太宰治の春の紀行文「津軽」の雪は、降る雪ではない
太宰治の7つの雪
青森県出身の太宰治は、昭和19年(1944年)に春の紀行文「津軽」を発表しています。
その冒頭には、昭和16年の東奥日報よりとして、7つの雪が書いてあります。
「こな雪」「つぶ雪」「わた雪」「みず雪」「かた雪」「ざらめ雪」「こほり雪」とあるだけで、何も説明がありません。
これらは、全て積雪の状態を表す、戦前まで使われていた言葉です。
「東奥年鑑(昭和16年)」には次のような積雪の説明があります。
積雪の種類の名称
こな雪 湿気の少ない軽い雪で、息を吹きかけると粒子がもの容易に飛散する。
つぶ雪 粒状の雪(霰を含む)の積もったもの。
わた雪 積雪初頭及び最盛期の表層に最も普通に見られる綿状の積雪で、余り固くないもの
みず雪 水分の多い雪が積もったもの、又は日射暖気の為積雪が水分を多く含む様になったもの。
かた雪 積雪が種々の原因の下に固くなったもので、根雪最盛期以後下層に普通に見られるもの
ざらめ雪 雪粒子が再結晶を繰返し、肉眼で認めらる程度になったもの。
こほり雪 みず雪、ざらめ雪が氷結して硬くなり、氷に近い状態になったもの。
現在の定義とは少し違いますが、太宰治の時代は、人力にしろ馬力にしろ、冬に物を運ぶときの労苦は積雪面の状態に大きく左右されていました。
今も積雪の状態を気にする人たち
「重量物を運搬する時はかた雪」など、積雪の状態に強い関心を持って生活していた時代が終わったのは、車社会に変わったからではないかと思います。
現在、多くの人が路面に雪があるかないかに関心があります。
しかし、今でも積雪の状態に強い関心を持っている人たちがいます。
それは道路管理者です。
車社会だからこそ、きめ細かく積雪の状態を確認し、事故が起きやすい氷雪にならないための対策など、事故防止対策などを、年末年始を含めて年中、24時間体制で監視しています。
「津軽恋女」では降る雪
昭和62年のヒット曲「津軽恋女(歌・新沼謙治)」では、太宰治の「津軽」をモチーフに、7つの積雪を全て降雪にしています。
しかし、「こな雪」「わた雪」などは降る雪にも使いますが、「ざらめ雪」「氷雪」は地上にできるもので、降る雪ではありません。
ただ、歌詞にある「春を待つ氷雪」のように、冬の最盛期を過ぎてできる氷雪は寒さが続いていても、もう少し我慢すれば春との思いが強いなど、人々に訴えるものがあると思います。
大雪の時は気温の情報も合わせて考える
大きな移動性高気圧に覆われ、全国的に穏やかな正月となりそうですが、まだまだ本格的な冬が続きます。
まだまだ気温が低い日があり、雪の日があります。
同じ降雪量でも、気温が低い時のサラサラした雪より、気温が高い時のベタベタした雪のほうが雪かき等が大変ですし、融けた雪が凍ってアイスバーンになると転倒事故や交通事故が急増します。
大雪のときは、降雪量の予報に注目が集まりますが、気温の情報も合わせて考える必要があります。
特に、気温が0度に近いときの雪は、樹木や電線に付着して倒壊や切断を起こし易くなり、積雪の状態が変わって滑りやすくなります。
また、気温が高くなると、雪崩や融雪洪水の危険性が高まります。
冬の雪は、比較的温かくなった時の雪のほうが危険なのです。