27年ぶり「地方の住宅地価上昇」。牽引したのはハウスメーカーだった
平成31年地価公示で、地方を含め全国的な地価上昇が認められた。その理由として、外国人観光客の増加が挙げられている。実際、浅草や北海道のニセコスキー場周辺で地価が上昇しているのは、外国人観光客や外国人スキー客が増えたことの影響だろう。
といっても、外国人観光客の増加で、京都、金沢など地方の一部商業地で地価が上昇していることは、昨年の地価公示でも認められていた。今回、注目すべきは、地方の商業地だけでなく、住宅地でも地価上昇が起きたこと。「27年ぶりの上昇」とされているが、それは、地方都市の「住宅地価」上昇が27年ぶりであるという意味だ。
地方の住宅地はバブル崩壊以降、下がり続けていた。下がり続けて、なかにはタダでも引き取り手のない土地も生じ、過疎化が深刻な問題になっている。そんな“負動産”とも呼ばれる土地に地価上昇が見られた。いわば、地方の地価回復、という点に注目すべきなのである。
では、どんな住宅地で地価が上昇したのか。
ひとつは、観光地やスキー場に隣接する住宅地。観光地やスキー場で働く従業員、工事関係者が住居を構える場所だ。これは、外国人観光客増加に付随した動きといえる。
もうひとつ、一部県庁所在地など地方の中心地に位置する住宅地でも地価上昇が見られる。こちらは外国人観光客の増加とは関係ない。日本人が地方の住宅地価を押し上げたのだ。
東日本大震災以降、地方マンションの人気が上昇
今回の公示地価で、沖縄県は前年比13.24%の上昇を示した。福岡県は同10.25%の上昇、北海道は9.39%の上昇。いずれも、近年マンション建設が盛んな場所だ。これらの地域で新築分譲マンションが増え出したのは2011年の東日本大震災以降。首都圏で、分譲マンションの売れ行きが大幅に下がった時期からだ。
本来、マンションは東京や大阪を中心にした大都市圏で盛んに建設されるもの。地方都市は、一戸建てが主体になる場所だった。しかし、東日本大震災以降、地震の心配が少なく、原発もない沖縄や北海道でマンションをセカンドハウスとして購入する人が増えた。それだけでなく、地方においても不便な場所の一戸建てから便利な中心地のマンションに住み替える動きが出てきたし、北海道では雪下ろしの面倒がない、沖縄では台風の影響が少ないことなども地方でのマンション人気を後押しした。
地方のマンション分譲を地道に続けたハウスメーカー
地方でマンションが売れるようになったとき、積極的にマンションを開発したのはハウスメーカー。代表は、「ダイワ・ハウチュ」などのテレビCMでお馴染みの大和ハウス工業だった。同社はハウスメーカーであり、マンションデベロッパーでもある。
地方都市でのマンション分譲は、「これからは地方だ」という理由だけで簡単にできるものではない。地元の土地オーナーや行政との信頼関係ができていないと、用地の取得や周辺との折衝がままならないからだ。
ところが、マンションを多く手がける大手不動産会社のなかには、バブル崩壊以降、地方での活動を縮小したり、地方から撤退するところが多かった。その点、ハウスメーカーは全国で一戸建ての建物を売るため、地方での活動を地道に継続。強い結びつきを形成し、地元の人が憧れるような場所でのマンション開発を続けてきた。
例を挙げると、大和ハウス工業が沖縄・那覇の新都心地区で開発したリュークスタワー(他2社との共同事業)や北海道の札幌駅近くで地下街に直結したマンションとして開発したD'グラフォート札幌ステーションタワーがある。
いずれも中古市場で大幅な値上がりを示す超人気マンションだ。
冒頭の写真に掲げたプレミスト札幌ターミナルタワーも、大和ハウス工業が分譲したマンション。そして、現在、中古市場で大きく値上がりしているマンションである。
地方のマンションブームは一過性の気配も
地方都市で東日本大震災以降、真っ先にマンションが増えたのは宮城県の仙台市だった。地震で家を失った人たちが安全で安心なマンションを求めたからだ。その宮城県は地価が上昇しすぎた反動だろうか、今回の地価公示でマイナス17.49%の下落を示した。
同様にマンション価格が上昇し続けた広島県もマイナス11.24%の下落。東京や大阪のように人口が多くない地方都市では、需要がしぼむのも早い。地方都市における住宅地の値上がりは一時の出来事になる可能性も秘めている。