Yahoo!ニュース

デュピルマブ治療中のアトピー性皮膚炎患者に多い結膜炎 - 最新の研究でわかったこと

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【デュピルマブとアトピー性皮膚炎】

アトピー性皮膚炎は、慢性的なかゆみと湿疹を主症状とする炎症性の皮膚疾患です。近年、中等症から重症のアトピー性皮膚炎に対する新しい治療薬として注目されているのが、デュピルマブという注射薬です。デュピルマブは、IL-4とIL-13という2つのサイトカインの働きを阻害することで、アトピー性皮膚炎の症状を改善する効果があります。

しかし、デュピルマブ治療を受けている患者さんの中には、結膜炎(目の充血や異物感などの症状)を発症する方が少なくないことが報告されています。今回、この問題に関する大規模なメタアナリシス(複数の研究を統合して行う解析)の結果が発表されました。

【デュピルマブ治療による結膜炎のリスク】

今回のメタアナリシスでは、デュピルマブの臨床試験23件、患者数9153人分のデータが解析されました。その結果、デュピルマブ治療を受けた患者群では、プラセボ(偽薬)群に比べて有意に結膜炎の発症率が高いことが明らかになりました(リスク比1.89、95%信頼区間1.34-2.67)。

特に興味深いのは、疾患別のサブグループ解析の結果です。アトピー性皮膚炎の患者さんでは、デュピルマブ群の結膜炎発症率がプラセボ群より有意に高かったのに対し(リスク比2.43、95%信頼区間1.89-3.12)、喘息や鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎、好酸球性食道炎の患者さんでは、両群に有意差は見られませんでした(リスク比0.71、95%信頼区間0.44-1.13)。

今回の結果から、デュピルマブ治療に伴う結膜炎のリスクは、基礎疾患によって大きく異なることがわかります。特にアトピー性皮膚炎の患者さんでは、結膜炎の発症に注意が必要といえるでしょう。

【アトピー性皮膚炎患者に対する対策】

デュピルマブ治療中のアトピー性皮膚炎患者さんには、結膜炎の症状の有無を定期的にチェックし、早期発見・早期治療を心がけることが大切です。具体的には、目のかゆみや充血、異物感などの症状が現れたら、すぐに眼科医の診察を受けるようにしましょう。多くの場合、点眼薬などの局所治療で結膜炎はコントロール可能です。重症化して視力低下などを引き起こす前に適切な処置を行うことが肝要と考えられます。

さらに、アトピー性皮膚炎自体が眼合併症のリスク因子であることも知っておく必要があります。皮膚バリア機能の低下により、眼表面の炎症を来しやすい状態にあるのです。従って、皮膚症状のコントロールを並行して行い、眼疾患の予防・改善にも努めるべきでしょう。

デュピルマブは、中等症〜重症アトピー性皮膚炎患者さんのQOL改善に大きく寄与する素晴らしい治療薬です。結膜炎のリスクを十分に理解し適切な対策を取ることで、その効果を最大限に引き出していきたいものです。

参考文献:

Lin, T.-Y. et al. (2023) Association between Dupilumab and Conjunctivitis: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Pharmaceutics, 15(4):1031.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

美肌アカデミー:自宅で叶える若返りと美肌のコツ

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月4回程度(不定期)

皮膚科の第一人者、大塚篤司教授が贈る40代50代女性のための美肌レッスン。科学の力で美しさを引き出すスキンケア法、生活習慣改善のコツ、若々しさを保つ食事法など、エイジングケアのエッセンスを凝縮。あなたの「美」を内側から輝かせる秘訣が、ここにあります。人生100年時代の美肌作りを、今始めましょう。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

大塚篤司の最近の記事