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なぜ停電でディーゼルカーが走らないのか? JR北海道の運休

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長
俊足性能を誇るJR北海道のディーゼル特急「宗谷」

6日未明の大地震の影響でJR北海道が広い範囲で列車が運転できない状況が続いています。

8日お昼の時点での運行状況です。

JR北海道の運行状況 8日正午
JR北海道の運行状況 8日正午

札幌近郊の一部の路線を除き、在来線はほとんどの区間で運休しています。

でも、JR北海道の運休区間の多くが非電化区間でディーゼルカーが走っています。

「ディーゼルカーなのになぜ停電で走らないのか? 電気がなくても走れるだろう。」

ネットを見ているとそういう書き込みをしている人が多く見られます。

素人が考えれば確かにそうかもしれませんが、実は非電化区間で、たとえディーゼルカーであっても列車が走るためには電気が必要で、その電気が安定供給できなければ、列車は安全に走ることはできません。

今日は、そういうことを知っていただこうと思いましてペンを取りました。

さて、一番原始的な鉄道というのは、線路を敷いただけで、その上をディーゼルカーや蒸気機関車が走る方式です。その線路の上に他の車両や列車がなく、その列車だけが走る状態であれば衝突する心配もありませんから信号設備は不要です。自動車などの他の交通がなく、踏切もないところであれば警報機も遮断機も要りません。ところが、実際の鉄道というのは信号機もあれば通信装置もある。踏切も各所にあるわけですから、停電で電気が供給されない状況や、あるいは電気の供給が安定せずに計画停電の可能性があるようなところでは、列車が運転できないのです。

当然信号装置にも踏切にもバックアップ装置があります。例えば信号では列車の運転中に停電するようなことがあると、瞬時に自家発電に切り替えて列車の運転に支障をきたすことの無いようになっていますし、踏切でも停電になると自動的に遮断機が閉まって横断する車や人が通れないフェールセーフ機能が働く仕組みになっています。ただ、こういうバックアップやフェールセーフの機能はあくまでも列車が通常通り運行している最中に停電が発生した場合の時のもので、自家発電で信号装置が動作できるのはせいぜい数時間程度だし、踏切は常時遮断しておけばよいというものではありません。このような理由から停電中や、あるいは送電が開始された後でも、電力の供給不足で計画停電が懸念される状況下では、非電化区間であっても、たとえディーゼルカーであっても列車の運行を再開することはできないのです。

釧網線の快速「しれとこ摩周号」。ディーゼルカーですが、列車を走らせるためには様々な設備で電力が必要です。
釧網線の快速「しれとこ摩周号」。ディーゼルカーですが、列車を走らせるためには様々な設備で電力が必要です。

いすみ鉄道でも、東日本大震災当時は計画停電が予定されていましたので、線路設備に異常がないことを確認してはいましたが、列車の運転再開の指示を出すことはできませんでした。数日後、電力会社から計画停電の地域からいすみ鉄道の線路沿線を除外したという確約をもらうまでは、たとえ非電化区間のディーゼルカーであっても、運休させざるを得ない状況でありました。

そういう電気的な問題に加え、地震の場合は地震そのものによる線路設備の被害があります。

通常、震度4を観測すると、運行規程により列車の運転を一時見合わせて線路の点検を行わなければなりません。線路の点検というのは、路線や区間にもよりますが、保線担当の職員が軌道バイクと呼ばれるような小さな点検用車両に乗って、目視で行ったり、あるいは機器を積んだ保線用車両を走らせることによって行います。いすみ鉄道沿線でも先日震度4を観測する地震が発生しましたが、この場合は列車をその場で緊急停止させ、専門の保線要員が線路の点検を行いました。いすみ鉄道のような路線長の短いところであれば、軌道バイクを使えば1時間程度で線路状況の確認ができますし、異常がなければその時点で運転再開となりますが、今回の北海道の大地震の場合は、余震が続いていることや、震源地に近い室蘭線や石勝線、日高線では震度5、震度6を観測した地域もあり、線路設備、特に築堤や橋梁、トンネルに大きな被害を受けている可能性もあります。特にトンネルなどは目視だけではなく、打刻検査や超音波検査が必要になる個所もあると考えられますから、運転再開までには相当の時間を要することが予想されます。

JR北海道は路線の距離が長く、築堤、橋梁、トンネルも多く、変化に富んだ地形の区間が多くあります。余震が続く中で、そういう路線の安全点検を行い、被災個所が見つかれば復旧作業が必要になるという現状を考えると、室蘭線、石勝線、日高線では状況を把握するのに数日から1週間を要することは想像できますし、仮に被害がない場合は、その時点で運転再開というのが時間スケールになるでしょう。

このように、鉄道というのは全路線が地上設備でありますから、航空路線のように空港内の安全点検と一部の航法援助設備の機能が回復すれば運転再開できるというものではありません。事業者としてはそういうところが実にもどかしいのでありますが、利用者の皆様方も、ぜひご理解いただき、ご協力を賜りますようよろしくお願いいたします。

(写真はすべて筆者撮影)

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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