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韓国を脱出する外国人選手も出現…新型コロナで大混乱の韓国スポーツ界

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
無観客で行われたFIBAアジア予選の韓国対タイ戦(写真:スポーツソウル)

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、スポーツ界にも大きな影響が出ている。

サッカーJリーグが延期を決定したことをはじめ、ラグビーのトップリーグ、バスケBリーグなども延期となった。またプロ野球のオープン戦、女子ゴルフの開幕戦は無観客で行われる。

今後も延期や無観客を発表するスポーツが増えそうだが、新型コロナの被害を受けている韓国も状況は似ている。

いや、むしろ日本よりも混乱が大きいといえるかもしれない。

というのも、韓国では感染者数が1500人を突破するなど日本以上の被害が出ており、スポーツ界における混乱もさらに“重症”だからだ。

外国人選手の“韓国脱出”が現実に

例えば、外国人選手の“韓国脱出”が始まってしまった。

韓国プロバスケットボールリーグのKBLは、無観客でリーグを再開することにしたが、釜山KTの外国人選手が帰国してしまったのだ。

(参考記事:「韓国は怖いから帰国する」プロバスケ選手が新型コロナを理由に退団

釜山KT関係者は「アレン・ダーラムが新型コロナへの心配から、韓国での残りのシーズンをプレーしないと、2月27日に帰国した」と明かした。

規定によれば、契約中の選手が一方的にチームを離れて契約を破棄した場合、選手資格がはく奪される。つまりアレン・ダーラムはそういったリスクもいとわず、韓国を脱出したことになる。

韓国メディア『NEWSIS』が「男子プロバスケが外国人選手たちの“集団脱出”の憂慮で緊張」と伝えているように、アレン・ダーラムのように今後、韓国を脱出する外国人選手が次々と増えていきそうな気配がある。

「韓国に入国したくない」という他国クラブが増加

サッカーのKリーグは早々と開幕延期を発表しているが、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)でも混乱が生じている。同大会ではすでに中国クラブとの対戦が延期されるなどしているが、韓国での試合も難しくなりそうだ。

3月に韓国での試合を予定していたタイとオーストラリアのクラブが、新型コロナウイルスの影響で「韓国への入国を拒否している」(『スポーツソウル』)というのだ。

Kリーグを運営する韓国プロサッカー連盟は、アジアサッカー連盟(AFC)から無観客試合で開催する承認を得ているが、対戦する相手クラブが「韓国に入国したくない」と主張しているわけだ。

関連記事を報じた『スポーツソウル』は関係者のコメントとして、「FCソウルと蔚山現代が予定された試合日に合わせて、それぞれタイとオーストラリアで先にアウェー戦を行う案も検討中だと聞いている。ただ現地に(韓国人入国関連の)規定が存在するため、それさえもままならない状況だ」と報じた。

韓国に入国することも避けられ、韓国人が自国に入国してくることも望んでいないという状況なのだ。

各国が韓国人を入国禁止&手続き強化

事実、韓国内で感染者が急増した影響で、世界各国が韓国人の入国を禁止するなど、入国手続きの強化に乗り出している。

韓国外交部(日本の外務省に相当)によると、2月24日現在で公式に韓国からの入国を禁止した国家は、イスラエル、バーレーン、ヨルダン、キリバス、サモア、アメリカ領サモアの6カ国。

また韓国から入国した者を一定期間隔離したり、健康状態を観察したりするなど、入国手続きを強化した国は、ブルネイ、イギリス、トルクメニスタン、カザフスタン、マカオ、オマーン、エチオピア、ウガンダ、カタール、ブラジル、シンガポール、タイ、ミクロネシアの計13カ国に上る。

その他の国でも、韓国人の入国手続きを強化した国が増えており、「“NOコリア”が拡散」(『ファイナンシャルニュース』)している状況だ。

国際大会、東京五輪やワールドカップにも影響?

3月22日から韓国の釜山(プサン)で予定されていた世界卓球選手権大会は延期され、3月13日からソウルで予定されていたスピードスケート、ショートトラックの世界選手権は中止となった。

直近では、3月6日に予定されている女子サッカーの東京五輪予選プレーオフが開催の危機に立たされている。韓国女子サッカーは史上初のオリンピック出場までプレーオフを残すだけとなったが、その第1戦の開催地である龍仁(ヨンイン)市が開催拒否の意思を明らかにしたのだ。

男子サッカーのW杯アジア予選も同じで、韓国は3月26日にホームでトルクメニスタンと対戦する予定だが、開催が不透明となっている。

さらに前述のとおり、韓国人に対する入国禁止や手続き強化のなかで、海外組の招集にアクシデントが発生する可能性までささやかれている。最近の男子サッカーAマッチ(11月のレバノン戦、ブラジル戦)では、9カ国から韓国代表選手が招集された。

もし現在の状況が続いた場合、ナ・サンホやキム・ヨングォンなど日本のJリーグに所属する選手たちや、カタールリーグ所属のナム・テヒ、チョン・ウヨンなどはAマッチを終えてそれぞれの所属チームに復帰するとき、入国の問題が生じる可能性がある。カタールは韓国人の入国手続きを強化しており、日本も大邱(テグ)や慶尚北道などに滞在歴のある外国人の入国を拒否しているからだ。

試合を予定通り開催できるかだけでなく、代表選手を何事もなく招集できるのかという危惧まで出ているわけだ。不測の事態が起きれば、ワールドカップ予選にも影響が出ざるを得ない。

いずれにしても新型コロナウイルス感染症の影響で、多大な混乱を迎えている韓国スポーツ界。いつ事態が収拾されるのかがわからないだけに、関係者やファンの不安もますます大きくなっている。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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