なぜレアルはカゼミロを放出したのか?ユナイテッドの”98億円”のビッグオファーとピルロの記憶。
移籍の噂が立ち、成立するまで時間はかからなかった。
マンチェスター・ユナイテッドが、カゼミロを確保した。移籍金7000万ユーロ(約98億円)+ボーナス1500万ユーロ(約21億円)をレアル・マドリーに支払い、カゼミロの獲得を決めている。
■カゼミロへの大型契約
スペイン『マルカ』で、ユナイテッドのカゼミロへの関心が一面で伝えられたのは8月17日だ。そこから1週間も経たずに、カゼミロの移籍に関するオペレーションがまとまった。
ただ、ユナイテッドは8月初旬からカゼミロの獲得を真剣に検討していた。推定年俸500万ユーロ(約7億円)のカゼミロに対して、倍額に相当する年俸1000万ユーロ(約14億円)を用意。加えて、2026年夏(+1年延長オプション)までの長期契約を準備して、カゼミロを引き入れようとした。
一方、マドリーはカゼミロ(30歳)の移籍をブロックしなかった。
マドリーでは、30歳を超えた選手というのは、基本的に単年契約で契約延長を行う。クリスティアーノ・ロナウドであれ、セルヒオ・ラモスであれ、カゼミロであれ、フロレンティーノ・ペレス会長は例外を許さない。その中で、キャリア終盤にビッグオファーが届いたのだから、カゼミロの心が揺れたのは当然かもしれない。
マドリーとしては、30歳の選手を高額な移籍金で売れるチャンスだった。そもそも、カゼミロの獲得に要した資金(買い戻し権利行使を含め13400万ユーロ)を考えれば、移籍金7000万ユーロでの売却はビジネスとして無視できるものではない。
そう、カゼミロの売却はクラブとしても大きな収入になるのだ。
クリスティアーノ・ロナウド(移籍金1億500万ユーロ/ユヴェントス/2018年夏)、アンヘル・ディ・マリア(7500万ユーロ/ユナイテッド/2014年夏)、アルバロ・モラタ(6600万ユーロ/チェルシー/2017年夏)、ラファエル・ヴァラン(5000万ユーロ/ユナイテッド/2021年夏)、メスト・エジル(4700万ユーロ/アーセナル/2013年夏)…。カゼミロの売却値はマドリーの放出した選手の移籍金ランキングで3位に位置する。
■穴を埋める仕事
また、マドリーは今夏、モナコからオウリエン・チュアメニを獲得した。トニ・クロース、ルカ・モドリッチ、フェデリコ・バルベルデ、エドゥアルド・カマヴィンガ、ダニ・セバージョス、チュアメニと6名が中盤の選手として控えている。
「カゼミロの移籍の意思は明確だった。最終的に合意に至り、移籍することになったとしても、彼の穴を埋めるためのリソースを我々は備えている」とはカルロ・アンチェロッティ監督の弁だ。
「代わりの選手はいる。チュアメニは世界最高峰のMFで、カマヴィンガは昨シーズン、そのポジションでプレーした。クロースという選択肢もある。以前、私がマドリーを率いていた頃(2014−15シーズン)、何度かそのポジションでプレーした」
「カゼミロの特徴やプレースタイルを備えている選手はいない。そういうプレーをする選手の代役を見つけるのは不可能だ。だが、ほかの選手がいる。例えば、私のチームでは、ピルロがボランチでプレーした」
アンチェロッティ監督はミラン時代(2001−2009)にアンドレア・ピルロをボランチにコンバートした過去がある。
当初、トップ下にはルイ・コスタという絶対的な司令塔がいた。そこで、アンチェロッティ監督はピルロのアンカーへのコンバートを思いつき、最終的にはクラレンス・セードルフ、ジェンナーロ・ガットゥーゾといったハードワークが可能な選手で両サイドを固めるという一策を講じた。
カゼミロの残した穴を完全に埋めるのは不可能だろう。だが現行戦力の運用という意味で、アンチェロッティ監督を上回る指揮官はいない。レアル・マドリーの、新たなチャレンジが始まる。