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ハリウッド映画にどこまで観客が戻ってくるか。試される、完成度の高い2つの大作

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『DUNE/デューン 砂の惑星』

東京・大阪など大都市圏の緊急事態宣言が解除された翌日、10/1から公開された『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、期待どおりの大ヒットスタートとなり、2週目も1位をキープ。同作はコロナの影響で何度かの公開延期も経ていたので、待ち望んだファンにとっても、ようやくの公開が宣言明けと重なって良きタイミングだった。

ダニエル・クレイグのジェームズ・ボンド役がこれで最後というのも大きな話題となり、ひとつのクライマックスに納得したり、驚いたり、衝撃を受けたり……と、観た人の感想はさまざまだが、全体の反応はおおむね悪くない(ただし、「007」シリーズへの愛が強い人からは、いくつもの残念な反応も聞こえてきており、そこにも同意する点は多い)。米映画批評サイト、ロッテントマトでは批評家84%、観客88%の満足度という高い数字。日本でもFilmarksが4.1、Yahoo!映画が4.04と好数字(すべて10/13時点)。

コロナの影響を大きく受けた2021年の洋画では、現在、『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』が興収36億円でトップだが、「007」がその数字にどこまで迫るか。おそらく2位につけるのは確実だろう。

コロナの状況が落ち着いて、ようやくハリウッド作品も日本の興行で復活をみせるのか。そのカギを握るのは、今週(10/15〜)公開される作品になりそうだ。

「ワイスピ」も「007」も、安定の人気シリーズなので、ある程度のヒットは予想できた。2021年、現時点でその他の洋画のヒット作も、『ゴジラVSコング』『モンスターハンター』『シャン・チー テン・リングスの伝説』と、そもそも知名度の高い題材や、一定のファン層がいるマーヴェル映画。やや膠着状態も感じられる洋画大作に「新たな作品」として風穴を開けてほしいのが、10/15公開の『DUNE/デューン 砂の惑星』。

ヴェネチア国際映画祭で9/3にお披露目されて以来、高い評価を受けるこのSF大作は、何はともあれ、劇場でこそ体験するべき仕上がり。その点は、もちろん「ワイスピ」も「007」も同じなのだが、『デューン』ほど、大スクリーンが推奨される作品はないだろう。壮大なスケールの世界観はもちろん、出てくるものの「巨大さ」、そしてこだわりの「音」。まさに映画館でしか味わえない要素だらけで、IMAXにも最適この上ない。

ここで思い出すのが、昨年公開された『TENET テネット』である。コロナ禍によって大作が次々と公開延期となり、映画ファンの枯渇感が高まるなか、「これこそ大スクリーンで観るべき作品」として、日本では2020年9月に公開され、ヒットした。シリーズものでもなく、マーヴェル映画でもない、“単独”作品として、コアな層だけでなく一般観客にも人気が広がる、特殊なパターンのヒット作となった。

『デューン』は、原作がSFファンに50年以上も愛読され、以前にデヴィッド・リンチ監督で映画化されるなど、マニアな香りがイメージされるが、今回は長大な原作の一部をわかりやすく抽出した安全設計。そして細部に至るまで、人間のさまざまな本能をざわめかせる、驚きのヴィジュアルが詰まっている。『TENET テネット』は、クリストファー・ノーラン監督という、ある種の「ブランド」と、「わかりにくいことで評判を呼ぶ」という逆説がヒットの要因にもなった。『デューン』は、ドゥニ・ヴィルヌーブ(『メッセージ』『ブレードランナー 2049』)という、こちらもブランドになりつつある監督。主演は人気のティモシー・シャラメ。コアな映画ファンを取り込みつつ、入り込みやすさもある作りが、どこまで一般層の食いつきにつながるか、期待したい。

そしてもう一本、同じ10/15に公開されるのが、『最後の決闘裁判』。こちらも仕様は「ザ・ハリウッド」な作品。監督はリドリー・スコットで、出演はマット・デイモン、アダム・ドライバー、ベン・アフレックという主役級が勢揃い。しかもマットとベンが脚本にも参加している(2人は1998年の『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』でアカデミー賞脚本賞を受賞した実績がある)。

ただ、作品としては14世紀を舞台にした歴史劇であり、アクション要素はあるものの、人間ドラマのイメージが濃厚。騎士の妻が暴行を受けたことで、加害者とされる宮廷の家臣が訴えられる。そのメインの登場人物3人それぞれの視点から真実があぶり出され、壮絶な「決闘」へとなだれ込む、衝撃の実話の映画化。

爆発的ヒットを期待できる作風ではないものの、巨匠リドリー・スコット、衰え知らずの仕事で、濃厚な見ごたえ。アドレナリンを上げまくる決闘の演出に、ジェンダー問題、パワハラ、「強いものは正しいのか?」など現代に通じるテーマをうまく取り込んで、怒涛の感動も導く。キャストも含め、とりあえず映画ファンの心をソソるこうした作品が、ある程度のヒットにつながれば、コロナが落ち着いた後の、日本におけるハリウッド映画の行く末を好転させるきっかけになるのではないか。

前出のロッテントマトの満足度は『DUNE/デューン 砂の惑星』が89%、『最後の決闘裁判』が86%と、ともに高い数字(現時点では批評家のみ。10/13の数字)。2作とも、何かしらのかたちでアカデミー賞に絡んでくる可能性もあるとの批評も出ている。

「007」のような安心感はなく、『TENET テネット』の時のような枯渇感も薄れたこの時期だが、圧倒的に「映画を観た」という満足感を与えるこれら2作が、日本でもヒットすることを願う。

『DUNE/デューン 砂の惑星』 (C) 2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved (01 Courtesy of TIFF)

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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