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ロスタイムにはドラマが起こると期待して延長国会を見る

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(377)

水無月某日

 延長国会が幕を開けた。麻生副総理は延長国会をサッカーの「ロスタイム」に例え、失点しないよう緊張感を持つ必要を訴えたが、この「ロスタイム」がなければ安倍政権が国会に提出した重要法案は何も成立しない。失点どころか退陣を迫られるのだ。自らが望んだ「ロスタイム」であり、そこには時々ドラマが起こるリスクがある。

 これより前、先週18日の参議院決算委員会で共産党は独自に入手した国交省の内部文書を公表し、それによって「森友問題」の疑惑がさらに深まることになった。翌19日にはメディアに全く姿を見せなかった加計学園の加計孝太郎理事長が初めて会見を行い「記憶にない」を繰り返した。

 一方で目を海外に転ずれば、米朝首脳会談を受け韓国の文在寅大統領は21日に訪問先のロシア議会で、シベリア鉄道を北朝鮮経由で韓国の釜山にまで延伸する構想を打ち上げた。また米朝首脳会談を成功させた米国のトランプ大統領もボルトン補佐官をロシアに派遣して米ロ首脳会談の機会を探っている。

 25日付東京新聞朝刊には中国の習近平国家主席が北朝鮮の金正恩労働党委員長に対し、米朝首脳会談での朝鮮戦争の終結宣言見送りを促していたとの記事が掲載された。中国抜きの米朝接近を懸念したからである。一方の米国にも中朝接近を警戒する動きがある。金正恩はその米中を巧みに利用し、今や南北朝鮮を巡る大国の外交ゲームが活発化している。

 こうした内外の諸課題に安倍政権はどう対応するかを延長国会の幕開けに注目していたが、結論から言うと空しいほどに何もなかった。まるで肩透かしを食らった心境の今日の国会だった。7月22日までの長丁場をこんな感じで通し切れるのか。いささか考え込んでしまったフーテンである。

 共産党の入手した文書からは、安倍昭恵夫人付きの谷査恵子秘書官が森友学園の賃料を優遇するよう近畿財務局に要望していることが分かる。また文書には総理官邸が法務省に対し大阪地検の刑事処分を早めるよう「何度も巻きを入れている」との表現があり、官邸が法務省を通して大阪地検の捜査に介入した可能性を伺わせる。

 18日の決算委員会では安倍総理をはじめ関係大臣がいずれも質問の「事前通告」がなかったことを理由に答弁を拒否したが、それから1週間が経った今日も「どのようなものか全く承知していない」と文書を「怪文書」扱いにして無視する姿勢を貫いた。

 以前にも文科省内から「総理の意向」と記された文書が出てきた時に官房長官が「怪文書」扱いをし、それを前川喜平前事務次官が「あるものをないとは言えない」と告発したことがあった。すると官邸は前川氏の人格を否定する攻撃に切り替え、それが読売新聞の大チョンボ記事を生み出した。今回の文書も何かもう一つの要素を付け加えないと無視され続けることになるのかもしれない。

 加計孝太郎氏の会見は、それを見た大方の国民から顰蹙を買い、国会の証人喚問を「お待ちしています」と発言したことから野党は延長国会での証人喚問を求めている。しかしそれについても安倍総理は「コメントする立場にない」、「私は行政府の長としてこの場に立っている。証人喚問をどうこうできる権限はない」とこれまでと同様の決まり文句を連発して追及をはぐらかした。

 今国会では財務省の改ざんが明るみに出て行政府が立法府に嘘をついていた事実が明白になった。そのために国会は1年間も嘘の議論を繰り返してきたのである。先進国では考えられない事態だ。麻生副総理は「書類の改ざんは民間会社でもよくある話じゃないか」ととぼけたことを言ったが、国民の税金を使って行われる公務にそんなおとぼけは許されない。

 税金で仕事をする公務員であれば、それが上司の命令であっても書類を書き換えることなどやらないのが道理である。だから道理に合わない命令を受けて苦しみ自殺した職員がいた。それを考えれば嘘をつかれた立法府が行政府に激しい怒りをぶつけないことが不思議である。衆参の議長は何を考えているのか。このまま国会が終われば史上最も情けない立法府議長として名を遺すことになる。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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