自転車の転倒事故から子どもを守る! チャイルドトレーラーのすすめ
東名高速のあおり運転裁判が注目されています。
極めて悪質な運転の末、起こるべくして起こった痛ましい事件がある一方、一瞬の不幸な出来事によって大切な命が奪われる、悲しい事故が起こっていることも事実です。
今年を振り返って、特に印象に残っているのは、7月に起こったこの事故でした。
この事件はその後、横浜地検が不起訴処分としたため、母親は刑事裁判にかけられることはありませんでした。しかし、大切な我が子を自身の過失による事故で失ったうえに、過失致死罪の疑いをかけられ、取り調べを受けた辛さを想像すると、言葉がありません。
■3人乗り自転車で大転倒事故を経験
実は、もう何十年も前の話になりますが、私自身が子どもの頃に3人乗りでの自転車事故を経験したことがあります。
当時6歳だった私は、父が運転する自転車の前のフレームに立ち乗りをし、4歳の妹は後部座席に乗って、家の近所の坂道を下っていました。そのときです、私の足が滑って自転車の前輪に挟まって急制動がかかり、そのはずみで父と妹が道路に投げ出されたのです。
父はこのとき、ろっ骨と前歯を折る大けがをし、頭を打った妹も数日間入院することとなりました。幸い脳に異常はなく、後遺症は残りませんでしたが、後続車などに轢かれていたら大変なことになっていました。
そんな記憶が鮮明に残っているため、私は自分の子どもを自転車に同乗させることが怖くて、保育園の送り迎えはクルマで行っていました。
でも、渋滞や駐車場不足などで、どうしても自転車で行かざるを得ない保護者の方はたくさんいらっしゃるはずです。
毎日、本当に怖い思いをしておられるのではないでしょうか。
■幼児用座席付き自転車による転倒・落下は自転車事故の半数に
実は、横浜で上記の死亡事故が起こる2か月前、内閣府や警察庁、消費者庁などによる「子どもの事故防止に関する関係府省庁連絡会議」は、『子どもを乗せた「幼児用座席付自転車の事故」(転倒など)に 気を付けましょう』と広く呼び掛けていました。
東京消防庁のデータによると、2011年から2016年までの 6年間に、幼児用座席付き自転車に子どもを乗せて使用中に、救急搬送された14 歳以下の子どもは、1349 人に上っているそうです。これはあくまでも東京管内だけの数字で、全国でみると、自転車同乗中の事故でけがをした子どもは、2007~17年の10年間に1万2820人に上っており、そのうち8人が死亡していました(消費者庁のデータによる)。
転倒や落下事故の場合は頭を打つことが多いこともあり、重傷事故も数多く発生しています。
医療機関ネットワーク事業によると、転倒して頭蓋内損傷や骨折などのけがをしたという情報は 609 件あり、停車中の事故も多く発生しているとのことです(2010年~16年)。
上のグラフを見ても一目瞭然ですが、幼児用座席付き自転車による転倒や落下は、自転車事故のうち半数を占めているのです。
では、幼い子供たちを、幼児用座席付き自転車からの落下や転倒事故から守るためにはどうすればよいのでしょうか?
■自転車用チャイルドトレーラーという選択肢
みなさんは、これを見たことがあるでしょうか?
私がずっと前から気になっていた、自転車用のチャイルドトレーラーです。
私がこれを初めて見かけたのは、今から20年くらい前、ドイツ、スイス、オーストリアへバイクでツーリングに行ったときのことでしたが、とにかく街のいたるところで、これをけん引して走っている自転車を見かけたのです。
高い位置に旗をはためかせ、クルマやバイクからでも視認性は抜群でした。
「自転車用チャイルドトレーラーはとても安全だと思いますね。道路交通法ではリヤカーや馬車と同じく軽車両に分類され、法的には問題ありません。万一、お父さんやお母さんが乗った自転車が転倒しても、後ろのトレーラーは倒れない構造になっています。お子さんをこれに乗せれば、今年の夏に横浜で起きたような、転倒による重大事故は確実に防ぐことができるのではないかと思い、早速、試乗車を取り寄せてみました」
そう語るのは、千葉県東金市でサイクルショップを営む須藤昭典さん(61)です。
須藤さんは2007年、当時高校3年生だったわが子を自転車事故で失った遺族です。自転車競技のインターハイを控えていた次男の哲也さん(当時17)は、部活動の練習中、違法駐車車両に追突し、友人とともに亡くなったのです。
須藤さんは、いまも辛い事故のニュースを耳にするたびに、1件でも同様の事故を減らすことができないかと、さまざまな角度から予防策を提案し続けているといいます。
■自転車用チャイルドトレーラーに乗ってみた
私は早速、須藤さんのお店に駆けつけて、チャイルドトレーラー付きの自転車を試乗させていただくことにしました。
まず、驚いたのは、引き回しがとても軽いということ。トレーラーを引いているということを忘れるほど、スイスイ動くのです。電動アシスト付きの自転車なら、まったく負荷を気にすることなくいつも通り走れるはずです。
写真の2人乗りトレーラーの中には、5歳くらいまでの子ども2人が並んで乗れるように、シートベルトが2人分ついています。
重量は合わせて45キロまでOKとのことでしたので、とりあえず体重43キロの私の母(83)を乗せて走ってみたのですが、エア入りのゴムタイヤが使われているおかげか、振動などはほとんど感じることはなかったようで、「とても快適な乗り心地だったわ~」と感想を述べていました。
須藤さんは語ります。
「チャイルドトレーラーは道交法上、自転車以外の軽車両に分類されますので、歩道は基本的に走れません。また、このトレーラーは横幅が約70センチありますので、極端に幅の狭い道路などでは使いづらいでしょう。ただ、広々とした道や車通りの少ない裏道など、使用する場所を選べば、安全性はかなり高まると思いますね。トレーラー部分は防水が効いていますので、雨の日でもお子さんが濡れる心配はありませんし、寒い季節でも暖かく走ることができます。真夏は暑いでしょうけれどね……。とにかく、ご興味がある方は、お子さんと一緒に試乗してみるのが一番だと思います」
トレーラーの後部には荷物を積めるスペースも確保されています。また、簡単に折りたたむことができるので、車のトランクに収納することも可能です。
車輪の取り外しもワンタッチで行えます。
なにより、明るい色のトレーラーを引っ張って走っている姿は、遠くからでもよく目立つので、その点でも安全だと言えるでしょう。
自転車側には、付属のトレーラーヒッチという連結器を取り付けておくだけでOKです。自転車が複数台ある場合でも、これさえつけておけば、どの自転車にもワンタッチでトレーラーと連結することができるのです(トレーラーヒッチを追加購入する場合は、税抜き3490円です)。
私が今回試乗した2人乗りのトレーラーは、アメリカ、BURLEY社の「ビー」という車種で、日本ではライトウェイという会社が扱っているそうです。
定価は4万9000円(税込み)。特に2人のお子さんを自転車に乗せて送り迎えをしているご家庭では、検討の価値ありではないでしょうか。もちろん、1人乗りのトレーラーもあります。車種によっては、トレーラーヒッチから外した後に、ベビーカーとして使用できるタイプもあるそうです。
また、子どもを乗せなくても、自転車で大量の買い物をすることが多い場合は、自転車用のトレーラーを使うことで、重い荷物をカゴに積んでバランスを崩したりする心配もないので、便利で安全だと思います。
自転車用のチャイルドトレーラーを扱っている販売店はまだ少ないようですが、インターネットでも販売しています。
最近は試乗会なども開催されているようですので、情報をチェックしてみてください。
■自転車に子どもを乗せるときの注意点
「本来は自転車にも免許制度があってしかるべきだと思いますが、まだまだルールを正しく守らなければならないという自覚が足らず、甘く考えている人が多いような気がします。歩行者と車の間で、中途半端な立場でもありますが、特に子どもを乗せる場合は、事故を起こさないよう、事故に遭わないよう、十分に気をつけていただきたいですね」
須藤さんが指摘するように、お子さんを自転車に乗せている方はそれだけでもリスクは大ですが、さらに、混合交通の中で大変危険な状況に置かれていることを忘れないでください。
万一の事故に備えて、無理をせず、安全を確保しておくことが大切です。当たり前のことかもしれませんが、改めて国からの4つの呼びかけを以下に転記しておきます。
1)乗車前に、子どもに必ず自転車用のヘルメットをかぶせ、乗車後はすぐにシートベルトを着用させましょう。
2)道路交通法などの交通ルールを守り、バランスを崩さないように慎重に走行しましょう。
3)停車中も転倒するおそれがあるので、子どもを乗せたまま自転車を離れたり、目を離したりしないようにしましょう。
4)自転車の整備点検を定期的に行い、自転車を選ぶ際には、安全基準を満たした自転車に貼付されるBAAマークなどが付いているかを参考にしましょう。