120分間の激闘の末に、ノジマステラ神奈川相模原が掴み取った皇后杯決勝への切符
【有終の美を飾るために】
クラブの歴史に、新たな1ページが刻まれた。
ベンチから控えの選手たちが飛び出し、抱き合う。ピッチでは、120分間を戦い抜いたイレブンが思い思いの歓喜を表現した。
12月21日(木)にヤンマースタジアム長居(大阪)で行われた、第39回皇后杯全日本女子サッカー選手権大会準決勝。
ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(以下:千葉)とノジマステラ神奈川相模原(以下:ノジマ)の一戦は、120分間の激闘を1-0で制したノジマが、チーム創設6年目で初の決勝進出を決めた。
「苦しいシーズンの最後に、この素晴らしい大会で決勝に進出できたことは、ここにいるメンバーと、このチームに関わって貢献してくれた40名の選手たちが築き上げたものだと思います」(菅野将晃監督/ノジマ)
菅野監督は勝利の喜びを、感謝の言葉で表現した。
ノジマにとって、なでしこリーグ1部昇格1年目の今シーズンは厳しいものだった。
リーグ前半戦の10試合は、3勝4分け3敗と五分の結果を残したが、後半戦は1分7敗と1勝も挙げることができず。最終順位は8位で、かろうじて1部残留を決めた。
そして、この皇后杯でも薄氷の勝利を重ねてきた。2回戦ではチャレンジリーグ(3部に相当)のNGUラブリッジ名古屋に1-0で辛勝し、続く3回戦は、ちふれASエルフェン埼玉に0-0で、PK戦の末に勝利。準々決勝では大会3連覇を目指していた強豪・INAC神戸レオネッサをPK戦の末に破った早稲田大学と対戦し、追い上げられながらも、最後はかろうじて4-3で振り切った。
そして、この準決勝を迎えた。
年内最後の大会である皇后杯では、翌シーズンに向けて移籍や引退の発表が重なる。その中で、ノジマも「このメンバーで1試合でも多く戦いたい」という強い想いを持って臨んでいる。
ノジマは、2012年のチーム創設メンバーでもあるMF尾山沙希、DF長澤まどか、MF是川友利恵の3人に加え、1部昇格に貢献したFWミッシェル・パオの4選手が今シーズン限りで引退することを発表しており、そのことが勝利への揺るぎないモチベーションになっていた。
「(引退する4人には)サッカー人生の最後に有終の美を飾ってもらいたいと思っていました。ジェフ(千葉)はカップ戦も優勝していて、トーナメントには本当に強いチーム。でも、全員が勝ちたいという強い気持ちで挑んだ結果だと思います」(FW南野亜里沙/ノジマ)
殊勲の決勝ゴールを挙げた南野は試合後、清々しい表情で、そう言った。
試合終盤、何人かの選手は疲労のために足がつり、GK田尻有美は控えGKがいない中で、千葉の選手と交錯して膝を痛めるシーンもあったが、最後までゴールを守り抜いた。
試合が動いたのは、0-0で迎えた延長前半アディショナルタイム。ペナルティエリア内中央で、MF正野可菜子が胸で落としたボールを拾った南野が、右足の細かいタッチで左に抜け出し、最後は左足でゴールにねじ込んだ。
南野はゴールを決めた後、迷わず控え選手が待つベンチに向かって走った。
【昇格1年目の苦しみ】
ボランチの尾山を筆頭に、MF田中陽子、MF吉見夏稀、MF川島はるな、MF高木ひかりら、ノジマには確かなテクニックを備えたゲームメーカーが揃う。
テンポ良くショートパスをつなぎ、複数の選手が関わって相手ゴールに迫る攻撃的なスタイルで、昨年はなでしこリーグ2部で47得点6失点(18試合)と、無敵の強さを誇った。しかし、戦いの舞台を1部に移した今シーズンは、17得点32失点(18試合)という結果に。
特に、対戦相手に戦い方を研究されたリーグ後半戦は「ボールを持たされる」試合が増え、拙攻からの失点も目立った。
「今シーズンは、得点したらそれだけ失点することも多く、ゲーム運びの中では特に守備面が課題になりました」(田中/ノジマ)
この試合、トップ下で攻撃をリードした田中は、シーズンを通じて浮かび上がった課題をそう振り返った。それは、自分たちのスタイルを貫いたからこそ得られた課題だろう。
皇后杯準決勝に向けて、この1カ月間、ノジマは主に守備面を強化してきたという。
【ラストマッチ】
この日、対戦した千葉は今シーズンのなでしこリーグカップの王者で、1部で屈指の「走るチーム」。堅守からのカウンターや迫力のあるサイド攻撃で、この試合もノジマゴールを脅かし続けた。
その千葉を最前線で120分間牽引し続けたベテラン、FW深澤里沙の走りも見る者の心を打ったが、その千葉に走り負けなかったノジマをリードしていたのが、チーム最年長の28歳で、キャプテンの尾山だ。
「キャプテンが人一倍、体を張って走ってくれていたので、ついていかなきゃ、と。本当に頼り甲斐のあるキャプテンなんです」(南野)
豊富な運動量を出し惜しみせず、地味な仕事も全力でこなす。2012年に神奈川県女子サッカーリーグ3部からスタートし、異例のスピードで成長し続けたチームを牽引してきた尾山は、昨年、2部で最優秀選手に輝いた。
攻撃的なサッカーの要となるボランチやトップ下のポジションで、キャプテンマークを巻いて6年目になるが、そのプレーには、細部を大切にする職人のような雰囲気が漂う。
「そんなにカッコイイものではないですけれど(笑)。自分が頑張ったら、みんなも頑張ってくれるだろうな、と思って走りました」(尾山)
引退後は看護師を目指すという尾山。泣いても笑っても、中2日で迎える次の決勝戦が、現役最後の試合になる。決勝でチームに伝えたいものは?と聞くと、柔和な笑顔で、こんな風に答えた。
「それは、プレーで見せていけたらなと思います。ゴールを決められたら、一番ドラマチックですよね」(尾山)
【決勝の相手はリーグ王者のベレーザ】
決勝戦は、12月24日(日)にヤンマースタジアム長居で行われる。ノジマが初タイトルをかけて戦うのは、今シーズン、リーグ3連覇を果たした日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)。
ノジマは今シーズン、ベレーザとリーグ戦2試合、リーグカップ2試合を戦っており、結果は1分け3敗(※)。その内容は、4試合で3得点13失点、80本ものシュートを打たれている。しかし、唯一引き分けた試合は、ひたすら守り抜いて0-0の結果を残すことができた。
(※)△0-0(2017年5月7日・リーグ第7節)、●2-4(6月3日、リーグカップ第2節)、●0-7(7月23日、リーグカップ第9節)、●1-2(9月10日・リーグ第14節)
決勝も、厳しい試合になることが予想される。勝つためには守備を固めてカウンターを狙う策も考えられるが、菅野監督は否定する。
「それ(引いて守る戦い方)をやっても、結果は厳しいものになると思います。この大会で(最後まで)自分たちのサッカーを出していきたいし、自分たちから、ことさら守るような試合にはしたくない。積み上げてきた攻撃を、女王のベレーザ相手に押し出していきたいです」(菅野監督)
試合後、すでに決勝戦に目を向けていたノジマの選手たちも、厳しい戦いになることは十分に覚悟していた。だが、同時にチャレンジャーとしての覚悟と、「このメンバーで悔いなく戦い切りたい」という強い想いも伝わってきた。
そんな中、田中は、チーム初のタイトルをしっかりと視界に捉えていた。
「(ベレーザは)流動的にポジションを替えてきますが、(ノジマ)ステラはしつこいディフェンスが得意なので。声をかけあってしっかりついて行って、いい形で攻撃に変えたいですね。まずは失点しないことが大事ですが、先制点を取れたら乗れると思うので。最後は勢いと、チーム力と、気持ちで戦いたいと思います」(田中)
それは、苦しいシーズンを戦い抜いて得た、確かな自信である。
決勝の舞台で、チーム創設6年目のノジマが見せるサッカーを注視したい。