イスラエル首相らに逮捕状、数々の戦争犯罪、問われる国際社会の対応
人口密集地や避難所、病院への爆撃、人道支援活動への妨害、手当たり次第の拘束と収容施設での虐待…昨年10月からのイスラエルによるガザ等のパレスチナ自治区への攻撃は、常軌を逸しており、毎日の様に国際人道法違反が繰り返されている。こうした中、ようやく国際刑事裁判所(ICC)が動いた。イスラエルのネタニヤフ首相およびガラント前国防相を戦争犯罪の容疑で国際逮捕状を出したのだ。本稿では、この逮捕状および、今年9月に公表された国連のガザ攻撃に関する報告書について、解説していく。
〇ICCとその逮捕状
ICCは、独立した常設の国際裁判所で、ジェノサイド(大量殺戮)の罪や人道に対する罪、戦争犯罪を問われる個人を裁く。最近では、ウクライナ侵攻に関連して、同国の子ども達を誘拐し、ロシアに連行する命令を下したとして、プーチン大統領に対し国際逮捕状を出している。「国際刑事裁判所ローマ規程」を締約した日本も含む世界124カ国は、この国際逮捕状が出されている人物が自国に来た場合に逮捕することが求められる。
通常、ICCの逮捕状は、証人を保護し、捜査の進行を保障するために、その詳細は「秘密」とされている。だが、今回に関しては、逮捕状の内容と同様の行為が現在も行われているとして、ICCは、容疑の概要の一部を公開している。それによると、今回、イスラエルのネタニヤフ首相およびガラント前国防相が問われているのは、戦争手段として、意図的にガザでの飢餓を引き起こした容疑*や、医療物資等の人道支援を阻害し、その結果、ガザの民間人に極度の苦痛を与えた容疑、また、殺人、迫害、その他の非人道的行為という人道に対する罪に関しても、ネタニヤフ首相とガラント前国防相刑は事責任を負うに足りる根拠があると判断したのだという。
*戦争の手段として飢餓を引き起こすことは、戦争犯罪にあたる。
〇ネタニヤフ首相とガラント前国防相の容疑
ICCは、ネタニヤフ首相とガラント前国防相がその刑事責任を問われる容疑について、
・食糧、水、電気、燃料、および特定の医薬品の不足により、ガザの民間人の一部を破滅に導くような生活環境が作り出され、その結果、栄養失調や脱水症状により子どもを含む民間人が死亡したと信じるに足る十分な根拠があると認定した。
・ガザ地区への医療物資や医薬品、特に麻酔に関連する医療物資の流入を意図的に制限または阻止することで、治療を必要とする人々に非人道的な行為で多大な苦痛を与えた責任も負っている。医師らは、子どもを含む負傷者の四肢切断手術を麻酔なしで行うことを余儀なくされたほか、患者を鎮静化させるために不適切かつ危険な手段を使わざるを得ず、極度の苦痛と苦痛を与えた。これは、その他の非人道的行為による人道に対する罪に相当する。
・ネタニヤフ首相とガラント前国防相が、ガザの民間人に対する攻撃を意図的に指揮した戦争犯罪について、文民上官として刑事責任を負うと評価した。二名は、犯罪の実行を防止または抑制する、あるいは管轄当局に問題を提起することを確実にする手段を有していたにもかかわらず、そうしなかったと信じるに足る十分な根拠がある。
として、そのウェブサイトで明らかにしている。
ICCが容疑としてあげている戦争の手段としての飢餓や、人道支援の阻害は、国連機関の報告からも見て取れる。UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)のフィリップ・ラザリーニ事務局長は今年10月の時点で、ガザ入りしている人道支援のためトラックは、ガザ攻撃以前の商用および人道支援物資のそれと比較してわずか6%にすぎないと述べている。また、OCHA(国連人道問題調整事務所)によれば、ガザでは人口の9割以上が深刻な食料不足に直面し、5万人超の子供が急性栄養失調で治療を必要としているという。
逮捕状が出されたことで、ネタニヤフ首相やガラント前国防相は、イスラエル国内にいる限り、身柄が拘束されるということはないが、上述のように日本も含めたローマ規定締約国は、その領内に上記二名が来た場合に、逮捕することを求められている。そのため、ネタニヤフ首相らは、国外での活動を大きく制限されることになる。米国はローマ規定締約国ではなく、フランス等は「ネタニヤフ首相は免責の対象」とするなど締約国としての義務に従わないことを表明しているとは言え、イギリスは逮捕の可能性を示唆するなど、イスラエルに甘い欧米諸国の間でも対応は分れている。また、義務違反は、締約国会合で問題として取り上げられるため、仮にネタニヤフ首相が訪仏し逮捕しなかった場合、そうした対応が批判され、フランスが苦しい立場となることも予想される。そして日本もローマ規定締約国であるため、ネタニヤフ首相らを逮捕することは条約上の義務である。
〇ガザの医療機関への攻撃―国連人権理事会に提出された報告書
今回のICCの逮捕状に先立つ、今年9月、国連人権理事会に提出された独立調査委員会による調査報告書(関連情報)は、特に医療機関や患者、医療従事者や人道支援関係者への攻撃や、人々の健康への悪影響、拘束中の被拘禁者に対する虐待等を取り上げている。
この記事は有料です。
志葉玲のジャーナリスト魂! 時事解説と現場ルポのバックナンバーをお申し込みください。
志葉玲のジャーナリスト魂! 時事解説と現場ルポのバックナンバー 2024年11月
税込440円(記事1本)
2024年11月号の有料記事一覧
※すでに購入済みの方はログインしてください。