カッチーこと田中勝春がオールカマーを勝利した時のほろ苦い思い出とは?
潜在能力の高い馬
今週末、中山競馬場ではオールカマー(GⅡ)が行われる。
2006年にこのレースを制したのがバランスオブゲーム。自身7度目の重賞制覇であったが、手綱を取った田中勝春にとっては少しほろ苦い思い出となってしまった。
01年の新潟2歳S(GⅢ)制覇を皮切りに足掛け6年間も活躍し、中山記念(GⅡ)連覇など重賞を7勝。日本ダービーを始めとしたクラシック3冠も全て出走し、04年の安田記念(GⅠ)や06年宝塚記念(GⅠ)では3着に好走する等、GⅠ戦線でも度々見せ場を作った。
「ダイワメジャーやカンパニーに先着するなど、潜在能力の高い馬でした。1800メートルのGⅠがあれば勝てていたと思います」
主戦としてほとんどのレースでタッグを組んだ田中勝春はそう語った。
発走前のアクシデント
「休み明けだったけど宝塚記念ではディープインパクト相手に善戦していたから、チャンスはあると思っていました」
そう言って挑んだのがオールカマーだった。しかし、レース前、思わぬアクシデントに見舞われた。
「本馬場入場時に内ラチへ突っ込んで行って胸から激突してしまいました」
それでも大事には至らず、ゲートに収まる事になった。ただし、鞍上はその時、1つだけ気になる事があった。
「ラチにぶつかった際にバンテージが少しズレていました」
もっともそれ自体が競走能力に影響するとは思えずそのままスタートを切った。すると快勝。見事に7度目の重賞制覇を飾った。
ところがレースを終えた少し後、歩様の乱れたバランスオブゲームは検査の結果、屈腱炎を発症している事が判明した。
「結局これが元で引退する事になってしまいました」
ほどけたバンテージとの因果関係は分からないが、次のように田中勝春は思うのだった。
「自分はホースマン失格だと思いました。少々発走時刻が遅れても、あの時『バンテージを巻き直してください』と言うべきでした。関係者に申し訳ないと思ったし、何より長い間、頑張ってくれたバランスオブゲームに可哀想な事をしてしまったと胸が痛みました」
物理的なモノと違い、いつまでも残り続ける心の傷。少しでも癒やそうと思えば、この経験を未来に活かしていくしかない。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)