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さあ、都市対抗野球開幕。出場チームのちょっといい話8/日立製作所

楊順行スポーツライター
第90回都市対抗野球大会は7月13日開幕(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

「ホントに悔しかった。捲土重来を期します」

 とは、春季キャンプにたずねたときの日立製作所・和久井勇人監督である。昨年の都市対抗・北関東2次予選、第2代表決定戦。日立は9回まで3点をリードしながら、新日鐵住金鹿島(現日本製鐵鹿島)に5点を奪われて逆転負けを喫し、東京ドームがするりと逃げた。鈴木康平(現オリックス)が抜け、投手の軸が抜けたのが響いた格好だ。

 だが、今年の2次予選では無印の新人が飛び出した。岡直人。徳山大卒の左腕で、2次予選3試合にいずれも救援登板すると、つごう8イニングを5安打6三振1失点にまとめ、2年ぶり37回目の都市対抗出場に貢献したのだ。

たまたま、が監督の目に止まった

「もし大学選手権に出ていなかったら、ここにはいないでしょうね」

 春先に会ったとき、岡はそう笑っていた。徳山商工高2年までは、打つことが好きで外野手。左投手がほしいという事情で、投手に転向した。徳山大4年だった昨春季リーグで7勝を挙げると、大学選手権は四国学院大との1回戦で3安打1失点で完投(7回コールド)。大阪商大との2回戦も、タイブレークの2イニングを無失点に抑える11回1失点完投勝利で、チームに14年ぶりの8強をもたらしている。これを見ていたのが、たまたま関係者に挨拶に出向いた和久井監督だった。

「高校も大学も、ずっと自宅から通える距離。そもそも自分が関東に出るイメージがわきませんでした。社会人野球なんて意識になかったのに、初めて出た全国大会を偶然目に止めてもらえるとは(笑)」

 制球に自信を持ち、左右どちらの打者にも「インコースにきちんと投げられる自信があります」と、チェンジアップなどの変化球を駆使して打ち取る姿は、やはり小柄な左腕・田口麗斗(巨人)にだぶる。

「新人なので、チームを活気づける投球、緊張を押しのけるような気迫を見せたいです」

 と語っていたシンデレラボーイが、独特の緊張感がある都市対抗予選で宣言どおりの力を発揮したのだ。

 2次予選のチーム打率は.354。4試合で平均7得点と、打線も得点力がある。昨年の社会人ベストナイン・森下翔平が三番、同じくベストナインと最多本塁打、最多打点のタイトルを獲得した岡崎啓介が五番。四番には、社会人18年目の大ベテラン・田中政則が座り、田中はチーム最多の7安打を記録した。この田中、今季は「本格的に野球を始めてから、初めて」のキャプテンに就任。

「人前で話すのは得意じゃない。柄じゃないんですけど、ほかにキャプテン経験者もいるので、あえてビシッと締める必要もない。自分がそうだったように、若い選手が自由にプレーできるようにしたいですね」

 新人左腕・岡の台頭は、キャプテンの意向でもあったわけだ。思えば、都市対抗で準優勝した2016年。田中俊太(現巨人)、菅野剛士(現千葉ロッテ)といった新人がはつらつとしたプレーを見せたものだ。今季は、3年目の濱元航輝が七番に定着し、チームトップの5打点と気を吐いている。和久井監督はいう。

「昨年は、フライボール革命に触発されてフォームを改造した岡崎が大成功。いろんなことに思い切って挑戦しよう、といってきたシーズンなので、どんな成果が出るか楽しみです」

 日立の初戦は17日第3試合、相手は日本製鉄室蘭シャークスである。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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