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【徴用工問題】ひっそりと9日0時から「現金化命令発効可」に。韓国側が「まだ時間がかかる」と報じる理由

ここがスタート。2018年10月30日の韓国での「徴用工側勝訴」判決時の様子(写真:ロイター/アフロ)

じつは今日12月9日は「徴用工判決問題」において韓国側での一つの”区切り”となる日だ。

”韓国裁判所が現金化手続き命令を始められる日”

8日「文化日報」は管轄裁判所のある大邸の支局からのレポートを掲載し、その意味をこう報じた。

日帝強占期の強制徴用被害者補償のための、日本製鉄(前新日鉄住金)韓国資産売却(現金化)命令手続きの審問書公示伝達の効力が9日0時から発生する。これによって裁判所は被害者賠償のための株式場売却命令を下すことができるようになる。速度をあげるかが注目される。

「審問書」とは「韓国内で現金化についての当事者の意見を裁判所側がまとめた」資料。今回の内容をより砕いていうと「韓国側ではすでに押収した株式の現金化についてこうやって話し合ったんですが、あなたたちはどう思うのですか?」という資料だ。

これを10月から日本側に伝えてきたが、9日0時をもって「十分に時間は置いたから、”知りませんでした”という理由は成立しなくなった」という状況が始まったのだ。

「文化日報」の表現は少々堅いが、国内最大の通信社「聯合ニュース」は9日を迎える意味を少し分かりやすく表現した。

公示伝達の効力が発生すれば、裁判所はその時から日本製鉄の国内(韓国内)株式に対する売却命令実行手続きを始められる。

ただし、現状は「売却命令を発する手続きを始めることもできるが、即座には始まらない」という状態のようだ。「現金化に一気に加速」との見方もあったが、実際の「現金化手続き」の前に「手続き命令を出すか」というステップが存在することが今回分かったのだ。

韓国メディア報道を紹介しつつ、複雑な手続き状況を読み解く。

日本側には「年内も現金化ありうる」の見方もあった

現金化問題とは「もしこれが行われたら、日韓関係に甚大な影響を及ぼす」とも言われる重大な問題だ。その韓国側での正確な”現在地”が、上記の「売却命令を発する手続きを始めることもできるが、即座には始まらない」というものだ。

日本の官邸サイドは、年内にも韓国が開催が予定されていた日中韓首脳会談について「この問題の解決なしには首相も参加もなし」としたと報じられた。また日本の専門家筋からは「年内に現金化まで行くだろう」という読みもあった。日韓関係のすべての動きは「ひとまずこの決定がなされてから」という雰囲気にあるのは確かだ。これに関する年内の最大の動きがこの9日0時(8日23時)という期限だったのだ。

ただし、当の韓国側の報道ぶりはじつに静かなのだ。8日夜から国内最大のポータルサイト「NAVER」をチェックしてきたが、じつに関連報道は3件のみ(9日午前にはさすがに増え、計19本となっていたが)

8日時点の記事はいずれも、これまでの流れを簡潔に整理し、今後の展望を行うというものだった。そこでは、「即座に命令を下さない」という背景の説明が丹念になされた。日本でも9日朝のNHKニュースで「今後も手続きが多い」と紹介されたが、具体的にはさらに2つのステップがあると整理できる。

1. 日本側の「スルー」を受け、韓国で再審議

ここからの韓国側での流れは、率直に言ってややこしい。韓国側の言い分とすれば「日本側が審問書の内容についてうんともすんとも言ってこない」ことを前提だと考えると、少しは理解がしやすくなる。韓国最大手の経済紙「毎日経済」の8日の報道から。

しかし公示伝達の効力が発生しても売却命令が自動的に執行されるのではなく、実際の賠償までは相当な時間がかかるように思われる。命令に対する裁判所の審理も行わねばならず…(以下略)

「毎日経済」の記事画面キャプチャ。記事内写真は日本製鉄の韓国での合弁会社「PNR」の工場の風景
「毎日経済」の記事画面キャプチャ。記事内写真は日本製鉄の韓国での合弁会社「PNR」の工場の風景

今回の期限(8日23時59分)により「日本側に現金化に関する話し合いの内容が伝達されたとみなす「命令手続きに入れる状態にはなった」。しかし、いま一度、この「命令」自体が本当に正しいのか、韓国内の裁判所でチェックしなければならないという。なぜなら株式が関わる話、いくら日本側からスルーされようとも、やはり債務者(それに関わる人)の意見は必ず聞かねばならないと韓国の裁判所側が考えているからだ。

同じ内容を8日の「文化日報」も伝えている。

しかしながら審問書が送達されたとしても自動的に売却命令が下されるのではなく、裁判所がPNR株式(日本製鉄と韓国の製鉄会社の合弁企業株)を売却する命令を容認してはじめて(徴用工判決の勝訴側への)賠償手続きが可能になる。大邸地方裁判所関係者は「売却命令の審問書公使伝達効力が発生したとしても法的に株式売却効力が生まれるのではない」とし「債務者である日本製鉄に意見を出すよう審問機会を付与するだろう」と話した。

審理、とは「当事者の意見を聞く」という意味。韓国側はあくまで「日本側の反応を待つ」というスタンスだ。今回は10月8日から12月8日まで待ったが、さらに待つ。まずはこれに時間がかかるだろうとする。同紙が取材した大邸の裁判所側の証言は貴重なものであり、今回の核心内容だ。

さらに「毎日経済」が次のステップについて説明を続ける。

2. より強い「命令文」の日本側への伝達

日本製鉄がこれを拒否すれば、売却命令文を送達する手続の必要性も生じる。また日本製鉄が売却命令文に対して即時抗告などを行い、拒否した場合は売却命令執行までさらに数年かかりうる。

審理が行われなければ、次のステップになる。韓国側からの「命令文」を日本側に伝えるのだ。今回の「話し合いの結果としての審問書」よりもさらに強いものだ。ただでさえこれに時間がかかり、さらに日本側がこれに異議を唱えればふたたび裁判が行われる。

ここもまたややこしい。「文化日報」の8日付け記事による同じ内容の別表現での説明を。

また裁判所が審理後に株式売却命令を決定したとしても該当の命令文を送達する問題も残っている。売却命令文を日本の外務省が受け取ったのち、日本製鉄に伝えない方法で時間を稼ぎうるからだ。この場合、裁判所はふたたび公示伝達をせねばならず、日本製鉄が売却命令文を受け取っても即時抗告、再抗告などの手続きを取れば、賠償金の支給問題は引き続き時間がかかることもありうる。

韓国側からこれら大邸地裁からの情報が出てきたのは、8日夕方だった。前例の少ない重大判決ゆえか、情報が錯綜している面もある。

10月10日にスクープとしてこの「12月9日(12月8日23時29分)の期限」を報じた「東亜日報」はこの時、「即時に現金化が可能」と報じていた。韓国の裁判所が「日本側の対応をこれ以上待つのは無意味」と考えているとみなし、「12月9日の期限は日本側の審問を省略して行うもの」としていた。

いっぽう今回の9日を前に出てきた情報は「ふたたび日本側の審問を待つ」というもの。今後はどうなっていくだろうか。引き続きこの「日本側を待つ時間」についての裁判所の解釈が、韓国の立場でのポイントになってくるのではないか。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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