Yahoo!ニュース

SAPHO症候群の最新治療法 - 皮膚と骨の炎症を抑える薬とは

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

SAPHO症候群の最新治療法 - 皮膚と骨の炎症を抑える薬とは

今回は、皮膚と骨に炎症を起こすSAPHO症候群について、最新の治療法をご紹介します。

SAPHO症候群は、関節炎(Synovitis)、ニキビ(Acne)、膿疱(Pustulosis)、過骨症(Hyperostosis)、骨炎(Osteitis)を特徴とする稀な慢性炎症性疾患です。皮膚と骨の両方に症状が現れ、慢性的な経過をたどります。確立された診断基準や治療法がなく、患者さんのQOL(生活の質)を大きく損ねる難治性の病気です。

【SAPHO症候群の治療に用いられる薬剤】

SAPHO症候群の治療には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、ビスホスホネート製剤、従来型の抗リウマチ薬(cDMARDs)、生物学的製剤(bDMARDs)などが使われています。

NSAIDsは鎮痛効果により症状を緩和しますが、骨病変が広範な場合や皮膚炎症に対する効果は限定的です。ビスホスホネート製剤は骨吸収を抑制し、特に骨の炎症と疼痛に優れた効果を示します。一方、皮膚症状への効果は一定しません。

cDMARDsのメトトレキサートは骨と皮膚の両方に一定の効果が報告されていますが、サラゾスルファピリジンの効果は限られています。bDMARDsの中では、TNF阻害薬が骨炎症と皮膚症状の両面で良好な結果を示しています。IL-17阻害薬やIL-12/23阻害薬は現時点では有効性が乏しいようです。

【SAPHO症候群の皮膚症状に対する新たな治療選択肢】

皮膚症状に悩む患者さんにとって朗報となるのが、JAK阻害薬のトファシチニブです。中国からの最新の報告では、爪病変、掌蹠膿疱症、それに伴うQOLの著明な改善が示されました。関節症状への効果は不明ですが、皮膚症状でお困りの方には新たな選択肢になるかもしれません。残念がら日本ではSAPHO症候群に対してJAK阻害薬の適応はありません。今後の臨床開発が待たれます。

【SAPHO症候群の治療における課題と今後の展望】

SAPHO症候群の治療は、症状に応じて薬剤を組み合わせるのが一般的ですが、明確なエビデンスに基づいた治療指針は確立されていません。またアウトカムの定義も研究により異なるため、治療効果の比較が難しい状況です。

今後は、国際的に統一した診断基準やアウトカムの設定、大規模な無作為化比較試験(RCT)の実施により、治療選択の最適化が期待されます。同時に、病態解明を進め、炎症の原因となる免疫異常を標的とした新たな治療法の開発が望まれます。

SAPHO症候群は皮膚と骨の難治性疾患ですが、最新の知見を取り入れながら、患者さん一人一人に合わせた治療を進めることが大切だと考えます。皮膚科医として、エビデンスの構築と新たな治療法の確立に貢献していきたいと思います。

参考文献:

Li SWS et al., Treatment and monitoring of SAPHO syndrome: a systematic review. RMD Open. 2023;9(2):e003688. doi: 10.1136/rmdopen-2023-003688.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

大塚篤司の最近の記事