なぜ処方されにくい? 新型コロナの軽症者向け経口抗ウイルス薬
特例承認されている新型コロナの抗ウイルス薬は3種類ありますが、そのうち2種類は軽症者向けの経口抗ウイルス薬です。実は、医師と薬剤師がびっくりするほど煩雑な仕組みになっています。
新型コロナの抗ウイルス薬
現在、特例承認されている経口抗ウイルス薬には、モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)とニルマトレルビル/リトナビル(商品名パキロビッド)の2つがあります。いずれも発症から5日以内に内服を開始し、5日間飲み切って治療終了となります。その他、点滴で投与可能な抗ウイルス薬に、レムデシビル(商品名ベクルリー)があります(表)。軽症者の場合、3日間連続で点滴して治療終了となります。
国際的にはラゲブリオよりもパキロビッドのほうが推奨されています(1)。ただ、後述するように、パキロビッドはお薬の飲み合わせが悪かったり、腎臓の機能が悪い人には減量しなければならなかったり、というハードルも懸念されています。
元気な若者には処方されない
さて、若い新型コロナの患者さんが「抗ウイルス薬をください」としばしば来院されるのですが、軽症者向けの治療薬として配分されているものの、基本的に重症化リスク因子がある人に投与が限られており、元気な若者が処方されることはありません。
この理由は、安定的な供給が難しいことから、一般流通が行われていないためです。そのため、新型コロナの経口抗ウイルス薬は処方対象者は極めて限定されており、インフルエンザのオセルタミビル(商品名タミフル)などのように、軽症の若者に投与できるわけではありません。
煩雑な手続き
点滴のベクルリーは一般流通しているので比較的簡単に使用できますが、経口抗ウイルス薬のラゲブリオとパキロビッドは、極めて手続きが煩雑です。
上述したように、まず処方対象者が限られており、医療機関や調剤薬局は、経口抗ウイルス薬の登録センターに施設登録する必要があります。さらに、患者さんからの同意書が必要になります。院外処方箋の場合、電話で「経口抗ウイルス薬の処方は可能ですか?」と尋ねて、調剤薬局に適格性チェックリストをFAXする必要があります。後日、このチェックリストは調剤薬局に郵送する必要があります。新型コロナに感染した本人が調剤薬局に処方箋を持ってくるわけにはいかないので、患者さんは自宅で薬剤の配送を待つことになります(図)。
ま、まるで「処方するな」と言わんばかりの煩雑さです・・・。
発熱外来を受診する場合、保険証を持ってくる患者さんは多いですが、お薬手帳を忘れてしまう人が多いです。また、新型コロナのPCR検査はおこなっても、血液検査までおこなう医療機関は多くありません。
そのため、薬の飲み合わせが悪かったり、腎臓の機能が評価できなかったりするため、パキロビッドを処方しにくいと思う医師は多いかもしれません。
まとめ
新型コロナの軽症者向け抗ウイルス薬の処方対象はかなり限定されており、まだ一般流通していません。さらに、現場の医師や薬剤師がドン引きするほど手続きが煩雑なので、処方の閾値はかなり高い状況です。
医療のデジタル化が叫ばれつつも、新型コロナ診療の現場としては非常にアナログな運用が多く、まだまだ課題は山積みです。
(参考)
(1) Antiviral Drugs That Are Approved, Authorized, or Under Evaluation for the Treatment of COVID-19(URL:https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/therapies/antiviral-therapy/summary-recommendations/)