インドに7-0でアジア予選を好スタートのなでしこジャパン。国内組が躍動、後半のゴールラッシュで収穫も
なでしこジャパンは10月26日、パリ五輪アジア2次予選第1節でFIFAランキング61位のインド女子代表と対戦し、7-0で大勝。2次予選突破に向けて好スタートを切った。
会場となったタシケントのロコモティフ・スタジアムのキックオフ時の気温は20度前後と快適だったが陽射しは強く、暑さを感じる中での試合となった。
日本は立ち上がりからボールを支配したものの、自陣でブロックを作り、ゴール前は5バックで固めてくるインドに対して前半は攻めあぐねる時間が長かった。芝が固くてボールが跳ねることも、その難しさに拍車をかけたようだ。
均衡を破る先制ゴールを決めたのは、今回の予選で唯一、ワールドカップメンバーには入っていなかった中嶋淑乃だった。
前半17分、熊谷紗希、田中美南、長谷川唯とテンポよく中盤でパスを繋ぎ、最後は長谷川がテクニックを生かして絶好のスルーパスを送ると、中嶋が左足で豪快にゴールネットを揺らした。中嶋はAマッチ2試合目でこれが代表初ゴールとなった(アジア競技大会は代表キャップとして加算されない)。
その後はなかなかシュートに持ち込めない時間が続いたが、後半開始直後からゴールラッシュが生まれる。流れを作ったのは、後半から投入された林穂之香だ。
「ワンタッチ・ツータッチを増やして、中の人数も増やして得点に結び付けたいと思っていた」という林は、積極的に前線に上がって攻撃をテンポアップ。ボランチに入った長野風花が効果的にパスを散らしてリズムを作り、右サイドに入った清家貴子が縦への推進力を加えた。
前半から粘り強く耐えていたインドの最終ラインもこの変化にはついていけず、46分に守屋都弥のクロスに合わせて中嶋がこの日2点目を決める。さらに、53分には高橋はなの鋭い縦パスがスイッチとなり、清家のシュートのこぼれに詰めた林が3点目。1分後には清家が絶妙のクロスを田中の頭にぴたりと合わせ、57分には田中のパスを受けた守屋が決めて代表初得点を記録した。
73分には中嶋のクロスに途中出場の千葉玲海菜が相手を引きつけて飛び込み、背後から走り込んだ清家が決めて6-0。82分には、左サイドバックに投入された遠藤純からの縦パスを受けた中嶋の折り返しを猶本が決め、大量7ゴールで試合を締めくくった。
収穫は選手層の底上げ
相手が引いて守りを固めてくることは想定内だった中で、日本は前半苦戦したものの、いくつかの策を示した。一つは、ポジションを流動的にしてしっかりとボールを動かしながら相手を引き出すことだ。センターバックの高橋が攻撃に参加し、守屋がさらに高い位置を取る狙いがあった。
「後ろからのボールの持ち出しで相手の(守備の)ファーストラインを越えていく際に、高橋選手がもう少し高い位置を取れれば、守屋選手が受ける位置も含めて相手をずらすことができるのではないかと思い、右の攻撃を活性化しようと伝えました」(池田太監督)
結果的には、守屋が相手の最終ラインに吸収されてしまう場面もあり、狙いが形になるシーンはなかったが、相手との力の差がある2次予選でしか試せないトライができたことは一つの成果だろう。
後半に比べると、前半はゴール前の密集を突破するアイデアが乏しかったが、個人では猶本光がファーストタッチやボディフェイントで相手をかわすなど、個で違いを見せていたのが印象的だった。
相手との実力差を差し引いても、試合を通じて得られた収穫の一つは選手層の底上げと、コンビネーションのパターンが増えたことだろう。
この試合で、左サイドバックは三宅史織が安定したプレーを見せ、右サイドバックの守屋が経験値を高めた。また、サイドハーフで出場した清家がアルゼンチン戦に続き、圧倒的な存在感を示した。チーム屈指の走力があり、左右両サイドをできるという点でも、非常に貴重なピースだ。この試合で縦の関係を組んだ守屋もスピードを武器にしているため、「どのタイミングで裏に出せばいいかわかるのでやりやすい」(守屋)と、感覚が合うことを口にした。
また、個人における最大の収穫は中嶋だろう。独特のタッチから繰り出されるドリブルの魅力を存分に発揮。時間とともに相手との間合いも掴み、代表初ゴールを含む2得点2アシストという結果を残した。試合後には「アジア競技大会を経験したことが自分にとって自信になって、WEリーグカップの決勝も今回の予選もいいコンディションと気持ちで臨めています」と、心身ともに充実した様子。強豪国に対して、そのドリブルがどこまで通用するのか見てみたい。
守備に関しては見せ場が少なかったが、アルゼンチン戦に続き平尾知佳はクリーンシートでゴールを守った。最終ラインは高橋と石川璃音の浦和コンビが安定したチャレンジアンドカバーを見せ、最年少(20歳)の石川は、試合終了間際に訪れた大ピンチをブロックするファインプレーも。
「セットプレーの時は、ボールが自分を越えたらカバーに入ろうというのは意識的にやってきた」(石川)と、練習の成果を発揮した。この試合から得た課題については「ピッチ状態が良くない時でも止める・蹴るをしっかりやらないといけないと感じた」と、ビルドアップの精度向上を課題に挙げた。
日本は最終戦のベトナム戦も、同じロコモティフ・スタジアムで戦うため、その感覚は調整しておきたい。
次戦は中2日で29日にホスト国のウズベキスタンと対戦する。会場のブニョドコル・スタジアムは34000人収容の球技専用スタジアムで、ウズベキスタンを率いるのは日本人の本田美登里監督。現WEリーグのAC長野パルセイロ・レディースで共にタッグを組んだ堤喬也コーチがGKコーチを務めており、日本のことはよくわかっているだろう。
ウズベキスタン女子1部リーグは、学生以外は全員がプロ契約だという。同国の女子サッカーは発展期を迎えており、前線には個の力を持った選手もいるという。
ウズベキスタン戦は日本時間29日21時にキックオフ。NHK BS1で生中継される。