が残ってしまう。

ハリルホジッチ監督が、オランダのエールディビジで二桁得点を挙げたハーフナー・マイクを再評価したのは悪いことではないだろう。しかし、オランダで実績を上げるよりも、リーガでスタメンに定着する方が格段に難しい。事実、ハーフナーはリーガのコルドバでなんの成果も残せず、去っている。ポジションやタイプがまったく異なる二人の選手だが、代表選考の序列としては奇妙さを覚える(乾と同じポジションなら、原口元気よりも今年の活躍は目覚ましい)。

そもそも、ハリルホジッチ監督はJリーグ3年連続得点王の大久保嘉人も選んでいないし、一方で「20ゴール」を一つのハードルに示しながら、ゴールの少ないFWを選んでいる。そしてセンターバックには4バックに不慣れな選手を配し、サイドバックに至っては実験的な起用を見せ続ける。走力だけを追い求めるような選考はさすがに控えるようになったが、実績や日本人の特性を無視した矛盾点が見えてしまう。

奇しくもスペイン代表のビセンテ・デルボスケ監督は、35歳のFWだがスペイン人得点王のアリツ・アドゥリスを代表に復帰させた。その一方で、バルサで頭角を現した若手MF、セルジ・ロベルトも選出している。エゴを感じさせない選考は、おおむね高く評価される。代表で果たしてきた役割は大切で無視すべきではないし、代表のプレースタイルもあるが、選考の正当性が失われたら代表チームは愛されない。

<高い実績を残した選手を年齢に関係なく順当に選び、個の力を束ね、大いに活かし、集団として率いる>

それが指揮官の仕事だろう。

今の乾は少なくとも代表招集に値する。「守備の強度が足りない」「シュートの時にパワーが残らず、決定力不足」というのはあるだろうし、あるいは代表で力を出し切れないかもしれない。しかし成長を続けるアタッカーを選んだという正当性はサッカー界に残るだろう。その流れを大きくすることこそ、低迷する日本サッカーに求められていることかもしれない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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