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小野伸二を超える衝撃。鹿島の 「和製クライフ」安部裕葵は代表でイケる

杉山茂樹スポーツライター
(写真:築田 純/アフロスポーツ)

W杯出場を決めた今、代表で試してほしい選手

安部裕葵(FW/鹿島アントラーズ)

 こちらの目を釘付けにした高卒ルーキーは、19年前にも存在した。1998年、浦和レッズに入団した小野伸二(現コンサドーレ札幌)だ。

 プレシーズンマッチだったと記憶する。時の中心選手、ゼリコ・ペトロヴィッチがFKを蹴ろうと助走を始めた瞬間だった。ボールの反対側に位置していた小野も同時に助走を開始したのだ。

 セビージャ(スペイン)、PSV(オランダ)などで実績を残してきたペトロヴィッチと、18歳の新人が瞬間、ボールを挟んでぶつかりそうになったこのシーン。若造の無粋なプレーを見た、という印象ではなかった。

 FKを蹴る選手がチームで1、2を争う”業師(わざし)”だとすれば、小野にはその資格が十分にあった。プレーの中で、これまでの日本人選手からは拝(おが)んだこともない、別次元の技巧を涼しげに披露。見る側にたっぷりと衝撃を与えていたからだ。

 日本代表のサッカーを面白くさせるためにも不可欠な選手だとの思いが叶ったのは、そのすぐあとだった。時の代表監督、岡田武史氏は、1998年フランスW杯の最終メンバーに彼の名前を加えたのだった。

 ハリルジャパンのサッカーは正直、あまり面白くない。パスがつながらないとか、縦に速すぎるとか、いろいろ囁かれているが、こちらの気分を高揚させてくれる、見ていて楽しい新鮮味あふれる選手がいないことも、その大きな理由のひとつだ。従来の日本選手像を覆(くつがえ)すような若手こそが、日本代表のみならず日本サッカー界に不足している一番のポイントだと思う。

 もっとも小野の場合は、高校時代から知られた存在だった。天才的な選手だと騒がれていた。先述のプレシーズンマッチ観戦も、そうした予備知識に基づいていた。たまたま見に行った試合で、偶然、凄い新人に出くわしたわけではない。

 鹿島アントラーズのFW安部裕葵(あべ・ひろき)との違いは、そこだ。

 年代別の代表に選ばれず、日本サッカー協会からさほどマークされてこなかった選手だ。瀬戸内高校(広島)時代、ベスト8入りした高校総体で活躍した選手。肩書きはこれだけに過ぎない。

 Jリーグデビューは4月1日(第5節)。大宮アルディージャとのアウェー戦だった。後半29分から登場。ロスタイムを含めてもわずか20分のプレーに過ぎなかったが、こちらの目は奪われっぱなしだった。なんだこの選手は……。突然の出来事だったので、小野伸二のときより衝撃的だった。

 鹿島はJリーグチャンピオン。敷居の高いチームのはずだ。そのチームで、つい先日入団したばかりの知名度の低い高卒ルーキーが、舞台を圧倒するようなプレーを繰り広げる光景に、こちらのサッカーマインドは思い切り触発された。この選手は”いける”と確信した瞬間でもあった。

 5月から6月にかけて韓国で開催されたU−20W杯。内山篤監督率いるU-20日本代表チームに、その名前は存在しなかった。名前を見つけたのは、その時期に並行して開催されたトゥーロン国際に臨んだU−19日本代表のほうだった。U−20W杯に挑んだチームを1軍とするなら、影山雅永監督率いるこちらはいわば2軍だ。

 そして、1軍と2軍を精査し束ねたチームは7月、カンボジアで開催された2018年U−23アジア選手権予選に臨んだ。このチームを土台にして東京五輪に向かうそうだが、そこに安部の名前はなかった。

 一方、同じ7月、スペインの強豪セビージャと親善試合を行なった鹿島。0-0で迎えた後半17分に登場した安部は、その10分後、観衆を魅了するビッグプレーを披露する。

 右サイドでボールを受けるや、セビージャの名手MFスティーヴン・エンゾンジを深々とした切り返しで一瞬にしてかわすと、その足で前進。DFクレマン・ラングレのスライディングタックルをかわし、前進を阻止しようと最後尾で構えるDFセバスティアン・コルシアが迫ると、今度はいわゆるダブルタッチでこれまたきれいにかわす。最後は、ゴール前に走り込んできたFW鈴木優磨にソフトタッチのラストパスを配球。鹿島の先制ゴールをアシストした。

 この日、両軍選手が魅せたアクションの中で、断トツ一番のビッグプレー。試合後、マン・オブ・ザ・マッチに選ばれたのは当然の結果だった。

 19年前の小野がそうであったように、強固なディフェンダーを目の前にしても自信満々。その雰囲気や様子は、動きのシルエットの中に表れている。期待感を存分に抱かせる18歳の新人。日本代表としても十分に”いける”と確信した瞬間でもある。

 古いたとえで言えば、牛若丸。小さくて俊敏。動きが軽々としていてケレン味がない。表情、面構えもいい。相手に対する優位性がそこに滲(にじ)み出ている。技術的にも文句なし。右足も左足も使えるうえに、ポジション的にも万能型だ。

 この世代の選手では、MF堂安律(フローニンゲン/オランダ)を推す声が大きいが、プレーに余裕があるのは安部。U−20代表には、楽々選ばれていなければならない”大物”だ。だから余計に、日本サッカー協会の指導者の目を思いっ切り疑いたくなる。

 プレーがポップで臭みがないし、アイデア、企画力もある。イケているのだ、全体的に。

 どこかで「和製ディバラ」と紹介されていたが、僕はズバリ、「和製クライフ」と言いたくなる。クライフよりサイズは小さめながら、彼に似たカリスマ、大胆さが安部にはある。なにより見ていて楽しい。サッカーという競技をより面白い競技に見せてくれる選手だ。

 岡田監督は小野をW杯本大会に連れて行き、そして第3戦で起用した。時の技術委員会のメンバーから強い押しがあったからだと聞く。

 安部にはその手の援軍は期待できない。内山、影山両指導者の評価は思い切り低い。鹿島でスタメンとして常時出場しているわけではないが、それでもあえて、ここでプッシュしたくなる大きな理由だ。

 少なくとも、僕にとって安部裕葵はJリーグで一番見たい日本人選手だ。19年前の小野と同等のポジションにいる。

 代表に入れたい選手は他にもまだいるが、あえて言うなら安部が一番。日本サッカー界に活気や勢いを取り戻すためにも、現在この18歳の抜擢は不可欠だと思う。その力が彼にはあると僕は見るのだ。

(集英社 Web Sportiva 9月21日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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