「失恋も等身大で伝えられるようになりました」デビュー11年、東京女子流が20代半ばで新境地のシングル
デビュー10周年のアニバーサリーイヤーを終えて、新たなステージに入った東京女子流。ローティーンだった4人も今や20代半ば。ニューシングル『ストロベリーフロート』は待ちぼうけで実感した失恋、カップリングの『ガールズトーク』では年下男性への愚痴を歌っている。“ヒミツ”をテーマにしたというこの作品について聞くインタビューは、女子会のおしゃべりのようになった。
恋愛感情は楽曲から段階を踏んで学びました
――前回の取材が1月で、ひとみさんは大学の卒論でてんてこ舞いのようでしたが、無事に卒業しました。
新井ひとみ 4年で卒業できて、本当に良かったです。卒論は去年から書き始めていたんですけど、学校がオンライン授業になってしまって、図書館も開いてなかったんです。一番大切な資料集めで本を借りることができなくて、苦戦して最後の最後まで汗汗しながら、ギリギリに提出しました。
――松田聖子さんをテーマにしたんでしたっけ?
新井 そうです。80年代の松田聖子さんと70年代の山口百恵さんについて、歌詞や状況を対比して書かせていただきました。
――その取材では、東京女子流の活動について「2~3年後のことまでみんなで共有して、逆算して今のテーマがある」とのお話もありました。そういう意味で、デビュー11周年を経たシングル『ストロベリーフロート』では、どんなことを目指したんですか?
庄司芽生 私たちの年齢が上がって、過去の曲の主人公にもだんだん追い付いてきた中で、新曲はより等身大で、今の年齢だから伝えられるものをテーマにしました。
中江友梨 曲調は明るいんですけど、中身は絶妙な失恋ソング(笑)。私たちもそういうことがわかるようになりました。恋愛感情について、私たちは女子流の楽曲で学んできたところがすごくあるんです。年齢を重ねながら段階を踏んで、『ストロベリーフロート』も昔だったら意味がわからなかったと思うんですけど、今だと情景も浮かびます。
山邊未夢 「ああ、わかる」みたいなところはめっちゃありますね。曲によって主人公が違って、『光るよ』ならファンの人に向けているから、ライブでも自分のままで歌いますけど、恋愛系だと演じるスイッチをパッと入れる感じです。
“大事な用事”に自分が入らないのは切なくて
――『ストロベリーフロート』での、カフェで待ちぼうけをくらって、いろいろ思い出しながら恋の終わりを実感する状況に、リアリティを感じますか?
庄司 友だちから恋愛相談を受けていて、お年ごろの女の子はこういう道を通るのかなと思っていたので、この歌詞の世界観もスーッと理解できました。主人公の子にアドバイスをしてあげたいくらい(笑)。<どんなカタチでも愛であればそれでよかったのに>と言ってますけど、「本当にそれでいいの?」って。まだ相手のことを好きで、いろいろな想いがあるみたいですけど、「もっといい人がいるから前に進もう」と言ってあげたいです。
――ひとみさんはキャンパスでこういう話を見聞きしたり?
新井 私はあまり相談されないタイプなんです。「ひとみはわからないよね」って(笑)。自分はそういう話が気になっていたんですけど。でも、恋愛系の少女マンガは大好きで、こういう情景はよく見ていたので、苦労せず主人公に入り込むことができました。
――歌詞には“大事な用事がある”と言われたくだりもありますね。私のことは大事じゃないのか……と思い知らされるような。
新井 許せないですね。
中江 ひとみは怒ってます(笑)。でも、そこは表現としてはわかりやすいと思います。相手が大事にしているものの中に自分がいたはずなのに、もうそこから消されてしまって、この場に来てくれない。切ない想いが伝わります。
新井 しかも、たぶん、なあなあにされているんです。女性の扱いがすごく雑だと思います。<真面目な時計が夕暮れを知らせた>とあるから、きっと結構な時間を待っていたのに、連絡くらいはちゃんと入れてほしい(笑)。
なあなあで続いても意味がないので
――これ、何時間くらい待っていたイメージですか?
中江 3~4時間は待っていたと思います。昼くらいにカフェに入って、「来ないな」と思いながら、「もう4時か……」みたいな。紅茶はもう空で、ストロベリーフロートもたぶんグチャグチャに溶けちゃったんでしょうね。
山邊 絶対グラスからアイスがこぼれているよね。
新井 一緒に飲みたかったんだろうな……。
庄司 何か悲しくなってきました(笑)。だって、ストロベリーフロートって見た目がかわいいし、最初はときめいていたと思うんです。なのに、ずっと待っているうちに、目の前でグチャグチャになっていって……。
――この男性には“言われなくちゃわからないよ”とも言われていて。
新井 本当はわかっていて“言われなくちゃわからない”と言っていると思うんですよね。こっちに言わそうとしているってこと? それもちょっとズルいなって、腹が立ちます(笑)。
山邊 私はこの男の人はめちゃめちゃだらしない印象があります(笑)。連絡もしないし、自分勝手。女の子が振り回されているのをすごく感じます。私が友だちだったら、絶対「早く別れなよ!」と言っちゃう(笑)。でも、わずかな望みをかけて待っているのが切ないし、こういう女の子もいっぱいいるから、共感できる部分も多いでしょうね。
中江 私はラストサビの<どんなカタチでも飲み込めば続きはするでしょう>に、グッとくるものがありました。確かに、会いにきてくれなくても、なあなあにされても、自分が我慢すればいちおう続く。でも、それじゃ何の意味もないこともわかっていて。もう2人の想いや関係は元に戻らない。それで<席を立とう “キミ”をぜんぶ残して>というところで全部が繋がって、一気に切なく落とされました。
かわいさプラスの濃いめの味付けで歌ってます(笑)
――そういう歌詞でありつつ、曲調はシャレていてカッコいい感じです。大枠ではそういう曲を女子流は今までも歌ってきましたが、今回はその延長という感覚ですか? 新しさがありましたか?
庄司 私的には、女子流の曲の中ではポップかなと思っています。すごく耳に残りやすくて、初めて聴いたときからノレて。歌詞は結構ドロドロですけど、曲調がうまく中和してくれて、聴くと逆に高まってくる。バランス感がすごくいい具合です。
山邊 私は普段から、こういうかわいらしい曲も聴いているので、「女子流でできるんだ。自分もステージで歌えるんだ」と、すごくうれしくなりました。
中江 今、女子会のように「切ない」とか「許せない」という話が出ましたけど、女性は結局強いと思うんです。1曲を通すと、最後は立ち直ろうとしている。失恋ソングでも明るい曲調だし、せっかく夏にリリースするので、涼しく聴いていただけるように歌いました。
――歌ではストロベリーフロート感も意識しました? 甘く冷たくというか。
庄司 レコーディングで一番言われたのが「味付け濃いめで」と(笑)。かわいらしさも切ないニュアンスもプラスする。そのバランス感をディレクターさんとやり取りしながら「もっと濃いめで」と言われてました(笑)。
新井 サビとかはテンポを大切にして、音を切ってるところもたくさんあって、跳ねる感じを意識しました。仮歌をもらってから、1人ずつ練習をやらせていただいて、レコーディングでは頭で考えるのでなく、体で感じたものを出すように歌いました。
山邊 曲の世界観的にやさしさを出したほうがいいということで、いつもの歌い方よりは柔らかい感じにしました。地声よりミックスボイスを使っています。
お姫様のカーテンを蚊除けかと思って(笑)
――MVではドラマパートをひとみさんが演じています。
新井 手紙や写真を破って捨てたり、スローモーションになる感じで早口でリップシーンを撮ったり。歌詞の世界観に入りやすいように、「待っているんだけど、まだ来ないな……」という雰囲気作りはしました。でも、目の前においしそうなストロベリーフロートがあったんですよ。
中江 甘ーい、いい匂いがしてました。
新井 撮り終わったあとに、イチゴを食べさせてもらいました(笑)。
中江 とにかく絵面がかわいかったです。
新井 セットがピンクで、こういう部屋に住んでいたら、THE女の子って感じになるなと思いました。
――実際のひとみさんの部屋は違うんですか?
新井 白がメインです。でも、タンスはお姫様っぽい雰囲気で、ベッドもそんな感じです。
――天蓋が付いていたり?
新井 それはないんですけど、端っこが全部クルンとなってます(笑)。
中江 お姫様の部屋には一度は憧れますよね。ディズニープリンセスの映画を観ていた時期は、「このカーテンいいな」とかすごく思ってました。
山邊 友だちの家のベッドに天蓋が付いていて、私はプリンセスの映画とか観ないからわからなくて、蚊が入らないようにしているのかと思ってました(笑)。
――逆に、昭和にあった蚊帳をよく知ってましたね(笑)。
山邊 ドラマとかに出てくるので。
中江 『となりのトトロ』にも出てきます。
山邊 あれとお姫様カーテンは違いますけど、ちょっと似てるじゃないですか(笑)。
新井 私がほしいのはフリフリのほうです(笑)。
お姉さん目線で歌のトーンを下げて
――カップリングの『ガールズトーク』は、年下の男性からアプローチを受けている歌。曲の中で先生を好きになったりしていた皆さんも、大人になりましたね(笑)。
山邊 年を重ねたなと思います(笑)。先生に憧れる『Partition Love』とかは、今歌う良さもありますけど、新曲でああいうのを出すのは違うじゃないですか。年下の男の子のことを歌うのは、自分たちが大人になった証でもありますし、実際に私の友だちは2つ年下とつき合ってます。
中江 2歳差って、結構下に感じますね。
庄司 20歳になりたてとかだと「大丈夫?」と思っちゃう(笑)。
中江 女子流の曲は今まで、背伸びしている女の子を演じて歌ってきましたけど、『ガールズトーク』は私たちがお姉さん目線で、年下の子に「あなたにはまだわからないでしょうね」と語っていて、新しい感覚でした。ラップの部分なんて、完全に女子会でグチっているのを表現していて、楽しいです。
――歌もお姉さんっぽくしたんですか?
山邊 いつもより1トーンくらい下げつつ、暗くなりすぎないように声質は明るめにすることに気をつけました。
新井 声の出し方はちょっと迷いました。ちょっと強めで歌うか、柔らかいけどしなやかにするのか。結局、強くてもガツンといくのでない、ミックスした感じになりました。
中江 私もトーンをちょっと落として歌いました。何せこっちがお姉さんなので(笑)。とはいえ、余裕があるわけでもなくて、「私の努力はわからないでしょうね」とグチを言ってる感じ。トーンは落としても抑揚は付けながら、元気いっぱいにもならないように、大人のお姉さんが「ちょっと聞いてよ」と言っているのをイメージしました。
盛り上がる話題は韓国のパンです(笑)
――冒頭には皆さんのガールズトークが入ってますね。
山邊 4人でブースに入って、フリーでワチャワチャしゃべりました。
中江 「あれはないよね」みたいな話を、リアルな声のトーンで。男性には、「女性だけの話を聞いてしまってヤバイ」という感覚を味わってほしいです。
――女子流で実際そういうトークをすることも?
庄司 私たちはもっとポップというか(笑)、「最近食べたあれがおいしかった」みたいな話が多いかもしれません。
山邊 恋愛の話はあまりしないですね。
中江 でも、理想を話したりはします。同じ恋愛ドラマを観ていたら、「あのシーンはグッときたね」とか「私はこうされたほうがいい」とか。
――そんな中で一番盛り上げる話題は?
新井 マヌルパン(笑)?
山邊 韓国から来た丸いパンで、中にクリームチーズがたっぷり入っていて、ガーリックソースでヒタヒタにしていて。それが「おいしそうだね」と話してました。
新井 恵比寿とかのお店で期間限定で売られていたんです。それを未夢が食べたと言って「エーッ!?」となりました。
山邊 めちゃくちゃおいしかったです。
中江 コロナがあって遠出ができない分、食がより生活の楽しみになっていて。「あれ知ってる?」みたいな情報を交換し合ってます。
ラップで舌の動きが間に合わなくて
――『ガールズトーク』ではラップが随所に織り込まれています。友梨さんは得意ですよね?
中江 いや、難しかったです。特に最後のラップはめちゃくちゃ忙しいんです。1人ずつ入れ替わって、さっき言った<知らない努力を私はしてる>とか、4人でグチっている真っ最中(笑)。
新井 <そんなことアナタは気づかないでしょ>のニュアンスにちょっと苦戦しました。問い掛けているけど「気づかないでしょう?」と上げて切るのでなく、「気づかないでしょ、ハハン」みたいに下げるのが難しくて。
庄司 私が歌っている<頭ポンポンとかしちゃってさ>みたいな言い回しも新鮮でした。ため息交じりに「ハーッ、もう!」みたいなニュアンスを意識しました。
山邊 私は滑舌は良くなってきましたけど、たぶん舌がちょっと弱くて。普通にしゃべっていても、早口になると舌が上下するのが間に合わないなんです。なので、<言い訳ばっかしてんな 女心わかってないね>から結構大変でした。
中江 今回のラップは速い分、無意識に一直線に続けて言っちゃうんです。そうすると淡々と聞こえてしまうから、<あなたの言葉にトキメかない 心は揺らがない>とちゃんと感情を入れないといけなくて。テンポによって抑揚を付けるのも苦戦して、家で練習してレコーディングに挑みました。
電気、ガス、女子流みたいなインフラになれたら
――東京女子流は未夢さんから順に20代後半に入っていきます。この年代で成し遂げたいことはありますか?
山邊 日本武道館にまた立ちたいと言い続けてますけど、まだ行ける状況になってなくて。夢で終わらせず、ちゃんと現実にできるように、ファンの皆さんと一緒に突っ走っていきたいです。あと、これも昔から言ってますけど、もっと大きくなったら、ワールドツアーもできるようになりたいです。
中江 現状で女子流のことをもっと知ってもらうために、自分たちから対等な目線で語り掛けていきたいと思っています。今は直接コミュニケーションをできる場が少ないですけど、SNSなどで伝えることは20代後半で強化していきたいです。私たちから好きになってほしい気持ちや、「こんな私たちはどうですか?」ともっと発信できたら。個人的にはおしゃべりが好きなので、人と人を繋げたり、「こういうことです」と紹介するお仕事をいつかできたらと思っていて。そのためには日本語をもっとちゃんと話せないといけないんですけど(笑)。
――友梨さんはオフィシャルチャレンジで英語の勉強をしていますよね?
中江 日本語の前に英語の勉強を始めてしまいましたけど(笑)、日本語ももっと頑張りたいです。
庄司 今年に入ってようやく有観客のライブを定期的にできるようになって、曲も今までよりはハイペースで発信させていただいてるので、女子流自体が皆さんのインフラになったらいいなと思います。電気、ガス、水道、女子流、みたいな(笑)。
中江 それはいいね。
庄司 女子流の曲を聴くと元気になって、聴かないと調子が出ないくらい、皆さんの元へちゃんと届くグループになれたら。電気やガスを超えるくらいの勢いでいきたいです(笑)。
新井 今、女子流を応援してくれている皆さんに感謝しつつ、同世代やその他の皆さんにもどんどんアプローチをかけて、楽曲を通して知ってくれる方が増えたらいいなと思います。
――最年少のひとみさんは、より大人になりたいとは?
新井 そんなに思いません(笑)。ずっと子どもでいたいくらいですけど、それも無理なので、自分なりに頑張ります。
東京女子流
2010年1月1日に結成。同年5月にデビューシングル「キラリ☆」を発売。2012年12月には初の日本武道館公演を開催。当時平均年齢15歳で、女性グループの最年少記録だった。台湾や香港など海外各地でのライブも重ねた。
『ストロベリーフロート』
8月18日発売
ミュージックカード 1320円(税込)
ミュージックカード+熱伝導アイススプーン 2750円(税込)*数量限定