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ハリルホジッチは語らない、日本がカンボジアに苦戦した本当の理由

杉山茂樹スポーツライター

試合後、ハリルホジッチはカンボジアの健闘を讃えつつ、その一方で「しかし、今日のような試合を毎回しているとチーム力は向上していかない」と、相手の監督に苦言を呈すことも忘れなかった。

「カウンターばかりでなく、勇気を持って前へ出て攻撃を仕掛けていかないと……。これはアジア全体が世界的に低いレベルにとどまっている理由でもある」と、アジア全体についても喝破した。

日本とカンボジアに差があるように、日本と欧州にも差が存在する。上から目線でカンボジアについて語った我が代表監督。欧州の人がカンボジア戦の日本代表についてどんな意見や感想を述べるだろうか、という想像力は働かなかったのだろうか。

カンボジア代表について、欧州の代表者のような立場で意見したハリルホジッチ。日本代表に対する分析やコメントは、どの立場で語っているのか、とは素直な疑問だ。欧州の代表者として上から目線で語るなら、もっと苦言を呈さなければならないが、彼は当事者だ。日本代表監督なので、それは半分、自分で自分を批評する行為になる。それを避け、カンボジアにだけ意見する姿はアンフェア。かなり情けない。

日本と欧州の差。日本サッカー界が詰めていかなければならない点は、具体的にどのような問題で、そしてその差は詰まっているのか、広がっているのか。ファンはそこのところを常に知りたがっている。少なくとも僕はそう分析しているが、この2次予選を通して、別のことが気になってしまうファンも増えているのではないだろうか。

カンボジアと日本の差。W杯2次予選を戦うチームとの差だ。

かつてより接近している。しかも急速に。カンボジアのレベルアップも認めないわけにはいかないが、日本のレベルダウンはそれ以上に大きな原因だ。カンボジアの攻撃は、全体が前に出て行かないカウンターだと片付けたハリルホジッチだが、日本は、そのカンボジアにゲームを支配され、押し込まれる時間帯さえ何度かあった。

カンボジアのレベルは、日本のU‐17ぐらいだと言われる。冬の高校選手権に出場してくるチームのような相手に2−0。しかも先取点はオウンゴールで、2点目は相手が疲れた後半のロスタイムだった。

大苦戦の原因について「招集メンバーを多く使ったため」と、サブ選手の能力的な問題として処理しようとしたハリルホジッチ。ベストメンバーを編成すれば、そんなことはない。私の勇気がアダになっただけと、逆に自分の果敢な行動に胸を張ったようにさえ見えた。

従来のレギュラーが個人的に見せ場を再三、作っていたならオッケーだ。その言葉に筋は通る。槙野智章や遠藤航、山口蛍らがミスを犯しても、従来から出場機会の多い宇佐美貴史、香川真司、原口元気、岡崎慎司らが、前線で格の違いを見せるようなプレーをしていたならば、認めざるを得ないが、彼らもまた苦戦していた。

ドルトムントで復活したとされる背番号10、香川はカンボジア人にとってはヒーロー。憧れの存在だそうだが、この日いったいどこで何をしたというのか。格の違いどころか、存在感さえ発揮できなかった。消えていることが多い、頼りにならない選手になり下がっていた。カンボジア人もビックリだったはずだ。

宇佐美、原口はカンボジアのマーカーに手を焼いていた。1対1できれいに外したプレーはほぼゼロ。日本ではドリブルの巧い選手で通る両者だが、その看板に偽りありと言いたくなる、キレに欠ける魅力的ではないプレーに終始した。

慢心、伸び悩み、周囲の過大評価……そうなってしまう原因はいろいろと考えられる。だが、一番の原因はサッカーの中身にある。サッカーそのものが全然よくない。それはこれまでの予選6試合すべてに通じる話であり、国内組主体で臨んだ東アジア選手権でも露呈したことだ。

選手の質も低下しているが、サッカーの中身はそれ以上にひどい。中身が悪いので、つまり、選手の頭の中が整然としていないので、ノリよくプレーできていない。選手か監督か。問題点をあえて二択にして自身に投げかければ、答えは監督になる。

欧州のそれなりの監督がハリルジャパンのサッカーを見れば、「こんなひどいサッカーでは、W杯出場は難しい」と、喝破する人は少なくないはず。ハリルホジッチがカンボジアの監督に苦言を呈した以上のものが返ってくることは、十分予想できる。

「日本代表はもっとよくなっていかなければならない」と、願望を口にするハリルホジッチ。だが、どうしたいかについては具体的には特になし。ある時は得点力不足のせいにし、ある時はサブの経験不足のせいにする。コンディションの問題、練習時間の少なさを口にしたこともあった。進歩的な匂いが感じられないのだ。

後半のある時、山口蛍が中盤の深い位置から縦蹴りのロングボールをゴール前に蹴り込むシーンがあった。同じく後半、右サイドバックの長友佑都が右ウイング本田圭佑に向けて、似たような質のボールを送り込むシーンがあった。

そんなサッカーをしているチームは、今、どこにあるだろうか。チャンピオンズリーグでは絶対に拝むことができない、頭を抱えたくなる超旧式のプレーだ。

アギーレ、ザッケローニ、岡田、オシム、ジーコ、トルシエ。いまのレベルはその前の、加茂ー岡田時代に接近中、とは僕の見立てだ。思いっきり心配すべきレベルにある。

「本田5試合連続ゴール!」「6試合無失点は史上初の快挙!」「柏木投入ズバリ!」。問題点が見えても見ぬふりをし、楽観の限りを尽くし喜ぼうとするメディア。その見出しが僕の目には空々しく見える。これでは欧州との差は開くばかり。カンボジアとの差は詰まるばかりだ。

(Web Sportiva 11月18日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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