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機内で星座観賞、世界初のプラネタリウム観賞フライトが話題沸騰中。スターフライヤー3月も実施へ

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
スターフライヤーが世界で初めて実施したプラネタリウム鑑賞フライト(筆者撮影)

 新型コロナウイルスによる影響で国内の各航空会社では、昨年4月以降に減便が始まって以降、感染者の状況によって減便率は変化しているが、減便の状況が続いている。特に2回目の緊急事態宣言に入って以降、ANAやJALをはじめ、国内線を運航するほとんどの航空会社半数もしくは半数以上の便が運休の状況となっている。

欠航便が続く中で、各航空会社では遊覧フライトを積極的に運航

 飛行機の運用に余裕がある中で、各航空会社では出発空港から目的地の空港へ向かうのではなく、出発した空港にそのまま戻ってくる遊覧フライトが運航されている。従来の遊覧フライトのイメージとしては、正月の元旦に御来光を天空の上から拝むことができる初日の出フライトを実施する航空会社が日本では行われ、羽田空港発着の初日の出フライトでは富士山のご来光を拝める特別フライトが人気を集めている。

 そして、コロナ禍においては、ANAではハワイ線専用の総2階建て飛行機である超大型機エアバスA380型機を使っての遊覧フライト、JALでは国際線機材を使って国際線の機内食を機内で提供しながら日本国内を周遊する遊覧フライトを実施しているが、筆者も様々な遊覧フライトを取材している中で、これほど素晴らしいフライトはないくらいの完成度が高い遊覧フライトとして運航されたのが、北九州空港を拠点とするスターフライヤーが世界で初めて機内を星空にして、上空でプラネタリウム鑑賞ができる「Starlight Flight produced by MEGASTRA」だ。

搭乗券も特別仕様に。北九州空港の搭乗案内の行き先は「満天の星空」(2020年10月17日筆者撮影、特記以外は全て筆者撮影)
搭乗券も特別仕様に。北九州空港の搭乗案内の行き先は「満天の星空」(2020年10月17日筆者撮影、特記以外は全て筆者撮影)

機内に超小型プラネタリウムを6台搭載

 プラネタリウム観賞フライトは、プラネタリウムを鑑賞する為にプラネタリウム機器を機内に搭載し、機内の天井に星を照らすことで星を楽しむことができる仕組みになっており、更に夜間のフライトになることから窓からもリアルな星を観察することができる画期的なフライトとなった。初回の10月17日のフライトでは、318組757名の応募があり、8.1倍の倍率となり抽選で当選した39組96名のお客様が搭乗した。

 筆者はこのフライトに取材として搭乗する機会に恵まれたが、様々なフライトを利用してきた中でも今回、プラネタリウム・クリエイターで太平技研代表取締役の大平貴之さんが開発した1台で100万個の星を投影することができる超小型プラネタリウム「MEGASTAR」6台がエアバスA320型機に搭載された。限られた空間の機内で、普段はドリンク用で使われるカートの上にプラネタリウムの機器を乗せられたが、ドリンク用のカートが丁度よいというのは取材をしていても衝撃的だった。様々なテストをしてきた中で6台の機器で機内全体を星空にするのがベストという判断となったそうだ。どの席からも綺麗な星空が見られることにこだわって、機器の設置位置も決定した。

1台で100万個の星を投影することができる超小型プラネタリウム「MEGASTAR」。スターフライヤー便は全席にシート電源があることから電源も問題なく確保できた
1台で100万個の星を投影することができる超小型プラネタリウム「MEGASTAR」。スターフライヤー便は全席にシート電源があることから電源も問題なく確保できた

出発前にパイロットから飛行ルートの説明があった。四国と九州を巡るルートでの飛行となった。
出発前にパイロットから飛行ルートの説明があった。四国と九州を巡るルートでの飛行となった。

出発前の格納庫内でのイベントではスターフライヤーグッズが販売されたほか、スターフライヤー便の機内で人気のタリーズコーヒーの試飲も行われた。
出発前の格納庫内でのイベントではスターフライヤーグッズが販売されたほか、スターフライヤー便の機内で人気のタリーズコーヒーの試飲も行われた。

機体をバックにスターフライヤーの白水政治社長や太平技研の大平貴之さん、そしてスターフライヤーの運航乗務員による記念撮影
機体をバックにスターフライヤーの白水政治社長や太平技研の大平貴之さん、そしてスターフライヤーの運航乗務員による記念撮影

北九州空港を19時に出発し、機内は神秘的な星空に

 そして運航当日、外も暗くなった19時頃に北九州空港出発し、ベルト着用サインが消灯した後に、「MEGASTAR」の準備が始まった。以前からスターフライヤー便には全席シート電源が搭載されていたことから、シート電源を使って機器に電源を供給し、機内を真っ暗にした状態で投影が開始された。すると見事なくらい、これが機内であることを感じさせないくらいの無数の星が天井に散りばめられるという神秘的な光景となった。利用した人からも大きな歓声があがり、筆者も今まで見たことがないくらいの感動を覚える星空だった。

「Starlight Flight produced by MEGASTRA」の機内は神秘的な空間となった。
「Starlight Flight produced by MEGASTRA」の機内は神秘的な空間となった。

機内でのプラネタリウム鑑賞のあとは、窓からリアルの星を鑑賞

 その後、大平さんから機内アナウンスで星の説明をした後に、最後は実際に窓越しに九州の夜空に浮かぶ星を楽しむことができた。プラネタリウムでの星とリアルな星が両方楽しめるという乗っている人全てが幸せになれるフライトとなった。約1時間半の周遊フライトであったが、あっという間に北九州空港に到着したが、筆者も含めて多くの人が興奮した状態のまま北九州空港に戻ってきたのであった。

プラネタリウム・クリエイターで太平技研代表取締役の大平貴之さんが機内で見える星について生解説した。
プラネタリウム・クリエイターで太平技研代表取締役の大平貴之さんが機内で見える星について生解説した。

この日は天候もよく、機内の窓からも星空鑑賞することができた(上記2枚のみ航空写真家の深澤明カメラマン撮影)
この日は天候もよく、機内の窓からも星空鑑賞することができた(上記2枚のみ航空写真家の深澤明カメラマン撮影)

機内プラネタリウムは若手社員の入社前のエントリーシートで書いたアイデア

 今回プラネタリウム観賞フライトというアイデアを出したのはスターフライヤーの若手社員だった。発案したのは2017年入社の川内丸夏希さんと古賀美奈子さんで、川内丸さんがエントリーシートで書いた入社後にやってみたいことのなかに、機内でのプラネタリウム鑑賞を実現したいというものが書かれており、入社2年後に実施されたスターフライヤー社員のアイデアコンテストで表彰されたことで実現に向けて動き出したのだ。まさにスターフライヤーという星をモチーフにする社名にもある通り、プラネタリウムフライトをするには最もイメージが近い航空会社であった点も大きいだろう。

 エントリーシートに書いたアイデアがいよいよ実現へ向けて動き出すことになったが、新型コロナウイルスに関係なくプロジェクトは進められ、当初よりは若干後ろ倒しになってしまったが、コロナによる減便で機体運用は余裕があったことで、10月17日に様々なテストを経て「Starlight Flight produced by MEGASTRA」は実現した。

今回のプラネタリウム鑑賞フライト発案者である川内丸夏希さん
今回のプラネタリウム鑑賞フライト発案者である川内丸夏希さん

初回のフライトは3名で6万円の割安な設定だった。これまで実施の3回は全て応募倍率は約10倍

 初回のフライトでは、一組最大3名までで6万円の価格設定であり、3名利用であれば一人2万円の料金となった。昨年10月のフライトでは、Go Toトラベルの対象商品になっていたことで実際の支払額では一人1万3000円(加えて3000円の地域共通クーポンも付与された)だった。

 この価格設定は、非常に割安感があるフライトで、「プラネタリウム」という付加価値が高いことを考えると安すぎるとフライト後に筆者は思ったほどだ。1回目が大成功に終わったことで、早速12月には2回の追加設定がされた。そして2回目は48組の募集に対して539組1293名の応募(倍率は約11倍)、3回目も48組の募集に対して500組1221名の応募(倍率は約10.4倍)となるなど、注目を集めている状況が続いている。

4回目のフライトを3月14日(日)に実施。最大3名で7万2000円の設定

 そして、4回目のフライトとして3月14日(日)に北九州空港発着でプラネタリウム鑑賞フライトが運航されることが決まった。北九州空港を19時30分に出発し、九州から四国上空を約1時間半フライトした後、21時15分に北九州空港に戻ってくる。1組あたり1名~3名で利用可能で28組の募集組数となっている。価格は1組7万2000円と従来のフライトと比べると値上がりしているが、3名で搭乗すれば一人あたり2万4000円となり、その価値は十分あるだろう。2月12日(金)より予約受付が開始されており、締め切りは2月19日(金)の17時までとなっている。先着順ではなく、締め切り後に抽選で当選者が発表されることになっている。スターフライヤー特設サイトなどから申し込みが可能だ。

スターフライヤーは全便、エアバスA320型機(150人乗り)で運航している。
スターフライヤーは全便、エアバスA320型機(150人乗り)で運航している。

羽田空港発着のプラネタリウム鑑賞フライトも現在計画中

 これだけ素晴らしいプラネタリウムフライトを是非羽田空港発着でも実施して欲しいという声も多くあがっている。当初は今年1月31日に「観光産業応援!プラネタリウムチャーターフライト」を開催し、新型コロナウイルスで経済的な影響を大きく受けている旅行・観光業界で働く人とその家族を応援する為に無料招待という形で実施されることになっていたが、2回目の緊急事態宣言が発令したことにより延期となってしまった。今後、羽田空港発着での一般お客様向けのプラネタリウム観賞フライトの実施へ向けてスターフライヤー社内では検討されているとのことで、夏休み頃までには実施される可能性は十分にあるだろう。

テーマパークに出かけるような感覚。新しいエンターテイメントに化ける可能性も

 飛行機の本来の役割というのは、出発地から目的地まで安全かつ定時に人や荷物を運ぶことであるが、新型コロナウイルスによって乗客が大きく減少している中、飛行機内で完結することができるエンターテイメントフライトを運航するという新しいビジネスモデルが確立された。運航実現までは様々な困難に直面したとのことだが、10月の最初のフライトから高いクオリティーでのフライトが実現でき、それが若手社員からのアイデアだったということも航空業界の中の人にとっても刺激を受けるものだったと思う。

 欲をいえば、毎週末実施し、機内で食事も提供しながらプラネタリウムを楽しむという新しい周遊フライトをコロナが収束した後も、一人でも、家族でも、カップルでも、友達でも幅広い年代で楽しめる新しい空のエンターテイメントとして運航を長期的に継続して欲しいと思う。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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