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スーパーウエルター級で生き残った2階級制覇王者の涙

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Amanda Westcott/SHOWTIME

 元WBAスーパーライト級暫定チャンプのホセ・ベナビデス・ジュニアと、スーパーライト、ウエルターの2階級制覇王者、ダニー・ガルシアが対戦した。両者共に、154パウンドのスーパーウエルター級でリングに上がるのは初めてだった。

 ペンシルバニア州フィラデルフィア出身のガルシアにとって、会場となったブルックリンのバークレイズ・センターは、ホームと呼べる場所だ。実際、当地でのファイトは今回が9度目であった。

 フィラデルフィアとブルックリンは車で1時間強。およそ20カ月ぶりにリングに復帰する元チャンピオンにとって、この上ないアリーナだった。

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 序盤は互角の展開でペースを握り合う。ベナビデスはフィラデルフィア在住のプエルトリカンよりも、身長とリーチでそれぞれ6センチのアドバンテージがある。パンチ力も元WBAスーパーライト級暫定チャンプに分がありそうだった。

 ガルシアが手数でベナビデスをやや上回るが、採点の難しいラウンドが続く。2人のファイターにハッキリと差が生まれたのは8回。コツコツと手を出すガルシアがポイントを稼いだ。

 が、ベナビデスも翌9ラウンドに右アッパーを顎に叩き込み、流れを奪い返す。

Amanda Westcott/SHOWTIME
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 カウンターの名手とされるガルシアは執拗にボディーを攻め、再度リングを支配した。CompuBox社のデータによれば、2階級王者が放ったボディーへの攻撃はキャリアハイとなる153発。

 結局、 117-111、116-112、114-114の2-0でガルシアが白星を挙げ、自身の戦績を37勝(21KO)3敗とした。ガルシアの粘り強さが勝因と言えるだろう。

Amanda Westcott/SHOWTIME
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  27勝(18KO)2敗1分けとなったベナビデスは言った。

 「自分のパフォーマンスに満足している。勝ったと思ったけどな。ヤツのパンチを喰いはしたが、効いちゃいないよ。まぁ仕方ない。負けは人を強くするさ」

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 ガルシアは試合後の勝利者インタビューで、涙ぐみながら語った。

 「メンタルの問題が生じていた。不安と鬱に苦しんで……でもそれに立ち向かってきた」

 2020年12月5日にエロール・スペンス・ジュニアに敗れてから作ったブランクには、そんな背景があったのだ。

 生き残った2階級制覇チャンプだが、154パウンドのファイターとしては小さく見える。既に元WBC同級王者のトニー・ハリソンがラブコールを送った。ガルシアは、スーパーウエルター級でいかに進んでいくのか。

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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