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首都圏マンションの2020年平均価格が、バブル期に次ぐ価格水準になった本当の理由

櫻井幸雄住宅評論家
マンション価格上昇と聞くと、都心物件が値上がりしていると思われがちだ。筆者撮影

 1月25日、不動産経済研究所が「首都圏マンション市場動向―2020年まとめー」を発表した。

 それによると、首都圏で販売された新築マンションの1戸あたり平均価格が6084万円となり、バブル期の1990年の6123万円に次ぐ過去2番目の水準となった。

 この数字だけをみると、コロナ禍が起きた2020年、首都圏のマンションは大きく値上がりし、バブル状態になっていると思われがちだ。

 コロナ禍でバブルとは不思議な現象である。自分の周囲に、そのように景気のよい話はない。だから、マンションの価格をつり上げているのは一部のお金持ちと投資家、日本の不動産に投資をしたい外国人だろう……そのように想像したくなってしまう。

 実際は、どうなのだろう。

 「数字は嘘をつかない」とされるが、数字によって間違った分析が導き出されてしまうこともある。そのような過ちを防ぐためには、現場取材で数字の裏付けを行う作業が必要だ。

 そこで、「新築マンションの1戸あたり平均価格が6084万円となり、バブル期の1990年の6123万円に次ぐ過去2番目の水準となった」ことを、現場取材による裏付けとともに解説してみたい。

バブルの象徴・億ションは増えているのか

 平成初期のバブル期、首都圏の都心部(主に山手線の内側エリア)では億ションが続出し、それがマンションの平均価格を押し上げた。

 今回、「バブル期に次ぐ過去2番目の水準」とされることから、都心部で億ションが増えたと考える人がいるかもしれない。しかし、現場を取材している限り、億ションの販売が増えた事実はない。

 じつは、25日に発表された不動産経済研究所の「2020年のまとめ」でも、億ションに関する記述がある。引用すると、「億ションは1823 戸。前年(1866 戸)比43戸(2.3%)の減少。過去最多は 1990 年の3079 戸」とされている。

 バブル期の1990年に3079戸分譲された億ションは、昨年1823戸しか分譲されず、前年から43戸減った。億ションは少なくなっているので、富裕層や投資家が買いあさっている、という状況はない。

 では、どんな場所のマンションが価格上昇を示しているのか。

 現場取材でマンション価格の上昇を感じるのは、23区内で山手線の外側エリアだ。

 コロナ禍による家時間の増加で、昨年6月から7月にかけては郊外のマンションや一戸建ての売れ行きがよくなった。

 しかし、その後、テレワークの広まり方が限定的であることから、「やはり、通勤に便利な場所に住みたい」と都心寄りの場所に人気がシフト。23区内で価格が抑えられ、まあまあ広めのマンション住戸が購入しやすい場所として、江東区の南砂町や亀戸、足立区の北千住、北区の王子などで多少駅から離れた立地のマンションが勢いよく売れ始めた。

 それに伴い、23区内で山手線外側エリアでは、新築マンション分譲価格の上昇が顕著となった。それが、首都圏のマンション価格を押し上げたと考えるのが順当だろう。

 不動産経済研究所の「2020年のまとめ」でも、東京都区部の価格上昇が著しく大きいことが認められている。東京都区部の平均価格は前年比5.8%の上昇。1平米あたりの価格では、前年比11.4%の上昇で、都下・神奈川・埼玉・千葉を大きく引き離している。

 東京都区部といっても、山手線内側エリアは物件数が減っている。物件が増えている「23区内で山手線外側エリア」が首都圏全体の平均価格を引き上げていることは明らかだ。

忘れてはならない、バブル以降最低水準の供給戸数

 不動産経済研究所の「2020年のまとめ」で、もうひとつ注目したいのは、昨年1年間の供給戸数。昨年、首都圏で供給されたマンションの戸数は、2万7228戸。驚くほどの少なさとされた2019年の3万1238戸より4010戸も少なく、前年比12.8%の減少となった。

 驚くほど少なかった昨年より、さらに減り、バブル期の1990年以降最低の水準だったのだから、もはやあきれるしかない。が、それはコロナ禍の影響なので、仕方がないだろう。

 不動産会社各社は、昨年販売開始する予定だったマンションのいくつかを販売延期としている。そのなか、予定通り販売されたのは、「この立地なら、コロナ禍の現在も購入者がいるはず」と考えられた場所。そのひとつが、23区内で山手線外側エリアだった。

 23区内の山手線外側エリアで現在分譲されている新築マンションは、3LDKで6000万円から7000万円程度のものが多い。今回発表された首都圏の平均分譲価格は6084万円となっており、この平均価格よりも少し高い価格水準のマンションが23区内の山手線外側エリアで多く売り出され、平均価格を押し上げたわけだ。

 コロナ禍の2020年、首都圏のマンション平均価格はバブル期並に高くなった。それは事実であるが、決して、都心部で超高額のマンションが増えたわけではない。

 全体的な供給戸数が減る中、コロナ禍でも売れそうな「23区内で山手線外側エリア」のマンションを集中的に売り出した結果、平均価格が押し上げられたと考えるべきなのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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