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タトゥーを入れる前に知っておきたい健康被害と皮膚疾患のリスク

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【タトゥーの人気と皮膚への影響】

近年、タトゥーを入れる人が増えています。タトゥーは古くから行われてきた装飾の一つですが、それには様々なリスクが伴います。特に皮膚への影響は無視できません。

タトゥーを入れる際、針で色素を真皮まで注入します。この行為自体が皮膚のバリア機能を破壊し、皮膚炎などの皮膚トラブルを引き起こす可能性があります。また、注入された色素が体内で分解されにくいため、長期的な影響も懸念されます。アレルギー反応を起こしたり、色素が皮膚の深部に取り残されたりするケースもあるのです。

実際、タトゥーを入れた人の67%が何らかの有害反応を経験したという報告もあります。中でも、丘疹結節型反応と肉芽腫型反応が最も多く見られるようです。色素の中では、特に赤色が有害反応を引き起こしやすいとされています。

タトゥーによる皮膚トラブルは一過性のものから慢性的なものまで様々ですが、中には命に関わるような重篤な合併症を起こすこともあります。皮膚科医の診察を受けることなく、自己判断で処置をしてしまうのは危険です。

【タトゥーによる感染症と皮膚疾患】

タトゥーによる合併症は、炎症性、感染性、腫瘍性、美容的、その他の5つに大別されます。中でも感染症は重要な問題の一つです。

タトゥーの施術では皮膚のバリアが破壊されるため、細菌やウイルスが侵入しやすくなります。不衛生な環境下で施術を受けると、さらに感染リスクが高まります。B型肝炎やC型肝炎、HIVなどの血液感染症に加え、結核やハンセン病などの非定型抗酸菌症、ウイルス性疣贅などの感染症が報告されています。

また、タトゥーによって様々な皮膚疾患が引き起こされることもわかっています。掻痒感を伴う湿疹や、サルコイドーシス、扁平苔癬、尋常性乾癬、強皮症様反応など、多岐にわたります。既存の皮膚疾患がある人がタトゥーを入れると、ケブネル現象によって症状が悪化するリスクもあります。

炎症反応のメカニズムはまだ十分に解明されていませんが、色素に対する免疫反応が関与していると考えられています。

【タトゥーによる腫瘍性合併症と注意点】

タトゥーと皮膚腫瘍との関連性については議論の余地がありますが、悪性黒色腫、基底細胞癌、扁平上皮癌、角化棘細胞腫などの症例報告があります。因果関係は明らかではありませんが、色素に含まれる発癌性物質や慢性炎症が発癌リスクを高める可能性は否定できません。

特に、既存の母斑の上にタトゥーを入れると、外傷刺激によって母斑の悪性化が促進される危険性があります。タトゥーを入れる前に、皮膚科医による診察を受け、リスクについて十分に理解しておくことが重要だと考えます。

美容的な合併症としては、ケロイド形成などがあります。また、将来的にタトゥーを除去したくなった場合、完全に元の状態に戻すことは難しいのが現状です。

タトゥーを入れる前に、そのリスクと合併症について十分に理解し、慎重に検討する必要があります。皮膚トラブルや病気のリスクを避けるためにも、安易な選択は控えた方が賢明だと言えます。

参考文献:

・Chalarca-Ca˜nas D, et al. Tattoos: risks and complications, clinical and histopathological approach. An Bras Dermatol. 2024;99(4):491---502.

・Islam PS, et al. Medical complications of tattoos: a comprehensive review. Clin Rev Allergy Immunol. 2016;50:273--86.

・Kluger N. Cutaneous complications related to tattoos: 31 cases from Finland. Dermatology. 2017;233:100--9.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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