Yahoo!ニュース

「神様に選ばれた!」濱田めぐみがミュージカル界で25年、仕事が途切れない理由

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
(ミュージカルを続ける意味を語る濱田めぐみさん、撮影:すべて島田薫)

 劇団四季『美女と野獣』のベル役でヒロインデビューして以来、抜群の歌唱力でミュージカル界をけん引し続けている濱田めぐみさん。実は25年間、出演が途切れたことがありません。「神様に選ばれた」と自任する濱田さんの仕事・人生・運命、そして唯一再演したいと感じた『メリー・ポピンズ』…。そこには、独特な考え方がありました。

ーミュージカル界に入って25年が経つんですね。

 ビックリですよ。やろうと思ってやっていたわけではなく、やるべきことをやっていたら25年経っていたので、天職なんだと思います。自分のエゴで無理にやろうとしたことは大抵うまくいかないもので、やるべきものが来て、それをやっていたら今になったという感じです。

 この話を市村正親さんにしたら、「俺は50年だぞ」と言われました(笑)。石丸幹二さんは30年ですし、上には上がいます。

 ただ、25年は四半世紀なので、やろうと思ってやれるものではないです。やはり神様に選ばれた“運命”なのだと思います。私は環境を整えてもらったところで必死に泳いできただけなので、やらせてもらえる状況があるうちは、しっかり泳がないといけないなと思っていますけどね。

ーなぜミュージカルを?

 きっかけは、「歌いたい」「声の仕事がしたい」でしたが、流れに乗っていたらミュージカルをやっていました。

 この前、占いのようなことをしてもらったら、普通は“人生山あり谷あり”で節目があったりするんだけど、私には「切れ目がない」と言われました。始まった瞬間からものすごく太いエネルギーが寿命より長く延々と走っていると。だから、神様が「ストップ」と言わない限りは終わらないそうです(笑)。

 そうかといって前のめりに行くのではなく、私は自分自身を運転してコントロールしているだけです。私がやるのは、日頃から栄養バランスの取れた食事を取るなどの体調管理や、睡眠。さらに、疲れを取り除いたり物事を考えすぎないなど、精神的なメンテナンスは特に必要です。

ー24時間、仕事ですね。

 仕事じゃなくて、もはや人生なんですよね。私は、舞台のことを口では「仕事」と言いますけど、実はそう思っていなくて、やらなければいけないことを必死にこなしている感じ。それがイコール人生であり、生活であり、生きることだから。プライベートとか仕事とかがそれぞれ独立しているのではなくて、全部が1列になっているという。こういう感覚の人はあまりいないので、説明が難しいんですけど。

ー舞台がずっと続いていますね。

 25年間、途切れたことがありません。1つの舞台が終わって、次の演目のお稽古が始まるまで、だいたい10日か2週間くらいですかね。長いと1ヵ月くらいある時もあります。そこから歌稽古がぼちぼち始まって…という日々が25年間ずっと続いています。

ー空いた期間は、歌の練習やセリフ覚えをしないといけないんですよね。

 とはいえ、「きょうは何をしようか」という日もありますよ。ただ、スイッチが入ったらそれはもう、恐ろしいほどやります。すごく怖いと思います、私。

ーどんな感じになるんですか?

 厳しい。私は「劇団四季」で浅利慶太さんに徹底的に仕込まれましたから。あの頃は、浅利さんが求めているものを80%やっても絶対ダメで。150%やらないと!150%やって、ようやく前に進めたんです。

 セリフは、マンツーマンで2週間くらいじっくり鍛えられたこともありました。「もう1回、もう1回」が一日中続いたのは、本当にきつかったです。ダンス稽古も朝から晩まで一日中です。気づいたら夜中の12時とかで。「劇団四季」はロングランで公演が続くので、特に大変でした。

ー今度『メリー・ポピンズ』が再演されますね。

 私、今までのミュージカル人生の中で、またやりたいと思う演目は少なくて。というのは、あまりにも毎回が全力というか、精一杯、きっちりやっているので悔いがないんです。ところが、最近やりたいと思う役が2つありまして。

 1つは『マンマ・ミーア!』のドナ役です。当時思いっきりやったから、もう1回やりたいという気持ちはなかったんですが、この年齢&この状況でドナをやったらどうなるだろう、と思うようになりました。

 もう1つが『メリー・ポピンズ』です。前回公演(2018年)でやり残したことはないんですが、自分に“合う”んでしょうね。彼女(主人公のメリー・ポピンズ)が作る世界観・人間関係・距離感が、とても私にフィットするんだと思います。

ー具体的に言うと?

 雰囲気・ニュアンス・気配です。彼女の中には規律があって、公平に物を見て、全てをポジティブにすることができるんです。会った人誰にでも影響を与えて、いい形に物事が進んで、それが“魔法”ということになるんだけど、与えられた方は結果自分で動いている。メリーはきっかけでしかないんです。その独特のフィーリングが非常に合うし、好きなんです。

ー『メリー・ポピンズ』で共演の大貫勇輔さんが、濱田さんとの距離を「近いようで遠い。遠いようで近い」と表現していました。

 私は人を見て、瞬時にその人との心地よい距離感を取ります。その人と私だけのオリジナルの関係性を持つんです。この人とは、あのネタですぐ盛り上がれるとか、その人と私だけの笑える話があるとか、個々のコネクションがありますね。

ーお付き合いする人が多いと、大変じゃないですか?

 大変ではないです。基本的なことを言うと、私は集団の中にいるより、離れて見ている方が好きですね。カフェや人がたくさんいる中でポツンと1人でいることが、ものすごく心地がいい。

 去年出演した『オリバー!』では、共演の子供たちと団子になって遊んでいましたけど、本当は少し離れたところから見ている方が落ち着きます。別に寂しくないし、それが幸せだし、皆が楽しそうでよかったなと思える。

ーミュージカル俳優同士は、どんな関係なんですか。

 家族というか、親戚の感覚で仲いいですよ。やることはきついけど、ゴールが一緒なのでさっぱりしていますよね。体育会系の部活みたいに「皆で頑張るぜ!」「おめでとう!お疲れ!」、千秋楽を迎えたら「じゃ、またね」という感じ。同じ釜の飯を食べていると言うんですかね。年齢やキャリアが違っていても、リスペクトするし敬語も使います。同じ世界にいるので、してほしいこと・してほしくないことも分かりますしね。

ーしてほしいこと・してほしくないこととは?

 それは、その時々です。例えば、考え事をしている時に話しかけられたくないじゃないですか。ちょっと気持ちが途切れた時に声をかけるとか、気遣いの質・度合い・価値観が一緒なんです。皆、そのルールを知っていて、いたわり合いつつ、リスペクトし合いつつ、同じ作品を作っていくのが心地いいんですよね。稽古場は皆優しいし、楽しいです。

ー若い人は、コロナ禍でお互いに距離を取る生活が続いているから、人との距離感が分からないとも言います。

 そうですね。空気が分からないとか、されて嫌なことが分からないという人がいます。マスクの下の顔を見ることがないから、目の表情だけで会話すると、どうしても情報のやり取りが少なくなりますしね。

 本来なら無邪気に寄ってくる共演の子供たちですら、“あまり大人に近寄ってはいけないのかな”といった雰囲気になっているんです。でも、私が彼らのパーソナルな部分にぐっと入っていくように話しかけると、最初はきょとんとして「え、大人がこんなに入ってくるの?」とビックリされます。これは物質的な距離感ではなくて、心の距離感です。最初は後退りするけど、私が普通にしていると、そのうち「こんなに自分の中に踏み込んできてくれる大人がいるんだ。この人には甘えていいんだ」と思ってくれる。

ー色々な意味で、四半世紀は大きいですね。

 大きいです。四半世紀もやったらもう逃げられないので、頑張ります。今後は、ストレートプレイもやっていきたいし、一昨年、ムロツヨシさん主演のドラマ『親バカ青春白書』(日本テレビ系)に「前田のおばちゃん役」で出た時も楽しかったので、機会があれば映像にも挑戦したいです。

【インタビュー後記】

「劇団四季」の頃から舞台を拝見していたので、ずっと出続けていらっしゃるのは分かっていたつもりでしたが、まさか25年間、こんなに詰めて作品が続いていたとは!「神様に選ばれた」という言葉も、今は迷いなく口にしていました。きっと、そう言うことで周囲からどう見られるのかと気にする段階はとっくに過ぎて、やるべきことをやるのみという境地なのでしょう。今回、濱田さんの少し浮世離れした印象の理由が分かったような気がします。

■濱田めぐみ(はまだ・めぐみ)

1972年8月2日生まれ、福岡県出身。1995年から2010年まで「劇団四季」に所属。1996年『美女と野獣』のベル役でデビュー。その後『ライオンキング』『ウィキッド』『アイーダ』『マンマ・ミーア!』などさまざまな作品で主役を演じる。退団後も『ラブ・ネバー・ダイ』『カルメン』『DEATH NOTE』『レ・ミゼラブル』などミュージカルを中心に活躍。2014年「第40回 菊田一夫演劇賞」、2016年「第66回 芸術選奨文部科学大臣賞」演劇部門、「第24回 読売演劇大賞優秀女優賞」を受賞。『メリー・ポピンズ』の日本初演(2018年)でタイトル・ロール(表題役)のメリー・ポピンズを演じ、今年(3/31〜5/8)東京・東急シアターオーブにて再演を迎える(プレビュー公演は3/24~30)。その後、大阪・梅田芸術劇場(5/20~6/6)でも上演。

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

島田薫の最近の記事