「1点差だったからといって…」。明治大学・田中澄憲新監督、手綱を締めるわけ。【ラグビー旬な一問一答】
昨季、19シーズンぶりに大学選手権決勝へ進出した明治大学ラグビー部は、22年ぶり13回目の大学日本一を目指して指揮官を交代。過去5シーズン指揮を執った丹羽政彦前監督に代わって、田中澄憲新監督が就任。3月2日に会見した。
1997年度の明治大学でキャプテンを務めた田中新監督は、卒業後はサントリーでスクラムハーフとして活躍。日本代表選出経験もある。2010年度限りで現役を引退すると同部の採用やチームディレクターを歴任し、2017年は母校のヘッドコーチとして丹羽前監督の下で陣頭指揮を執った。新監督としての任期は2~3年程度と見られる。
会見では「今季は、優勝しかない」と宣言。写真撮影後もさらに取材に応じ、大学選手権9連覇中の帝京大学に勝つためのビジョン、外国人枠拡大などのルール変更への対策について語った。
以下、会見終了後の田中新監督の一問一答(編集箇所あり)。
――会見中、任期は明言されませんでした。
「(帝京大学の)岩出雅之監督、(東海大学の)木村季由監督のような大学教授ではない(田中監督はサントリーからの出向)。何が求められるかといったら、結果しかない。最初から長くやろうという考えはよくないなと思っています。去年もヘッドコーチとして、1年目から優勝する気持ちでやっていました。そこは変わらないと思います」
――監督になるとマネジメントにも力を注がなくてはいけません。丹羽前監督は当面アドバイザーのような形でクラブに残るようですが…。
「ヘッドコーチの時よりも、僕がパッパッと決めていかなくちゃいけないことが多くなる。そのためにも(丹羽前監督に)残っていただけるのは心強い。会社でもそうですが、引き継ぎって1年間かけてやるのもじゃないですか。何かが起きた時に『これ、どうなるんですか?』と。
(明治大学は)ラグビーを強化する環境という意味では、もっとよくしないと高校生から見た魅力のあるクラブにはなっていかないと思います。ただ、いまは昔と違って組織としてしっかりしていますし、大学、OB会との関係もすごく大事にしています。あとは学生が学校に行くという意識が高く、(部内での)役割も分担されている。そこについては丹羽さんの功績が大きいと思います」
――自身の現役時代にあった文化をどう再構築するか。
「僕らは放任で育ってきた人間たちで、いまの選手はちゃんとすべてが用意されるなかで育ってきた。だから、あの時の取り組みがいまの時代に合っているかといえば、また違うと思います。ただひとつ共通して言えるのは、グラウンドのなかでの緊張感(が必要な点)。絶対に日本一になる、絶対に相手に負けないという思いは、(過去は)強かったと感じます。そこ(についての意識づけは)去年からやっていますが、もっとこだわってやっていかなくては」
――昨年はやるべきことはやったか。
「去年出した強化方針は、ラグビー云々じゃない、マインドセットの部分を(意味に)隠している部分がありました。それは、1年間かけてできたと思います。去年は決勝で帝京大学という素晴らしいチームと激戦できたこと(20-21と接戦を演じた)は、チームにとっての財産となります」
――チームカルチャーを確立した帝京大学に対抗するには。
「ラグビーでどんどん新しいことを採り入れて、グラウンドの部分で勝っていかないと。これまでチームが築き上げてきた文化は、帝京大学の方が間違いなくある。そこ(文化の積み重ね)で勝つということは――将来を考えたらやっていかないといけないですが――僕がいる間にそこで帝京大学を超えられるかというとまだわからない。ただ、ラグビーの部分では超えていかないといけない。そのためにフルタイムのスタッフがいる」
――伊藤宏明コーチの就任について。サントリー時代の同僚で、サニックス、クボタ、NTTドコモでもプレー経験があります。
「コーチとしての経験もありますし、教え方がすごくうまいと思うんです。あまり多くは語らないですが、考え方はシンプル。話していても、ラグビーの感覚は(自分と)合います。理論派で、僕とは違うタイプですが。いまの学生は『何でこれをやるのか』というものがないとなかなか動かない部分もあるので、そういう意味では宏明はいい。
サントリーのラグビーがすべてかといったらそうではなく、まずリソース(チームの人材や環境)があってそれに合うラグビースタイルがある。そういう意味では、彼はいろんなチームにいましたし、コーチとして小学校から社会人まで色々はカテゴリーを教えていて、引き出しは僕よりもある。バックスだけでなくフォワードを含めたアタック、スキルを見てもらいます」
――選手とのコミュニケーションについて。
「大学って、トップリーグに来る人間と違って色んなモチベーションの人間がいる。試合に出て日本一になることを目標にする人もいるけど、約100人も部員いて試合に出られるのは(リザーブを含め)23人じゃないですか。じゃあ、残りの70名以上の部員はどうするのか。何もないよね。…じゃ、ないと思うんです。寮生活、仲間の大切さ、試合に出なくてもチームに貢献できることがあることなど、学ぶことはある。ここで人として成長していい社会人になって、明治大学のラグビー部の価値を上げていく人間になって欲しい。そう思って、選手と接しています」
――福田健太キャプテンの就任は、最上級生が決めたのですか。
「そこは暗黙の了解でもありました。4年生に反対する者もいなかったですし、スタッフも満場一致で。試合に出続けられますし、何より練習の取り組みが違う。ふさわしい人間です。どちらかというと勝ち気な人間。去年は精神的にムラがあると思ってわざと試合(のメンバー)から外したら、その週の練習がひどかった。明らかに、(不満な気持ちが)態度に出ていた。ここで『そういうことでは9番(スクラムハーフ)として出続けることはできない』『来年リーダーになるのは誰なんだ?』という話をしてから、彼は変わりましたね。いい選手になった。まだまだ伸びるとも思いますし」
――今年も有望な1年生が入ってきますが。
「去年の箸本龍雅、山沢京平もそうでしたが、プレッシャーをかけ過ぎず、つぶさず、乗せながら、経験を積ませたいと思っています」
――去年はシーズン終盤以降、各学年の選手がバランスよく出場していた印象です。
「バランスを取っているわけではなく、自動的にそうなったということです。…人材の墓場と言われないよう、まんべんなく使っていきます(一同、笑い)」
――ところで、オフは研修で渡英したそうですね。エディー・ジョーンズヘッドコーチ率いるイングランド代表のツアーを見学して思ったことは。
「サントリー時代と同様、スタッフ間のコミュニケーションが取れている。スタッフが共通認識を持って、メッセージをひとつにしなくてはいけない、と。イングランドでも、スタッフの方が…まぁ、怒られていましたし。あとは、ぶれない。自分がこうだと思ったらこう、というところはぶらさないですし、強いです。ハートが。不安になることはあると思うのですが、嫌われることをいとわない」
――明治大学の良さ、大学ラグビーの魅力は。
「社会人になってから、大学ラグビーって意味があるのかなと思っていた時期もあったんです。ただ、去年、19年ぶりに決勝へ戻ってきて、秩父宮が満員になった。そこで思ったのは、大学ラグビーは違うカテゴリーとして魅力だと。ラグビーを観るというよりも、自分の大学へのアイデンティティ、誇りが(魅力の要素として)大きいと感じました。伝統校と言われているチームは強くしないといけないと、改めて思いました」
――大学ラグビーの人気を日本ラグビーの人気に繋げるには。
「そこが繋がるかを考えるのは、難しいですよね」
――伝統的なライバルの早稲田大学について。
「早稲田大学は監督が代わります。監督が代わった時って新しい刺激で、選手のモチベーションが変わる。15人(主力級)の選手で言えばうちにも帝京大学にも勝る才能が揃っている。その意味では、早稲田大学も出てくるんじゃないかと思っています」
――今季から1度に出場できる外国籍選手の上限が「2」から「3」に増えました。留学生を採用しない明治大学のようなチームにとっては、試練が増えた格好です。
「きょう、(会見で)質問されるかとも思いましたが、難しい問題です。(新制度は)理論的に考えたらいいところはあるけど、(反対意見になりうる)感情論もある。
(変更の)趣旨は『グローバル化が進み、留学生の活躍の場が増えるから』で、『2020年から代表の資格取得(のための国内居住期間)が3年から5年に延びるので』ということも含まれている。最終的にはこれで日本ラグビーを強化して、ファンを増やすことに繋げなくてはいけないと思います。ルールは決まった以上、そこでやるしかない。ただ、3人の留学生を使えるチームと、まったく使えないチームがある、という事実だけが残っています」
――明治大学側から見たら、相手の攻撃フェイズのすべてで留学生の突破役を待ち構えなくてはならない可能性が高まります。
「言っても仕方がないことです。ただ、去年、帝京大学と1点差だったから今年は優勝だと周りは期待されますが、今年はまた違う状況です。帝京大学には留学生が3人います。そこ(で勝つために)は、戦術的にも考えなくてはいけませんし、まず個々で強くなるのが大前提。僕らは、留学生のいないチームとして勝つことに価値がある(と考える)。相手に留学生が3人いるなかで勝てば、明治大学史上最強のチームになる…。そういうモチベーションでやっていきたいです」
チームは3月12日にキックオフミーティングを実施。17日にはアメリカ・イェール大学との練習試合をおこなう。