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EURO決勝はポルトガルとフランス。大会ベスト11は?

小宮良之スポーツライター・小説家
獣のような跳躍からヘディングシュートを決めるクリスティアーノ・ロナウド(写真:ロイター/アフロ)

7月10日、EURO2016は1ヶ月間の激闘に幕を下ろす。フランスの各スタジアムを舞台に、選手たちはいくつものドラマを紡いできた。勝者と敗者、両者の間は光と影で克明に分かれることになったが、人生を謳歌するようなプレーはフットボールファンを楽しませたと言えるだろう。

そこで決勝戦を前に、決勝トーナメントに入ってから「フットボールの享楽」を体現したトップ11人を選んでみた。

GK ジャン・ルイジ・ブッフォン(イタリア、ユベントス)

決勝トーナメント、スペイン戦終盤にピケに鼻先で合わされたシュート、右手一本で弾き出したシーンは伝説に残るだろう。

「ブッフォンは試合の流れを決められる」とパオロ・マルディーニはEURO開幕前に語っていたが、スペインの三連覇の夢を打ち砕き、「イタリアは死なず」を世界に打電した。38歳という年齢だが、ステップワークやポジショニングを研ぎ澄ませてきただけに、経験が肉体的衰えに優っている。その生き方というか、覇気が技術を最大限に高めていた。準々決勝のドイツ戦はPK合戦で敗れたが、マリオ・ゴメスのヒールシュートを遮ったシーンは神懸かっていた。サポーターへの挨拶を終え、泣き崩れそうになる顔を耐えるシーンは感動的だった。

右SB ヨシュア・キミッヒ(ドイツ、バイエルン・ミュンヘン)

本職はボランチ、もしくはセンターバックだが、右サイドバックとしても、ラームと比べても遜色ないプレーを見せている。サイドのプレーメーカーとしての役割を担い、エジル、ミュラー、ドラックスラーと連係しながら崩す技巧は、21歳という年齢に似合わず、ほとんど名人芸だった。準々決勝、イタリア戦は右ウィングハーフのようなポジションを託されると、対面するデ・シリオの持ち味を消しつつ、攻撃でも深く奥まで進入を繰り返すなど貢献をしていた。

CB ぺぺ(ポルトガル、レアル・マドリー)

決勝トーナメントのクロアチア戦、防衛戦を下げそうになるチーム全体を鼓舞し続けた。膠着状態での積極的守備は瞠目。延長後半の決勝点の直前、FWに入れ替わられて危機を迎えたが、その気迫こそが直後のカウンターにつながったとも言える。準々決勝のポーランド戦は守りの極意を感じさせ、どこに立ち、どこで間合いを詰め、どうやって足を出すか、敵との呼吸は才気煥発。レバンドフスキーへのパスをインターセプトしたシーンなども練達だった。年齢的にスピードは衰えたが、守備者としては至高の境地にたどり着いている。

CBジェローム・ボアテング(ドイツ、バイエルン)

「将軍」を思わせる落ち着いた差配。巨体だが、ステップワークに優れ、小柄で俊敏な選手も簡単に追い詰める。空中戦に強く、ラインコントロールにも長じ、しかも、ロングシューターとしても抜きん出ている。ディフェンスリーダーとしての風格もあり、非の打ち所がない。しかし皮肉にも、完璧であるが故に凡ミスが出ることも。イタリア戦でPKを与えたバンザイのハンドは致し方ないものの、狙いすぎたロングパスがラインを割ることもあった。

CBマッツ・フンメルス(ドイツ、ボルシア・ドルトムント→バイエルン)

世界で一番エレガントな守備者。常に読みで優っており、無理がない守備ができる。インターセプトもお手の物だが、間合いを見きっているので、入れ替わられるようなポカもない。3バック、4バックにもなんの支障もなく対応し、その順応生と利発さを証明している。また、そのキックのクオリティは抜群に高い。ボランチがプレスにはめられても、最後方からプレーメイキング。準々決勝のイタリア戦、長短に蹴り分けるパスは味方に活路を与えていた。

アンカー トニ・クロース(ドイツ、レアル・マドリー)

ドイツが進撃を続ける中、派手な活躍はない。意表を突くロングパスを得意としているが、そうしたプレーは限定的。ただし、ドイツのポゼッションスタイルの中、丹念なプレーを続ける。パス回しでクロースがいないことを考えると、戦いは破綻していたかもしれない。それほどの妙技。敵のマークをあえて引っ張りながら、他の選手をフリーにし、機を見てギャップに入るなど、我慢強いプレーメイキングは随一。

攻撃的MF レナト・サンチェス(ポルトガル、ベンフィカ→バイエルン・ミュンヘン)

恐るべき十代、ロナウドにすら気を遣わない。年齢詐称疑惑が大会中も燻るほどで、その胆力は、戦術、体力、技術とすべてを兼ね備えた自信からくるものか。バイエルン・ミュンヘンが獲得に40億円以上の大金を支払うのも納得だろう。決勝トーナメント、ポーランド戦は卓抜のプレーを見せ、絶好のタイミングでパスを流し込んでいた。後半にサイドハーフになってからは球離れの良さが消えてしまったが、熾烈な戦いの中で成長を遂げている。

攻撃的MF アーロン・ラムジ―(ウェールズ、アーセナル)

ベイルと一緒に、トップの後方のシャドーに入って絶妙の連係を見せた。まさに縦横無尽。そのコンビプレーは漫画のキャラクターのようで、あうんの呼吸で敵ディフェンスを切り裂いた。準々決勝のベルギー戦、決勝点はベイルが自陣まで下がったところから奥深くへのロングパスをラムジーがオフサイドラインを突破して引き受け、それを折り返したものだった。準決勝のポルトガル戦、出場停止でなかったら・・・。

FW ガレス・ベイル(ウェールズ、レアル・マドリー)

単騎で敵陣を駆け抜ける、無双の武将のように映った。その雄姿は全軍を奮い立たせ、自信を与えられる。決勝トーナメント、北アイルランド戦は、ベイルが固く見えた陣形を打ち破っている。左足で蹴り込んだクロスの質と強度とタイミングは卓抜だった。準々決勝、ベルギー戦はラムジーへの好パスを配球するなど、起点にもなった。準決勝、ポルトガル戦は劣勢を強いられる中、火を噴くような左足のシュートで意地を見せた。

FW アントワーヌ・グリーズマン(フランス、アトレティコ・マドリー)

大会が進むにつれ、総毛立つような得点力を見せている。一瞬の間合いで、マーカーの背後にポジションを取れる。その感覚は簡単に見えて、達人の域。メッシ、ロナウド時代を継ぐ選手は、現時点で彼しかいないだろう。ただ、フランス自体がインテンシティ中心に作られたチームで、強引に攻める布陣にならないと有効なボールが少なすぎた。それでも牽引するのがエースの宿命か。

FW クリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル、レアル・マドリー)

ロナウドは年齢か、コンディションか、大会序盤はイメージと体の動きが合わなかった。今までの彼なら決めていたシュートを空振り、FKも入る予感がなかった。しかし、その存在が相手DFを消耗させていたのは間違いない。そしてクロアチア、ポーランド、ウェールズと勝ち上がる中、尻上がりに調子を上げた。ウェールズ戦のヘディングは大鷲を思わせ、古今無双。また、当たり損ないのシュートがアシストになるなど運命を背負う。

ベスト11では、バイエルンの所属選手が多くなったことは興味深い。それだけの人材を揃えているということだろうか。同点で多かったのが、欧州王者であるマドリーだった。

次点はGKはルイ・パトリシオ(ポルトガル)、右SBはアレッサンドロ・フロレンツィ(イタリア)、CBは、レオナルド・ボヌッチ、ジョルジョ・キエッリーニ(イタリア)、左SBはヨナス・ヘクター(ドイツ)、ボランチはギルフィ・シグルドソン(アイスランド)、ウィリアム・カルバリョ(ポルトガル)、ブレーズ・マチュイディ(フランス)、攻撃的MFはディミトリ・パイエ(フランス)、メフト・エジル(ドイツ)。

アイスランドの選手はベスト11には入らなかったが、チームとしては最も好感が持てた。独特の応援は大会を振り返るとき、風物詩になるだろう。

そして決勝の行方は――。まもなく祭りは最高潮を迎える。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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