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ラストアイドルが5年間の活動に終止符。テレビ主導の企画に揺れた中で残したもの

斉藤貴志芸能ライター/編集者
ラストアイドル「LAST SMILE」より (C)ラストアイドル制作委員会

オーディション番組から生まれて5年、ラストアイドルが活動を終了。最後のライブを5月29日に東京ガーデンシアターで行った。メンバーを決める1対1の入れ替えバトルに始まり、番組で過酷な企画に挑戦してはCDリリースを続け、終止符を打つステージでは31人が昼夜2公演で全楽曲を披露。波乱万丈の5年間が蘇った。

最初に選ばれた7人から残ったのは3人

 ラストライブ夜公演の1曲目は『バンドワゴン』。阿部菜々実、安田愛里、鈴木遥夏の3人で歌い始めた。ラストアイドルはもともと、秋元康プロデュースでこの曲でデビューする7人のメンバーを決めるオーディション番組『ラストアイドル』で生まれている。

 暫定メンバーに挑戦者が対戦相手を指名するパフォーマンスバトルで、勝ったほうが残る入れ替え方式。最後に残った7人が“ラストアイドル”となった。その中で、活動終了までグループに留まったのが、センターを務めた阿部ら3人だった。

 2曲目からは「セカンドユニット」の曲が続けられる。バトルの敗退者で結成された4組。カッコイイ系のGood Tears、アイドル性の高いシュークリームロケッツ、さわやかなSomeday Somewhere、ゆるふわなLove Cocchi。この日のライブでは卒業したメンバーのポジションに他のメンバーが入りつつ、それぞれの持ち味を発揮していた。

 セカンドユニットは敗退したメンバーの救済として、ファンも歓迎する向きが多かった。そして、番組のセカンドシーズンでは2ndシングルの表題曲を懸けて、ラストアイドルを含めた5組による「プロデューサーバトル」が行われた。

 秋元康のほか、小室哲哉、つんく、織田哲郎、指原莉乃が各ユニットのプロデューサーに就いての総当たり戦。決勝で秋元プロデュースのシュークリームロケッツが優勝し、「君のAchoo!」が2ndシングルに。ラストライブで同曲は、卒業した長月翠のポジションに2期生から大場結女が入って披露された。

『バンドワゴン』を歌うラストアイドル (C)ラストアイドル制作委員会
『バンドワゴン』を歌うラストアイドル (C)ラストアイドル制作委員会

シュークリームロケッツ (C)ラストアイドル制作委員会
シュークリームロケッツ (C)ラストアイドル制作委員会

多数決を否定した審査の狙い

 このプロデューサーバトルも番組的には盛り上がった。だが、ファーストシーズンを勝ち抜いてデビューした“ラストアイドル”が、敗退組のセカンドユニットと同列になるなら、最初のバトルは何だったんだ……というしこり感も抱かせた。もちろん、テレビ番組として展開が必要だったのはわかるが。

 オリジナルのラストアイドルはその後、LaLuceに改名。ファミリー全体でラストアイドル、との位置付けに変わっていった。

 ラストアイドルはこんなふうに、テレビ番組としての企画性とアイドルグループの本筋の間で揺れ続けたグループだった。そもそも入れ替えバトルから、4人の審査員のうち“天の声”が指名した1人の判定で勝敗が決する、異例の形。4人の判定が3対1であったとしても、指名された1人の審査員が1のほうを選んでいたなら、そちらの勝ちとなる。実際そういう結果も生じた。

 バラエティ色が強いシステムに見えるが、秋元の「多数決では指原莉乃は生まれない」との考えによるものだったという。確かに、芸能界では平均点の高いタイプより、何かひとつ飛び抜けているほうが成功することは少なくない。だが、結果的にラストアイドルのオーディションでは、この方式が活きて異能派が世に出た例はなかった。

Good Tears (C)ラストアイドル制作委員会
Good Tears (C)ラストアイドル制作委員会

あいまいな判定基準に炎上も

 方式より疑問だったのは、審査員によってバラバラな判定基準のあいまいさだ。「こういうタイプはグループにいてほしい」「この子の成長を見ていきたい」……。わからなくはないが、だったら歌とダンスを競うバトルは何のためにやっているのか?

 特に視聴者の反発が噴出したのは、2期生を決めるサードシーズンでの水野舞菜と加藤ひまりのバトル。暫定で立ち位置2番(Wセンター)の水野に、長かった髪をバッサリ切って挑んだ看護学生の加藤は、欅坂46の『不協和音』を気迫たっぷりに歌い圧倒的なインパクトを残した。

 審査員も3人が加藤に軍配を上げたが、ジャッジを託された宇野常寛氏だけが水野。「現時点では(暫定立ち位置1番の)篠原(望)のグループ。篠原さんの隣りに来るバランスを考えました」とのことだった。結局、その後のバトルで篠原も敗れて、入れ替わることになるのだが……。

 加藤の努力の成果がはっきり伝わった分、理不尽に見えたこの判断。宇野氏のツイッターだけでなく、何の非もない水野にまで炎上が及んだ。

 後にNiziUを生んだ「Nizi Project」で、プロデューサー・J.Y.Park氏のオーディション参加者への的確かつ温かみのある言葉を耳にするにつけ、ラストアイドルの残念だった部分に感じたのは否めない。

Someday Somewhere (C)ラストアイドル制作委員会
Someday Somewhere (C)ラストアイドル制作委員会

「兼任可」で発掘された阿部菜々実ら

 一方、ラストアイドルのオーディションで最も良い結果を生んだのは、ファーストシーズンで「他のグループとの兼任可」としていたことだろう。

 絶対的センターとなった阿部菜々実は当時、仙台を拠点とするパクスプエラのメンバーだった。挑戦者として番組に登場し、暫定センターの間島和奏を破ったバトルで、パフォーマンス力の高さに加え、170cmの長身とルックスの良さも際立っていた。多くのアイドルファンを「こんな逸材がいたのか」と驚かせるほどに。

 阿部自身、「地方アイドルさんや地下アイドルさんでも、実力があってかわいい方はたくさんいます。ラストアイドルではチャンスがありました」と語っていた。活動終了前の取材では「ずっと仙台でアイドルをやってきて、何をしても何の反応もなくて。テレビに出ただけでこんなに違うのは、最初ビックリしました」とも。

 昨年7月に卒業するまで、エース格の人気メンバーだった長月翠も、暫定メンバーのオーディションを受けた当時は、地下アイドルのオープニングシスターズで活動していた。2018年に卒業してからバラエティでブレイクした王林も、青森の地方グループ・りんご娘のメンバーだった。こうした人材をメジャーシーンで花開かせたのは大きい。阿部はこの日のステージでも終始、大人数の中で圧倒的な存在感を放っていた。

LaLuce (C)ラストアイドル制作委員会
LaLuce (C)ラストアイドル制作委員会

過酷な企画は「何が来ても乗り越えられる自信に」

 ライブでユニットコーナーのあとは、2期生アンダーが『サブリミナル作戦』を歌い、橋本桃呼がセンターを務めた2期生のデビューシングル『愛しか武器がない』でも盛り上げた。

 『ラストアイドル』は2期生が決定後、2018年10月から『ラスアイ、よろしく!』となり、オーディション番組から転換してバラエティ色が打ち出される。

 柱となったのは、シングル発売に際してのメンバーの挑戦企画。アイドルとは関係なさそうな「歩く芸術」(集団歩行パフォーマンス)に始まり、登美丘高校のバブリーダンスを手掛けた振付師・akane氏による「最高難度のダンス」、選抜オーディションバトル、殺陣、ボリウッドダンス……と挑んでいった。成果によって立ち位置が決められ、習得したスキルが楽曲のパフォーマンスに取り入れられた。

 テレビ的ではあるが、アイドルが競うには過酷。ラストライブに元審査員としてビデオメッセージを寄せた吉田豪氏は、「どのアイドルよりも努力して報われなかったグループ」との印象を語っていた。

 取材でメンバーにこうした企画をどう受け止めているのか、聞いたこともある。

「テレビから生まれたアイドルの宿命だと考えて、ずっとやってきました」(阿部)

「最初は『アイドルグループに入ったのに何で?』と思いましたけど、メンバーにとって企画は前提。観ている方に感動してもらえたらいいなと。他のアイドルにはない強みだとも思います」(畑美紗起)

「バトルはイヤですけど、やれと言われたら意外とやり切れちゃいます。しかも毎回強くなれるので、成長するにはいいんじゃないかなと」(西村歩乃果)

 活動終了発表後には、小澤愛実が「殺陣とかが直接役に立つかはわかりませんけど(笑)、ラストアイドルで怖いことを散々やってきたので、何が来ても乗り越えられる自信はあります」と話していた。

Love Cocchi (C)ラストアイドル制作委員会
Love Cocchi (C)ラストアイドル制作委員会

殺陣や集団歩行を取り入れた圧巻のパフォーマンス

 ラストライブ後半では、企画に紐づくシングル曲も相次いで披露された。『何人(なんびと)も』は剣をふるいながらパフォーマンス、『大人サバイバー』では集団で一糸乱れぬ歩行をしながら後ろ歩きで交差したり。

 『青春トレイン』では列車が進んでいくような動きの入った力強いダンスを見せ、『君は何キャラット?』ではインド風のユニークな振りが目を引いた。圧巻の連続。これだけのことをよくゼロからモノにしてきたと、改めて感銘を受けた。

 アンコールでは再び『バンドワゴン』が歌われた。オリジナル“ラストアイドル”の3人を中心としたストリングス・バージョンから、メンバー全員が一体になって熱唱。

 阿部は「ラストアイドルでは苦しいことも、辛いことも、やるせないこともあって、悔しさはしばらく抱えたままでいるんだろうなと思っています。でも、最高のメンバーたちと戦って、支え合って、高め合って、このステージに立てたことは誇りです」と語った。

『大人サバイバー』を歌うラストアイドル (C)ラストアイドル制作委員会
『大人サバイバー』を歌うラストアイドル (C)ラストアイドル制作委員会

誇りを胸にメンバーの人生は続いていく

 オーラスは最初で最後のアルバム『ラストアルバム』に収録された『僕たちは空を見る』。会場が白いペンライトで一色となった中、<まだ届かない遠い夢だって あの場所で輝く 諦めないよ いつの日かきっと>との歌詞が染みた。

 最後のMCも阿部が締める。

「ラストアイドルは活動終了しますが、私たちメンバーの人生はまだまだ続いていきます。皆さんがたまにラストアイドルを思い出して、力を与えられる存在になれていたら嬉しいです」

 2期生アンダー、2期生、1期生のユニットごとに、ステージを後にしていく。そして、阿部、安田、鈴木の3人が「以上、私たちラストアイドルでした!」と叫んで、5年間を締め括るライブは幕を下ろした。

 アイドルに追い風ではなかった時代に、ラストアイドルは健闘した。それだけに31人が一気に、ひとまずアイドル活動から離れることは寂しい。しかし、彼女たちの数々の汗と涙の奮闘は、観てきた者の記憶にいつまでも残り続けるはずだ。

阿部菜々実のMC (C)ラストアイドル制作委員会
阿部菜々実のMC (C)ラストアイドル制作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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