耐震基準で考える地震荷重はなぜ地域で異なるか?
最低基準の耐震基準
先にも述べましたが、建築基準法では、建築物の構造について最低の基準しか定めていません。このため、我が国の耐震基準は、頻度高く起きる地震に対して人命を守ることを基本にしています。千年に一回のような滅多に起きない地震に対してまで、生存権を保証している訳ではないと思われます。
マグニチュードと地盤の揺れ
地震の時の地盤の揺れは、一般に、地震の規模が大きいほど、地震の震源域から近いほど大きくなります。地震規模(マグニチュード)が1つ大きくなると、放出エネルギーは約30倍、震源域の面積は約10倍、揺れの強さは約3倍になります。マグニチュードが大きいほど、長周期の揺れがたっぷり震源から放出され、揺れの継続時間が長くなります。
震源域からの距離と地盤の揺れ
地震波は震源域から四方八方に放出されますから、揺れの強さは震源域から離れるに従って小さくなります。一般に、距離の逆比例で減少すると言われています。ただし、距離が近いところでは頭打ちになります。マグニチュードが大きな地震では、震源域が広大になりますから、震源域からの距離が小さくなる場所も広域になります。
地盤の震度と揺れ方
揺れの強さが3倍になると、震度が1大きくなります。従って、ざっくり言うと、マグニチュードが1つ大きくなると震度が1大きくなり、距離が3倍離れると震度1小さくなります。
動画は、熊本地震で観測された揺れを比較したものです。益城町、西原村、南阿蘇村・中松、阿蘇市・一宮、宇土市の揺れを見比べてみてください。同じ地震でも場所によって揺れ方に大きな差があります。
また、もう一つの動画は、震度7の揺れを記録した、兵庫県南部地震の鷹取、中越地震の川口町と小千谷市、東北地方太平洋沖地震の築館の揺れを比較したものです。益城町や西原村の揺れと比べてみてください。マグニチュード9と地震規模の大きな東北地方太平洋沖地震の揺れと、マグニチュード7クラスの活断層近傍の揺れの違いがよく分かります。
地震の発生回数
地震の起きる回数は、同じ地域であれば、マグニチュードが1大きいと1/10程度になると言われています(グーテンベルグ・リヒター則)。
また、我が国は、4枚のプレートが接し合う場所に位置するため、東北地方太平洋岸では太平洋プレートと北アメリカプレート、静岡以西の西日本の太平洋岸では、フィリピン海プレートとユーラシアプレートのプレート境界で、数十年から二百年くらいの間隔でマグニチュード8クラスの地震を繰り返し発生させてきました。また、日本列島の内陸部には、プレート運動に伴う副次的な歪みの蓄積により、数多くの活断層が存在し、概ね千年以上の間隔で地震を発生させてきました。
関東地震や東北地方太平洋沖地震、東海地震・東南海地震・南海地震などの南海トラフ地震がプレート境界地震、濃尾地震、兵庫県南部地震、熊本地震などが活断層の活動による地震です。
地震地域係数
建築基準で用いている地震地域係数は、有史以来の古文書に記された地震に基づいて、将来の地震の揺れを確率論的に求めた結果を参考に定めています。とは言え、文書に残された我が国の歴史は1300年ほどに限られており、資料の量にも地域差が大きく、京都を始め長い歴史を有する地域の地震データが多いのが現状です。また、最低基準としての耐震基準故、建物の供用期間を念頭に、数百年以内で繰り返す地震が主たる対象となります。その結果、プレート境界地震の影響の大きな場所のリスクを高くした、図のような地震地域係数マップが使われています。
上に述べましたように、内陸の活断層に比べプレート境界地震の方が、活動度が高いのですが、活断層は内陸直下に存在し震源域までの距離が近いため、断層近傍では揺れの強さは遙かに大きくなります。すなわち、プレート境界地震は高頻度ですがやや揺れが小さく、活断層による地震は低頻度ですが揺れが強いということになります。
このように、現行の地震地域係数には、強い揺れをもたらす活断層の影響が余り加味されていないことになります。これは、官公庁のように大災害後でも、業務を継続すべき重要拠点に関しては、具合が悪いことになります。むしろ、活断層近傍では、地震本部が公表する活断層の長期評価結果などを参考にして、地震地域係数を割りますような考え方を採用すべきだと思われます。