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アルゼンチン人コーチが語る日本代表の課題点

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
陽気なアルゼンティーナは、日本が大好きと語る

「予選リーグを突破し、ベスト16入りはすると思います」

アルゼンチン人コーチ、セルヒオ・エスクデロはブラジルW杯に挑む日本代表について、そう語り始めた。彼は現在、埼玉県さいたま市のクラブチーム、ロクFCで中学生と小学生を指導している。

「日本のサッカーは間違いなく上達しています。体は小さいけれど、ダイレクトパスが多く、細かいパス交換もいい。ただ、イタリアのカテナチオみたいなスタイルを相手にすると、崩すのは難しいんじゃないかな」

エスクデロが日本(浦和レッズ)にやって来たのは、Jリーグ元年。今日こそレッズも強豪と呼ばれるが、初期の頃は毎年最下位争いを繰り広げるチームであった。そんなレッズで、ほとんどの時間をこのアルゼンチン人はサテライトで過ごした。悔しさをバネに、指導者としての道を歩んでいる。

エスクデロの日本語能力は抜群と言っていい。漢字もほぼ間題なく読める。私は現在、東京大学大学院情報学環教育部に籍を置いており、世界中から集まるかなり優秀な留学生の友人を持つが、彼らとエスクデロの日本語を比較しても、エスクデロの方が優っているように感じる。そこに彼の血の滲むような努力を感じるのだ。

「ワールドカップとなると、点を取るよりも、いかに失点をしないかを考え、カウンターを狙うチームが多くなるでしょう。予選リーグの3試合のなかには、引き分けを前提にゲームを運ぶチームもあるんじゃないかな。また、勝ち進めば南アフリカ大会のように、PK戦も視野に入れておくべきですね」

エスクデロが最も問題視しているのは、「センターバック」である。

「層が薄く、名前の挙がる選手がいない。世界と戦える選手がいないように感じます…」

そして、W杯という特別な舞台で勝ち上がるには、ベテランの存在が不可欠だと繋げた。

「遠藤一人に頼っていてはダメです。チームとして物足りない。中村俊輔、闘莉王、中澤あたりが入るべきです。リーグでも天皇杯でも、彼らはいい仕事をしています。アルゼンチンには『試合は17~19歳の子供たちで勝つ。でも大会は大人の男で勝つ』という諺があるんですよ。修羅場を潜っていて、どんな状況に置かれてもきちんと対応できるベテランがいなければ」

また、常日頃から指摘されるマリーシア、そして決定力についても述べた。

「日本人にはおもてなしの心があるんでしょうが、狡賢さが無いですよね。香川、柿谷、乾とドリブラーの似たタイプが多い。3~4人躱して、強引にシュートに持っていくようなストライカーが出てきて欲しい。アルゼンチンで言えば78年のケンペス、90年代のバティストゥータみたいなね」

とはいえ、そんなレベルの超一流ストライカーがなかなか見付かる筈もない。世界各国の課題でもあろう。

「ですよね。だったら、もっとサイドから崩さないといけない。どこの国もセンターバックはデカくて強いですから崩しづらい。サイドからドリブルで躱せるウイングが必要ですよ」

現役時代、ウイングでもあったエスクデロは、アルゼンチンでも通じる選手を育てたいと考えながら、日本のサッカーに期待をよせている。

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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