「アインシュタイン」を覚醒させる明石家さんまという“圧”
端正なルックスのツッコミ・河井ゆずるさん(40)と芸人として“最強の武器”と称されるルックスを持つボケの稲田直樹さん(36)のコンビ「アインシュタイン」。昨春から拠点を大阪から東京に移したものの、そのタイミングで新型コロナ禍が直撃。思うに任せない流れが押し寄せる中、新たな指針を与えたのは明石家さんまさんでした。
ずっとあのまんま
河井:コロナ禍で劇場が閉まったり、仕事的にも大きな影響が出ています。4月から9月まで開催予定の全国ツアーも5月の岡山公演が延期になり、いろいろと不透明なところも出てきてしまっているんですけど、なんとかやれることをやる。その思いで毎日を過ごしています。
稲田:僕らとしては去年の春に大阪から東京に拠点を移して、さぁここから!というとこでのコロナ禍でした。
もちろん、仕事自体もしづらいし、仕事で知り合った方と食事にも行けない。ここもすごく大きなデメリットだと感じています。
本来なら、この1年ちょっとの間でもっと関係性を深められた人もいたはずなんですけど、それができていない。目に見えない部分かもしれませんけど、実は大きな影響がある部分だと思っています。
河井:ただ、その中でも新たな流れもいただきました。去年の春から「痛快!明石家電視台」(MBSテレビ)にレギュラー出演させてもらうようになりまして、明石家さんま師匠とガッチリとお仕事をさせていただくようになったんです。これは本当に大きなことだと感じています。
それまでほとんど接点はなかったんです。2019年にクールジャパンパーク大阪のこけら落とし公演として上演された「さんま・岡村の花の駐在さん」に出演させてもらったのがあったくらいで、同じ番組でしっかりとやらせてもらうことはなくて。
ご一緒させてもらうようになって、まず、心底驚きました。吉本興業の先輩方がおっしゃっていた通り、本当に、本当に、全く“オフ”がないんです。ずっとあのまんま。
あのまんま楽屋にいらっしゃいますし、あのまんまで新大阪駅に向かわれますし、あのまんまファンの方と話されてますし、何と言うんでしょうね、超人です(笑)。あれを2日だけやれと言われても、僕はできるかどうか微妙だと思います。
「そこは変えたらアカン」
稲田:あと、成功も失敗も全てを面白がってくださるというか。僕が収録で大スベリしても、さんま師匠だけは笑っていてくださる。また逆に、皆さん笑ってくださっている中、さんま師匠だけ笑ってない時もあるんですけどね(笑)。でも、それすらもイジらせてくれますし、前傾姿勢で臨めば絶対にどうにかしてくださる信頼感がすさまじいです。
ただ、ご自身の中の哲学というか、揺るがないものもしっかり持ってらっしゃるということを当たり前ながら再認識することもあります。
僕の定番的な流れで、僕が「お前、ゾンビみたいやな」と言われてノリツッコミで返すというのがあるんです。「そう、そう、そう。僕は関西弁しゃべるタイプのゾンビやねん。…なんでやねん!」という感じで。
ただ、この「関西弁しゃべるタイプのゾンビやねん」の部分は、その都度ワードを変えてやってるんです。ある収録で、そこを別の言葉に言い換えてさんま師匠の前でやったら、僕が言い終わるか終わらないかくらいのタイミングで「そこは変えたらアカン。『関西弁しゃべるタイプのゾンビ』やないと」とおっしゃったんです。もちろん笑いにするトーンでですけど、スパッと断ち切るというか。
河井:ひとつ思ったのは「日本の全国民がそのギャグや流れを知ってるわけじゃないんやから、どんな時でも一回目やと思って全力でやりきらなアカン。その一回を初めて見る人もいるんやから」という考えをお持ちだとは聞いたことがあるので、そのあたりからのことなのかなと。
松尾伴内さんに衣装のフリをして、松尾伴内さんが自分の服を指しながら「(男女)兼用です」という定番になっている流れがあるんですけど、それはもう25年やってらっしゃるんです。今でもやられますし。
そして、毎回、本当に初めて聞くトーンで、今たまたまそう思ったというようなトーンで「松ちゃん、その服?」と尋ねられるんです。
稲田:本当に違和感ないですからね。25年聞き続けて、よくあのトーンが出せるなと思うくらい、本当にスッと何気なく尋ねてらっしゃるんですよ。「あ、松ちゃん、それやけど」と(笑)。逆に、もうそこで笑ってしまうくらいナチュラルなトーンです。
毎回「初めて」の感覚
河井:ノリに飽きないというか、常に一回目のようにやりきる。普通なら、味が薄くなってきたガムを捨てるところで捨てずに噛み続ける。しかも、本気で噛み続ける。
それを目の当たりにさせていただいて、僕らが普段やっている漫才への気持ちも明らかに変わりました。
漫才師として恐らくは何千回と繰り返しているネタを舞台でやる時に、手を抜いているわけではないんですけど、毎回必ず一回目と同じ鮮度で、必死さで、やっているかと言われると、正直、微妙な部分も出てきます。
そこを今一度見つめ直すというか、僕らにとっては4562回目のそのネタかもしれないけど、それが1回目のお客さんも必ずいらっしゃる。そこの意識はさんま師匠とご一緒するようになって、確実に変わった部分だと思います。
稲田:あとは、元気よくやるということですかね。
河井:えらい、シンプルやな(笑)。でも、確かにそうかもしれないですね。さんま師匠は、ずっとアクセル踏みっぱなしですからね。常にエンジンがうなってますもんね。
初めてご一緒させてもらった「―駐在さん」の時に感じたんですけど、1回目の台本読みから、こんなに本気でフルパワーでおやりになるんやと。ジミー大西さんとの掛け合いも、完全に本番のトーンでおやりになるんです。けいこの時から100%。すごいなぁ…と思っていたら、本番では120%でやってらっしゃいました。まだ上があったんやと。積んでるエンジンが違うことをこれでもかと思い知った瞬間でもありました。
稲田:本当に、僕らとは次元が違うというか。
「次長課長」の河本さんのノリで、オランウータンが蟻塚をつついてなめる時のモノマネというのがあるんです。
それを河本さんがやられた後にさんま師匠が「稲ちゃんもやってみて」とおっしゃったんです。見よう見まねでやったものの、もちろん下手で。ただ、それが面白くて盛り上がったということが以前あったんです。
ところが、ある日の収録で、河本さんがいないのにいきなり僕から始まる流れでさんま師匠が「稲ちゃん、あれやって」と振ってこられまして。この流れはあくまでも河本さんの上手なモノマネがあって、次に下手な僕がやるから面白いというものなんですけど、僕からスタートすると、ただ下手なモノマネをやるだけになる(笑)。
最初はスタッフさんも気遣いで笑ってくださってたんですけど、案の定、最後はさんま師匠しか笑ってないという状況になっていました。その状況を見ていた「中川家」さんに後でお尋ねしたんです。「どういう気持ちで見ていたんですか」と。じゃ、お二人が声を揃えて「かわいそうやなぁ…と思って」と(笑)。
で、それも後日さんま師匠に言わせてもらったんです。そこでさんま師匠が「ごめんな。かわいそうに思われるような流れにするつもりは全くなかってん。オレ、ホンマにあれが好きやから。ただ、もうやめとくな。ごめんな」と言ってくださったんですけど、その翌週、また振られました。
河井:これもまた“25年パターン”に昇華させようという愛かもしれませんね(笑)。
稲田:僕らからしたら「中川家」さんも「次長課長」さんも超人なんですけど、その超人がおびえるくらいの存在ですからね。その場に居させてもらえる価値はとんでもないと思いますし、そこで日々多くのものを吸収させてもらっています。ただただ、ありがたいことやと思うんですけど、オランウータンの流れはまだ僕には負荷が大きすぎます(笑)。
(撮影・中西正男)
■アインシュタイン
1980年11月28日生まれの河井ゆずると84年12月28日生まれの稲田直樹が互いに別のコンビを経て、2010年に結成。ともに大阪府出身。吉本興業所属。16年、第1回上方漫才協会大賞を受賞。18年には第48回NHK上方漫才コンテストで優勝する。19年には「よしもと男前・ブサイク芸人ランキング」では稲田が3年連続ブサイク芸人1位を獲得。河井が男前芸人3位となった。20年から拠点を大阪から東京に移す。MBSテレビ「痛快!明石家電視台」、読売テレビ「あさパラS」などにレギュラー出演中。結成10周年を記念して全国10都市をまわる単独ライブツアーを開催中。今後は岡山公演(7月23日、倉敷市芸文館)名古屋公演(8月6日、御園座)、沖縄公演(8月22日、国立劇場おきなわ大劇場)、愛媛公演(9月23日、愛媛県県民文化会館)、東京公演(10月15日、ルミネtheよしもと)などを予定している。