ノルウェーの選挙小屋で政策調査をする子ども 宿題で税金や難民について次々質問
11日に国政選挙を控えるノルウェー。
首都オスロにある大通りカール・ヨハン通りには、多くの市民や観光客が集う。ここでは各政党が選挙小屋と呼ばれる様々な形のスタンドを設置。党の政策を市民と気軽におしゃべりする空間が作られている。規模に違いはあるが、全国各地でこのような取り組みがされている。
1日(金)、12時頃に中央党の党首を取材しようと思い出かけたところ、カール・ヨハン通りの各政党の選挙小屋は大勢の中学生たちで溢れていた。
ノルウェーの一部の学校では、社会科などの授業の一環で、子どもたちが、政治家に直接質問をするという習慣がある。
2年前の統一地方選挙でも同じ光景があり、YAHOO!JAPANニュースでも記事にしていた。
この日は複数の学校から100人以上の子どもたちが、宿題をもって集まり、議員や党員が一生懸命に質問に答えていた。
誰もが笑顔で楽しそうにしているので、見ている筆者も楽しい気分になった。
中央党のスタンドでは、ヴェードゥム党首が、中学生たちに頼まれて、ノートに何やら書き込みをしている。まさかと思い、「もしかして、サインを頼まれています?」と党首に聞くと、「そうですよ、子どもたちからはよくサインや記念撮影を頼まれますよ!」と笑顔で答えた。
「もはや芸能人のようだ」とあらためて思った。ノルウェーでは政治家がタレントのようだと感じることがしばしばある。
ヴェードゥム党首「子どもたちはいい質問をたくさんしてきますよ。教育、子育て、高齢者介護のこととか。日本の政治家は子どもたちと話すのかな。子どもは学校政策のことをよく知りたいと思っていますよ。私は11才の頃から政治に興味がありました。民主主義や政治がどう機能するのか、学校で学ぶ機会があるのはとても良いことだと思います」。
中央党のスタンドでは、EU非加盟を推進する理由、欧州とノルウェーとの貿易について、党員ができるだけ分かりやすい言葉で伝えようとしていた。
子どもたちの後ろで興味深そうに聞いていた大人が紛れ込み、一緒に質問する光景も。
筆者が、「この光景が面白いので、撮影をさせてください」というと、党員や中学生は、「日本ではこういうことはないの?」と反対に驚いていた。
中学9年生で14才だという4人と話した。
「社会科の授業で、選挙調査をしているんだよ」とアーレンさんは答える。「政治家と直接話したのは、これが初めて!面白いよ。中央党が初めて話しかけた党で、これから他の党も回る」とワクワクしていた。
「質問は先生じゃなくて、自分たちで作ったのよ。この後は、討論記事というものを自分たちで書いて、クラスでプレゼンするの」と、ハラニアさん、エルハンさん、アルブさんは話す。
中央党の党首と子どもたちを撮影している大人の女性がいた。「もしや、先生!?」と思って話しかけた。
選挙小屋では宿題を手にする子どもはよく見かける。だが、その場を管理する大人の存在がいつもみあたらないので、先生に意見を聞きたいと以前から思っていたのだ。
中学生の担任のイレーネ先生は筆者が話しかけてきて、「私たちの何が珍しいの?」と笑いながら驚いていた。
「選挙のたびに、学校ではこういうことをさせていますよ。だって、楽しいじゃないですか。子どもたちは政治のことを学べるし、政治家と交流をして、自分たちの国であるノルウェーのことをより深く知ることができます。学校には、他の国出身の子どももいますからね」。
「学校では政治に中立的であることは重要ではないのですか?」と聞くと「重要」と答えた。
「でも、この状況でどうするのですか?難しくないですか?」と聞くと、「学校でなんとかバランスをとろうとしています」。
「全部の政党を子どもたちが訪れるように誘導したりするのですか?」と聞くと、「できる限りで」とのことだった。
「私が子どもの頃も、同じことをしていましたよ。選挙小屋を訪問していました」とニッコリと笑った。
「あさき、今日はなんのテーマで取材しているの?」と、ノルウェーのクラッセカンペン新聞の知り合いのカメラマンが話しかけてきた。「子どもたちが選挙小屋で、政治家と政治の話をしているのが面白い」と言うと、「日本ではこういうことはしないのか!?」と驚かれた。
筆者の後ろで、「僕も欲しい!」という声が聞こえた。振り返ると、中央党のスタンドで、党のロゴがデザインされた飴玉やニンジンを党員が無料配布している。
中央党は「農家の味方」とされているため、国産野菜をよく配布する。ノルウェーでは選挙活動に食べ物などを配布することは問題ないのだ。
中学生たちはニンジンを美味しそうにかじりながら、宿題をこなしていた。
他の政党でも、別の学校の子どもたちが大量に押しかけている。どこの党でも、党員や議員が、選挙権のない若者に、必死に、楽しそうに政策を伝えようとしていた。
筆者の前を、男の子が通り過ぎ、「コーヒーはどこの党でもらえるんだ?」とつぶやいていた。
労働党の選挙小屋で話したのは、中学生のカミーラさん(15)。「選挙後に何を変えたいのか聞くのよ。後で、各党がどう答えたか、社会科のクラスでプレゼンするの」。
政治家と話すのは今日が初めてで、18歳になった時に投票するのが楽しみだそうだ。
労働党でオスロ市議会で地方議員をしているヴィクトリア・マリーエ・エーヴェルセンさん。インタビューをお願いすると、子どもたちと話すのは楽しいと話した。
「大人たちとはちょっと違う質問をしてくるんです。“どうして、そうなの?”、“どうして、そのように考えるの?”って。深く掘り下げて聞こうとしてくるその姿勢を、私はとってもクールだと思います。なぜ相手はそうなのか、必死に考えて、理解しようとしている。ただ単に、この党はそう考えるのだと直に受け止めず、なぜそのように考えるのか疑問に思う。好奇心が強いのでしょうね」。
「私が小さい頃にも同じような課題を学校でこなしていましたが、ここまでの規模ではなかったかも。家族とはよく政治の話をしていましたよ」。
「ノルウェーでは、このような場が子どもたちの考えを政治的に誘導するだろうと心配することはありません。誰にでも、どの党を訪問する自由があります。そして、誰もがオープンに質問に答えようとします。子どもたちが求めているのは、“情報”で、政治家はできる限りで答えるのみ。この子たちが大人になって選挙権を持った時に、どの党に投票するかはその時に分かることです」。
2年前の取材に比べて、変化したなと思うことがあった。以前は、子どもたちは質問は紙に印刷・手書きしていたのだが、今年はたくさんの人がスマートフォンに質問をメモしていた。各党に質問するときもスマホで録音しており、その姿はまるで小さな記者のようだった。
最後に、若者たちから見せてもらった質問の一部を紹介したい。
- 学校制度をよりよくするために、何をしようと思っていますか?
- 年に何人の難民を受け入れたいと思っていますか?
- 難民だった生徒のために、どのような教育システムを考えていますか?
- 気候変動のために何をしようとしていますか?
- 公共交通機関の改善のために、何をしようとしていますか?
- 国の油田開発を将来的にはどうしたいと考えていますか?
- 移民についてどう考えていますか?
- 増税についてどう考えていますか?
- 防衛政策はどうしようと思っていますか?
- メンタルヘルスといじめ対策について党の考えを教えてください。ネットでのいじめをどう減らそうとしていますか?
- 公共の病院や老人ホームの施設を改善するためには、お金が必要です。そのお金はどこから集めるつもりですか?
- ノルウェー語が苦手な外国からの子どものために、あなたたちは何をしますか?
Photo&Text: Asaki Abumi